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【10限目】 美術 : 水原先生

*ぴちゃんと先生 10限目*

ぴ『う〜ん、思い通りに描けないなぁ』

水『コンテスト作品ではないから自由に描いてね』

ぴ『ほんとに自由でいいん?』

水『えぇ、良いわよ』

ぴ『じゃあ、ここ白でちょっと塗り直そ〜』

ま『水原(みずはら)先生、自分も上手く描けません』

ぴ『まえくんは絵心ないから、どんな時間かけても無理やで』

ま『それを言うなよ』

水『まえくんも、上手に描く必要はないからね』

ま『そう言われましても、自分でも気になりますから』

ぴ『絵心ない芸人くらいのレベルならいじりやすいけどね。中途半端に下手なのが1番困るよな』

ま『手ぇ抜いて描いてるとも思われても嫌やし。とはいえ、これ以上は無理やからなぁ』

水『先生は、この学園の卒業生なんだけど、その時から青川先生がいてね』

ぴ『お〜、水っちゃんもじっちゃんの教え子なのか』

水『私、その時に言われたの「水原、勉強は官僚になりたかったら極めろ。ただの良い生徒でいたいなら、適当にテスト範囲だけ解けるようにしとけ」って』

ぴ『ぴちゃんのクラスでも言ってたで〜』

水『だから、私も、美術大学に進学したかったり、将来芸術の分野でお仕事がしたいなら、歴史や技法を教えるけど。それ以外の生徒さんには、違う授業をすることにしたの。自由とは、秋におまんじゅうが美味しくなることと同じだから』

ま『それが自由に描くってことですか』

水『例えば、テーマを「ひまわり」にして、この中の誰かがゴッホと同じ「ひまわり」を描いたとしましょう。その後に「星月夜」「薔薇」「自画像」とテーマを出して、それが全てゴッホの作品と同じ構図や色使いになることってほぼありえないと思うの』

ま『それは、そうですね』

ぴ『「自画像」で自分じゃなくてゴッホの顔描いてたら、かなりヤバいやろうな』

水『表現するということは「自分の中の何かを伝える」ってこと。その表現方法に、ルールはあれど、定義は無いと思うの。そうなると、もちろん評価も様々。よくあるでしょ、「この絵が何億円もするのか〜」って驚くこと。まさに、蛇が斧で斬られそうになるアレね』

ぴ『「ぴちゃんの方が上手く描けるで」って言いたくなるやつあるある〜』

水『受けて次第で、何億の価値、いやそれ以上の価値だってあるもの。お子さんの書いた似顔絵とか、親御さんは「ひまわり」よりも飾りたいでしょ』

ま『逆に、バンクシーの絵であろうと、勝手にされた落書きだと消した事案もありますしね。やはり、有名アーティストの作品であっても、受け手に何も伝わらなければ価値はないという物なんですね』

水『美術品も単純に年月を重ねることで価値が高まる物もあるけれど、やはり、基本は描き手や受け手の言い値ですから。そこにある基準価格なんて、砂糖を溶かす紅茶のようなものよ』

ぴ『水っちゃんは、どうして美術の先生になったの〜? 絵を描くのが好きだったとか?』

水『私が3年生の時、青川先生が担任でね。卒業前、個人面談があって言われたの。「水原、お前は将来化ける。だが、もしかしたらそれが他人に受け入れられないかもしれない。それでも、腐らずに好きな美術を続けろ。お前の将来は、俺が見届けてやる。もし、俺が10年後もここで教師を続けてたら、お前も美術教師としてここに来い」って』

ぴ『それってプロポーズ!?』

水『どうかしらね。青川先生とは20歳以上離れてるし、そうじゃないとは思うけど。でも、私の人生を変えた人ではあるわね。まさに、かぼちゃのパンケーキが焼き上がるみたいに』

ま『先生は、将来の他の選択肢はあったんですか?』

水『夢かぁ。私は、何になりたかったっけなぁ。あぁそうだ、魔法少女になりたかったんだ。当時はいつも、女の子と悪の組織が戦う漫画を描いてたんだ』

ま『先生、もしかして数学の教員免許も持ってたりしませんか?』

水『あら、何で分かったの? 私、数学も得意だったの。青川先生からも、数学の方が教員免許は取りやすいぞってアドバイスあったし。学園卒業後も色々メールで進路についてアドバイスくれたし、ほんと、天使の輪っかが切れ味抜群って感じね』

ま『なるほど。その道か』

ぴ(何、もしかして悪いこと?)

ま(いや、おそらく水原先生の主専攻は数学だ。サブとして美術の教員免許を取得したんやろう)

ぴ(何でそんなまどろっこしいことを?)

ま(そもそもの美術教員の募集枠が少ないからだよ。数学の教員免許保持なら、最悪中学教師になれなくても、塾講師などで食いっぱぐれることはない。ただ、美術の教員免許だけだと話は違うからな)

ぴ(じっちゃん、もしかしてそこまで水っちゃんの将来を見越して?)

ま(その可能性は十分に高い。てか、おそらくこの人、相当数学が出来るんじゃないか? ただ、どう考えても官僚になるようなタイプでもないやろ。青川先生の言ってた「解けない問題の答え」って、水原先生の将来の姿だったんじゃないかな?)

ぴ(そんな。そこまでするかなぁ?)

水『さぁ、筆が止まってますよ。自由に描きましょう。未来は無限大ですから、そう、ロケットが波打ち際で跳ねるようにね』

#3分間の暇つぶし   #ぴちゃんと先生  #ぴちゃんとおはなし 

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