"あいだけんの魅力"とは 後藤連平さんによる、あいだけん逆インタビュー

建築と経営のあいだ研究所 逆インタビュー
https://www.aidaken.com/

なぜ、建築クリエイターの「経営思考」習慣化を目指すオンラインサービス、「建築と経営のあいだ研究所」を立ち上げたのか。いつものインタビューとは逆に、創造系不動産 高橋寿太郎氏に対してアーキテクチャフォト 後藤連平氏がインタビューをします。

元インタビュー
https://youtu.be/thlxmxai014

――じゃあ、あいだけんの逆インタビューを始めていきたいと思います。連平さん、よろしくお願いいたします。

高橋寿太郎氏(以下、高橋)
インタビューって、これまでほとんどないな。

後藤連平氏(以下、後藤)
私の視点から、あいだけんを深掘りというか、切り裂いていきたいです。
寿太郎さんがあいだけんを始めて、今はどれくらい経っているんですか?

(高橋)
8、9か月くらいだと思います。

▼ あいだけんへのファーストインプレッション

(後藤)
 僕は参加させていただいてまず思ったのは、お互いのフィードバックがクローズドな場で得られるというのは、今のネット上にはない場所だな、と。オンラインサロンみたいなものとも違う場だなという感触があって。
 参加者の皆さんが主役になる、みたいな場の設計をされているということが、すごく印象的だったんです。最初の立ち上げのときから、そういう場づくりみたいな意識がすごく強かったんですか?

(高橋)
 そうですね、強かったです。連平さんもFacebookに書いていただいていましたけれど、オンラインサロンとは、直感的に違うというか。そういうことをやりたいわけでもないな、と。ただ、もっと皆が自分ごととして参加できる場が欲しいと思ったんです。それが始まりだったと思います。

(後藤)
 自分ごと。やっぱり「経営」ということを考えたとき、能動的に動かないといけないということがすごく大きいというか、社会に対して受身じゃなくて、自分からアクションを起こしていくということが、僕はすごく大事だと思うんです。
 あいだけんという場所で、皆さんのそういうところを引き出そう、というところもあるんですか?

(高橋)
 ありますね。本当のもともとの発想は、オレンジ色の「建築と経営のあいだ」という本を書かせていただいていて、それが、短期的にものすごくたくさんの方に受け入れられたんです。 建築の世界で働く皆さんや、特に、設計事務所とかクリエイティブな皆さんが、経営の基礎的な力を手に入れることができれば、もっと活躍できるし、変化が起きていく世の中も上手くサバイバルしていくことができるというか、波に乗っていくことができると思ったんです。

▼ あいだけんで学べる「経営」とは?

(後藤)
 寿太郎さんが今お話してくれた中の「基礎的」というところに、僕は結構ピンときたというか。
 やっぱり「経営」という言葉はすごく意味が広いというか。税金とかをどうとらえるのか、設備投資とかをどうとらえるのか、ということも、「経営」の考え方に含まれると思っているんです。

(高橋)
 その通りですよね。

(後藤)
 でも寿太郎さんがやろうとしていることって、もうちょっとクリエイティブなほうの「経営」なんだろうな、という感覚があって。

(高橋)
 なるほどそうですね。当然、お金の計算とか、税金の計算とか、そういったものも「経営」の1つです。もっと、「人」とか、「もの」とか、「情報」とか、「お金」とか。たとえば設計事務所であれば、その設計事務所の存在にかかわるような、根本的ないろいろな要素の整合性を整えていくような考え方。そういう考え方が「経営」なんですよね。

(後藤)
 やっぱり、そういうところが建築設計者であるとか、クリエイティブな仕事をしている人にとっては、とっつきやすいんじゃないかとすごく思っています。

(高橋)
 そうなんですよ。ぶっちゃけ、経営ってすごく面白いんですよ。だから、建築家や建築士の方は、やってみると、すごくとっつきやすいと思う。私も経営を基礎から学ぼうと思って、経営大学院大学に入り直したことがあるんですけれど、めちゃくちゃ楽しかったです。経営って楽しいんだなって、そのときにもう一度気づいたという感じでした。

▼ 「経営」のクリエイティブ面をシェアする

(後藤)
 やっぱり、そういう凝り固まったものじゃなくて、「経営」というのは、クリエイティブが求められるものなんですよね。

(高橋)
 そう、ここが面白くて、伝統的な従来型の「経営」の世界って、あまりクリエイティブじゃない世界もあるんです。逆に、伝統的で従来型の「建築」の世界というのは、当然クリエイティブなんですけれど、あまり経営思考じゃなかったりするんです。この2つの世界を混ぜ合わせるような思考を、最近は一般的に「デザイン経営」という呼び方をされています。面白いのは、建築や設計事務所の方が経営思考をすると、ほぼ100%、デザイン経営思考になるんです。

(後藤)
 今聞いていてすごく面白いと思ったのが、経営というマインドがある種プラグインみたいな存在で、すでに軸として設計者の中にあるものに、バチっと差し込まれるというか。合体すると、さらにそこがすごく強力な武器に発展するみたいな感じなんですかね。

(高橋)
 そう。だから、基礎的なものだけでいいんです。経営の基礎的な感覚をどんどん持つと、相乗効果の感覚があるんです。
 ビジネススクールに通っていたときにも、よく感じました。一緒にディスカッションやブレストをしていると、クリエイターって特殊能力があるんだな、と気づくんですよ。彼らはもともとクリエイティブに考えているじゃないですか。それが経営の考え方に当てはまってくると、連平さんがおっしゃる通り、結構高い確率で相乗効果が得られます。

▼ 「商売」や「ビジネス」という言葉への抵抗感

(後藤)
 僕が今ふと思ったのは、もうちょっと泥臭い言い方で、たとえば「商売」という言い方もできるような気がしているんです。僕は、設計というアカデミックな建築マインドの中に、自分が生き残っていくためにそういう商売的な考え方を入れていくとき、壁を乗り越えた、みたいなときがあって。そこに慣れるのに結構時間がかかった、という感覚があるんです。
 もしかしたら、そういう「経営」や「ビジネス」や「商売」という言葉に対して、ハードルというか、若干の抵抗感を感じる人もいるのかなと思っているんですけれど、そこはどうやったら乗り越えられるのかなと。どうとらえると、違和感なく融合が進むのか。寿太郎さんはどう考えているんでしょうか?

(高橋)
 1つは、ただ慣れることです。ほとんどの建築クリエイターは、「営業」や「ビジネス」や「商売」や「お金」という言葉に、最初は抵抗があると思うんです。いきなりそれらのイメージがガラッと上手く変わるかといったら、そうはいかないわけです。でも、慣れていくために、皆で日常的に話すということはありだと思うんです。
 たとえば「営業」でいうと、「営業」とか「営業マン」という言葉は、あまりデザイナーとかは口にしたがらないじゃないですか。一昔前だったら、「うちの会社には営業マンはいません」というほうが誇らしかったじゃないですか。

(後藤)
 逆に格好いいというか。

(高橋)
 営業いないのが逆に格好いい、みたいなところがあった。けれど、最近の若い方は、そうじゃなくなってきていると思うんです。むしろ「営業をしています」ということを言いたい人も増えてきていると思います。

(後藤)
 20年くらい前の僕が学生のときには、「営業」という言葉に対して、どちらかというと変な、ネガティブなニュアンスを持ってしまっていました。言葉巧みにものを買わせる、みたいな。けれど、実社会に出てみると、いかに自分達がつくっている価値みたいなものを、お客さんに正しく伝えるか。それを理解してもらえると、買ってもらえる、みたいな、すごくクリアな話だし、すごく良いこと。正しいことは、正しいマインドを持っていればできる業種が営業というか。そういう行為だと、僕もとらえ直しているんです。

(高橋)
 そうですね。

▼ あいだけんで得られる「ビジネスマインド」とは

(後藤)
 あいだけんの中で、お話を聞いたり、ディスカッションをしていくと、そういうことに慣れていけるんでしょうか。

(高橋)
 その通りだと思います。たとえば営業でいうと、グループとか、チームとか、組織の先頭に立っている人が営業です。営業をする人が、顧客と対面して、顧客の問題や課題を探り当てて、本人さえ気づいていない課題に対してソリューションを提示する。それは非常に頭を使うし、勇気も必要だし、お客様思いの気持ちも必要です。それが営業なんです。
 けれどこの考えに慣れていない人が集まると、いかに仕事をとるか、いかに上手いことやるかとかいう話になってしまいます。これが営業だというように勘違いされたままで話していると、逆効果ですよね。
 だから、あいだけんが目指しているのは、正しい経営で、ビジネスで、お金で、営業。そういった正しいあり方が起こるように、皆で情報をシェアしたいと思っています。特に、インタビュー動画とかがそれです。

▼ ベースにあるビジネスの定石

(後藤)
 インタビュー動画の話が出ましたが、僕も寿太郎さんとインタビューをしていると、安心感がすごくあって、それはなんでだろうなと思っているんです。寿太郎さんは、MBAを取得されて、過去のビジネスとかの言説や理論を、知識として持っていらっしゃる。
 実践者というのは、どちらかというと自分の肌感覚や経験とかを直感的に利用して瞬時に判断し成功に繋げる、みたいな人が多いイメージが僕にはあるんです。そういう人の話を一方的に聞いていると、話が具象的になりすぎる気がします。けれど寿太郎さんと話していると、そこもちゃんと理論面で話してくれるというか。
 たとえば僕がバーッと言ったことに対して、次のショートレクチャー動画で補足してくれて、僕自身もなるほどなと思うんです。こういう理論があって、僕はこういうことを言っていたんだ、と。そこらへんは意識しているところなんですか?

(高橋)
 意識していますね。経営大学院で学ぶ方はたくさんいらっしゃるし、MBAを持っている人も山ほどいるんですけれど、それがあったら経営が上手になるかというと、全然そんなことはないんです。何を学んでいるかといったら、いわゆる定石。こうやってこうやったらこう失敗するとか、こうやって上手くいくとか、そういう定石をやっているんです。だから、経営者の皆がMBAを持っている必要は無い。あったらいいんじゃない?というくらいだと思うんです。
 一方で定石というのはやっぱり絶対に持っていたほうがいい。能力が高いのに、定石を知らないばかりにこけている人もいる。そういう定石を提供できればいいな、なんて思っているんです。聞いているリスナーの皆さんがそれを応用できるようになればすごいな、と。
 ただ、これはやりながら気づいていったんです。最初から、あいだけんはこうやろうね、といってスタートしたわけではなかったんです。

▼ ビジネスとアカデミックが融合したあいだけん

(後藤)
 皆で再現可能なものとしていきたいという寿太郎さんが、すごいです。経営の話をしているのに、それってアカデミックな視点じゃないですか。再現可能性みたいなものを引き出して、それを方程式みたいなものとして提示していく。そこが面白いなと、今聞いていて思いました。
 アカデミックとビジネスとか経営は、対極にあるというふうに一般的に思われがちだけれど、寿太郎さんがやっているあいだけんでは、それがもはや融合している。両方の考え方が上手く噛み合っているといいますか。そういうことなのかなと。

(高橋)
 言われてみるとそうですね。でも、経営大学院ってそんなところなんですよ。お勉強のためのお勉強をしても全然意味がないですから、あくまでも実際の混沌としたビジネスの世界をどうやって乗り切っていくか。そのための羅針盤というか、基礎的な知識を得るところなんです。
 あいだけんはその次のステップというか。基礎もちゃんと示しつつですけれど、もっとリアルタイムで融合したところを効果的に得たいなと。1時間や2時間のセッションの中で自分が持っている経営の知識や定石を当てはめていくと、もしかしたらこういうことかもしれない、ということに気がつく。それがやっぱり、楽しいんですよね。そしてその気づきとかを、やっぱり皆にシェアしたい。

▼ 建築経営の実践とシェアによる学びあい

(後藤)
 私が実際に参加させてもらって思ったのは、聞いてくださっている方も、皆すごく活躍している実践者の方が多くて。僕も皆さんのzoomセッションの場に参加したんですが、僕が一方的に先生になって教えているというよりは、むしろ皆さんの感想を聞いて、こういうふうな気づきがあったのか、みたいなフィードバックがすごく得られました。しかも、それがネット上であるということが新鮮で。
 僕は、それはすごく良い場だなという実感を持ったんです。お互いに学び合えるような環境があるような感覚がすごくあるので、それはやっぱり、実践者が参加する場の強みというか、面白さというか。そういう感じを持ちました。

(高橋)
 本当に耳障りよく言うのではなくて、学び合い、気づきあいなんですよね。誰かがよくわかっていて、それを教えるとか習うという関係って、何か違うなと。特に、ビジネスの世界は。実際に設計事務所を経営して運営していくという世界では、やっぱり違うと思うんです。
 たとえば、すごく有名で、売上もいっぱいあって、建築作品もいっぱいつくっている人が経営上手かどうかなんてわからない。逆に、別に有名とか無名とかは関係なく、1人とか2人とかの小さな規模でやられている人でも、もしかしたらめちゃくちゃ経営が上手いかもしれないですよね。誰がそこに大きな学びや気づきを持っているか、ということはわからないですよね。
 大事なことは、それを皆でシェアすることかなと思っています。建築の皆さんだったら、より自分がやりたい建築をつくる。建築の仕事をされていても、やりたいことは千差万別だと思いますし、目指すものも皆違いますし、誰しもがスターアーキテクトになりたいわけでもない。かといって、やっぱりある種の野心であるとか、目標を持っている人も多いです。その人の大事にしていることを実現していくためには、やはりどこまで「経営」という視点を得られるか、だと思っています。

▼ 独特なインタビューの人選について

(後藤)
 今、思い出したというか、あいだけんでレクチャーをしている方々のキュレーションがすごく面白いなと、改めて思ったんです。
 たとえば、イベントの企画をするというか、興行をする側とすると、ネームバリュー中心主義になりがちな気がするんです。フォロワーがめちゃくちゃいる人を呼んでくれば集客できるだろう、みたいな。一番簡単だけれど、一番効果的な方法じゃないですか。でも今振り返ると、あいだけんの人選てすごく独特というか、独自のキュレーションというか、価値基準があるんだな、ということを感じていて。それってすごく玄人好みという感じもします。コアな部分を見て人選されているんじゃないかと思っていて。そのへんはどういう感じの意思があって皆さんにお声がけしているのかなと、気になりました。

(高橋)
 大きくは2つあります。1つは、やっぱり渋谷さんの参加というか、存在が大きいということがあります。私の考えだけでは多分こうなっていないと思うんですけれど、渋谷さんがプログラムファシリテーターというかたちで、どういう人選にするか、どういう内容にするか、フラットに2人で話しているところがあるんです。まずはそういう側面。そうしながら決めているというのが1つ。
 もう1つは、おっしゃる通り、あまり有名とか無名とかでは決めていなくて。話を聞きたいな、という観点。まさに組み合わせ。どういう組み合わせが良いのかなと。たとえば、創造系不動産スクールに参加していただいていたOBの方のお話を聞いていたりとか。この方はかなり面白いものをもっているな、ということが何となくわかっていて、深掘りするために自分達が話を聞きたいからインタビューをさせていただこう、ということもあるんです。
 動画再生数も、意外とあまり有名とか無名に関係ないんですよ。たとえば、一番最初にインタビューさせていただいた、SWAY DESIGNの永井菜緒さんの動画再生数は結構すごくて。やっぱり皆さん、同時代的にフラットな立場で、自分の近い存在として切磋琢磨している方の話を聞きたいとか、おそらくそういうインサイトもあるのではないかと思っています。

(後藤)
 そういう方々を見つけ出すというか、オファーを出すって、結構難しいと思うんです。先ほども言いましたけれど、名前がすごく目につく方に声をかけるのは、どちらかといえば簡単だと思うんです。けれど皆さんに近い場所で実践している方を探してくるというのは、すごく難しいと思うんです。でも逆にその分自分達が親身に感じることができるお話を聞けるということだと思うんです。
 そこの人選みたいなものも、あいだけんの強みというか、売りなんだろうなと、今改めて思いました。

(高橋)
 そうだと思います。1時間とか2時間の中で、予定調和じゃない、本当のセッションというか、インタビューをさせていただくんですけれど、毎回価値をシェアし続けなければならないと思っているんです。その自信があるわけではないですけれど、そうしようという強い意思は、少なくとも私と渋谷さんにはあるんです。その覚悟が人選に向かっている感じはあります。

(後藤)
 すごくいいなと、改めて思いました。

(高橋)
 ですから、有名な方にお声がけさせていただくときも、いわゆる一般的に言われていることとか、表面的に見えることは置いておいて、という感じなんです。

(後藤)
 なるほど。一番最初に言った、クローズドな場という話が、そこにすごく大きく絡んでくるんじゃないかと思っていて。ビジネスでTwitterやFacebookを活用している人は、ほとんど実名でやっていて。そうすると、発信が及び腰になるじゃないですか。寿太郎さんもそういうことがあるんじゃないかなと、私は思うんですけれど。

(高橋)
 ありますね。

▼ 閉じた場を提供することの意味

(後藤)
 話すほうも聞くほうも守られている場で、お互いが信頼関係を持っているという状態が設計されていると、いつも言っている話とは別の話を話してもいいんだろうな、とか、話しても受け入れてもらえるんだろうな、とか。そういう気持ちになってくるんでしょうね。そういうサイト設計もやっぱり重要なポイントなんでしょうね。

(高橋)
 これも試行錯誤なんですけれど、やっぱりインタビューをしながら学ばせていただいているということもあるんです。
 2番目くらいにインタビューをさせていただいた、東郊住宅社の東郊キッチンをやっている池田峰さんという方がいて。その池田峰さんの東郊キッチンを何年か前に見させてもらったんですけれど、何か閉じているんですよ。リアル空間で、鍵があって、誰でも入れるわけじゃないんです。ただ、声をかけるだけで入れてもらえるんです。だから、声をかけるという行為が鍵なんです。そのとき一緒に東郊キッチンに行った建築家が、「なぜあまねくすべての人に開かないの?」と素朴に聞いたんですけれど、「それだと声をかけないでしょう?」と言ったんですよ。そのとき、これはすごいなと思ったんです。
 HAGI STUDIOの宮崎晃吉さんにもインタビューをさせてもらったんですけれど、インタビューの中かどこかで言っていたのが、やっぱりこれからは、ネットでどこまでもオープンになっていく中で、いかに閉じていくか、ということが1つの拠り所としてある、と。それを今回のあいだけんでやってみようかな、と思ったことはあります。

(後藤)
 僕はインターネットのウェブサイトをやっているんですけれど、やっぱり誰でも見れるけれど、何か心理的ハードルみたいなものがあったほうがいいんじゃないかな、ということは僕も感じていて。誰しもが見れるんですけれど、あまり説明的じゃないので、ある程度の理解度がある人が見ないと内容が理解できないサイトになっているというか。特に建築家のつくる作品が急にマスメディアの中に登場すると、炎上してしまうということをたびたび目にしていて。そういった意味で、アーキテクチャーフォトというサイトは、あまり説明的じゃないということと、コメント欄がないということが、オープンだけど閉じられている場に上手くなっているのかなと。
 そういうコミュニティを醸造するというか、人が集まる場所というのは、何が何でもオープンというよりも、ある種若干閉じるというか。そういうところが設計されていると、皆さんにとって居心地が良くなって、コミュニティが育まれていくというか。特に、実空間では考えなくてもいいことを、ネット上では丁寧に考えて設計していくということがすごく大事なんだろうなと、自分の体験も含めて改めて感じました。

▼ あいだけんは誰でもフラットに利用できる

(後藤)
 結構、参加するというか、コミットするというか、いろいろなかたちでコミットできるようなサイトというか、場なんだな、ということは思っていて。
 たとえば、登録して動画だけ見ている人もいるみたいだし、毎回セッションに参加して、その中でプロジェクトみたいなものを立ち上げようとされている方もいるような感覚をおぼえたりとか。わりとそういう、いろいろな方が自由に出入りできるような。閉じているんだけれど、フラットというか、オープンというか。そういう場でもあるような気がしました。そのあたりはどうですか?

(高橋)
 本当にそうです。大半の方は、動画を見ているだけだと思いますけれど、それでも全然構わないと思っているんです。建築の方々にとって学びになる経営の情報がある動画サイト。8割くらいの方はそうじゃないかなと思っています。でも、中には積極的に参加して交流する人もいるし、気づきを得る人もいるし、生のセッションを受ける方もいる。それは選択できるような感じになっています。
 あとは、自分のタイミングというものもあると思うんですよ。自分が今どういう仕事をしていて、どういう状況にあって、どういうステージにいて、家庭がどうなのか、とか。私も子供が小さいので、自分だったらそうかな、という気がして。それで、動画を見るだけで参加できるものがいいと思ってつくっています。
 やっぱり渋谷さんがいてくれるので。渋谷さんはファシリテーションやコーチングの技能を持っているんです。建築界でも特異な方なので、そういった方がいてくれるからこそ、やれることはもっと幅広くなるということを感じながらやっています。

(後藤)
 今後、聞く人とか、ディスカッションに参加する人の、そのときどきの自分の仕事のステージによっても、話の捉え方が変わってくると思うんです。問題意識とかもそのときどきで変わるでしょうし。

(高橋)
 そうでしょうね。間違いない。

▼ 視聴者のタイミングによって欲しい情報が違う

(後藤)
 そうすると動画がたくさんアーカイブされていて、1回聞いたものを振り返ってまた聞いて見ると、ちょっと違った感想や学びがあるとか。そういうこともやっぱりあるんだろうなと。

(高橋)
 面白いですね。そうですね。
 たとえば会員が100名以上いるので、独立した直後なんだよな、という方もいらっしゃって。そのときはこういう情報が必要なんだけれど、1年とか2年したら、スタッフが1人2人入ってきて、そのスタッフをどうマネジメントすればいいのか、そのときにまた出てくる別の課題だと思うんです。厳しくしすぎちゃった、とか、ゆるくしすぎちゃった、とか。今は本当に皆悩んでいますよ。コロナ禍で設計事務所をマネジメントするって、我々もそうですけれど、本当に苦労しています。タイミングによってほしい情報が違うというのは、おっしゃる通りですね。

(後藤)
 いろいろな人が、いろいろな情報を、自分の最適なときに吸収できる場所というのは、すごくいい場所だろうなと思いました。

(高橋)
 そういうふうに言われると、いいことをやっているな、という気がします。(笑)私も1人の経営者ですから、このサービスは正しいのだろうか、とか、本当に皆のプラスになるのかな、とか、単なる自己満足ではないのかな、というのは、本当に毎日問いただしながらやっているという状態なんです。

(後藤)
 でも、やっぱり寿太郎さんがニコニコしていると、参加している人もニコニコしているんじゃないかなと。

(高橋)
 僕のニコニコは諦めの境地ですから。どうにでもなれというときに、こういう顔になるんです。(笑)

(後藤)
 やっぱりバランス感覚がいいんだな、と思っているんです。TwitterとかSNSとかを見ていると、ある分野で頭角が出てきた人が、どんどんインフルエンサー的なものになっていって。そうすると、その思想にすごく共感する人が集まってきて、コミュニティを形成するんですけれど、周りから見ると、特殊なことをやっているな、という見え方になってしまう。
 けれど、寿太郎さんとか渋谷さんのスタンスが冷静というか、ただ単に熱狂をうみだすことに集中していないというか。向こう側にある、実際にどうやって役立つのか、とか、そういう実利的なところにすごく重きを置いているな、という感覚が僕の中にあるんです。それがすごく信用に足る部分じゃないのかなと、僕は思っているんです。

▼ 「使える」情報提供の徹底

(高橋)
 そういう意味では、おっしゃる通り、熱狂させることを目的にしていないというか。僕達も信頼されたいし、建築家の皆も信頼しているし、そういう関係性でいたほうがいいと思う。
 たとえば、ショートレクチャーの中に出てきますけれど、プロダクトライフサイクル曲線という、企業やサービスというものは、成長するけれどいつかは衰退するみたいな、そういうものがあるんです。けれど、その理屈だけを聞いても、正直あまり面白くない。そうですか、で終わってしまうので。でもあれはたしか、フジワラボの藤原さんにインタビューさせてもらった中で、隈研吾事務所の隈研吾成長期と最盛期みたいなものと、それぞれどういうリーダーシップ像があるのかとか。そういうふうに話したほうが入ってきますよね。そういうインタビューとショートレクチャーの構成にしようと思いついたのが、一番大きかったかなと思うんです。
 けれどそれも、思いついたからあいだけんを始めようと思ったわけではなくて。やっている最後の最後で、来週ローンチだぞ、みたいなときに気がついたという感じでした。

(後藤)
 リアルタイムの、寿太郎さんと渋谷さんと皆さんの思考錯誤も、そこで見られるというか。

(高橋)
 本当に。まさに自分達が混乱のマネジメント。ベンチャーではあるあるなんですけれど、混乱のマネジメントをやっていて、それに嫌な顔をせずに一緒にやってくれている渋谷さんや、オペレーションをしてくれている村岡さんには感謝です。

(後藤)
 今、フジワラボの藤原さんのお名前が出てきましたけれど、やっぱりそういう建築家というか、既存のアカデミックな文脈で評価されている方が、あいだけんでは、違ったことを。隈事務所のマネジメントみたいなことを語ってくれるというのも、またすごく面白いですよね。

▼ 設計者が経営的な側面から評価される場

(高橋)
 面白いです。あまりそういう経営の話は、そもそも建築家として評価されるうんぬんの話ではなかったというか。すごく役に立つというか、素晴らしい情報なのに、それを提示できる場がないというのは、あまりにももったいないですよね。

(後藤)
 そうですね。たしかに、そういう建築界隈では。建築家とか設計者って、独立して事務所を構えていれば経営者ですけれど、経営者の側面から活動を照らしてくれる場というのは、本当になかったですよね。

(高橋)
 それは惜しいことなんですよ。おそらく歴史上でも、現在活躍されている方も、活躍する建築家や設計事務所って、皆経営が上手なんです。安藤忠雄事務所には安藤忠雄事務所の上手な経営方針があって、隈事務所にもある。皆バラバラなんですけれど、普通と違うマネジメント方法があって、建築の技術とそれが絡み合って、皆巨匠になっていっていると思うんです。でも、その経営の身分を語る場すらないというのは、やはり業界人全員にとってもったいない。

(後藤)
 そうですね。だからやっぱり、コルビュジエとかミースの話で。

(高橋)
 そうそう。

(後藤)
 建築の作品の面がフィーチャーされますけれど、やっぱり経営者という側面が、評伝みたいなものを読んでいると、結構そういうエピソードが出てきて。やっぱり彼らも、同時代に生きている我々みたいに、建築家と同時に経営者でもあったんだな、ということがすごくわかって、すごく親しみがわく。むしろ、我々もやっぱりそういうことを考えなければいけないんだと、改めて思わされますよね。

以上

建築と経営のあいだ研究所 逆インタビュー
高橋寿太郎(インタビュイー) × 後藤連平(インタビュアー)
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