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『エス』シリーズ紹介&番外編


番外編『意地っ張りな彼と意地悪な彼』は2014年に書いた宗近×椎葉のクリスマスショートです。
メルマガ会員様向け書庫(要パスワード)にて公開している番外編ですが、シリーズ紹介を兼ねてこちらにも転載しました。

※2016年に同人誌『LOVE NEST』に再録。完売後に電子化して、現在はKindleと楽天koboでお買い求めいただけます。詳細はこちら

★『エス』シリーズ(シャイノベルズ/大洋図書)について

・本編 四冊
「エス」
「エス 咬痕」
「エス 裂罅」
「エス 残光」

・完結記念小冊子
「エス still recall」※電子書籍化されています。

・リンク作
「デコイ 囮鳥」
「デコイ 迷鳥」
「最果ての空」


「──宗近。俺のものになれよ」
「俺に警察の犬になれってか?」

「お前のベレッタも、こんなふうに舐めてやろうか?」


イラスト/奈良千春先生

★完結記念記念の全サ小冊子『still recall』は、電子書籍化されています。
本編終了後の椎葉と宗近が過ごした甘い夜、篠塚の想い、鹿目の本心なども書かせていただきました。奈良先生の素敵な漫画も収録されています。
Amazon、Renta、パピレス、楽天等、各電子書店にて販売中。


<本編あらすじ>

 警視庁の組織犯罪対策第五課、銃器捜査班情報係に所属する椎葉雅紀は、裏社会に精通する人物を自分のエス(スパイ)にして、日々、拳銃の押収に明け暮れていた。
 たったひとりの家族である姉が暴力団の抗争事件に巻き込まれ、拳銃によって殺されている椎葉は、拳銃を狩るためならどんな危険も顧みない。

 ひとり孤独に生きてきた椎葉は、暴力団幹部の宗近奎吾と出会う。不遜な眼差しを持つ宗近に強く反発しながらも、危険な色香を放つ男に次第に惹かれていく。
 椎葉は宗近を自分のエスにする。情報の対価は自分の肉体。秘密の逢瀬を重ねながら、宗近のもたらす情報のおかげで成果を上げていくが、刑事とヤクザの危うい関係に、椎葉の苦悩は深まっていく。

 刑事とヤクザの一蓮托生の関係。公安のエリート警察官である義兄、篠塚との確執。同僚の死。宗近の秘められた過去。姉の死の真相。
 様々な葛藤や出来事を経てふたりの関係は深まり、やがて命がけの恋へ発展していく。そんなふたりが最後に出した答えは──。
 

 ★公式サイトに特集ページがあります。作品紹介、人物紹介、作者インタビュー、シーンプレビュー等あり。


★ドラマCD

制作・発売:サイバーフェイズ
四作品ともドラマCD化されましたが、倒産により現在は入手困難です。

<キャスト> ※敬称略

椎葉昌紀/神谷浩史
宗近奎吾/小西克幸
篠塚英之/三木眞一郎
鹿目/中村悠一
安東/杉田智和
永倉/黒田崇矢
小鳥遊真生/武内健
松倉東明/近藤孝行
五堂能成/成田剣
浅川/高瀬右光
吉澤紀里/遠藤綾
高崎係長/花田光 、他


★関連作品紹介

・『デコイ 囮鳥』&『デコイ 迷鳥』

こちらは、かつて宗近の部下だった那岐&加賀谷、そして那岐と複雑な関係にある謎めいた殺し屋、火野と安見の物語です。宗近は少しだけ、篠塚は重要な役所で出てきます。


「頭の中で俺を犯す時は、こんなもんじゃないんだろう?」

<あらすじ>

 拳銃を握ったまま記憶喪失になった安見は、謎めいた美しい男、火野に助けられる。火野は恋人だと言うが、安見は何も覚えておらず、人を殺した事実を告げられ恐怖におののく。

 一方、何者かに射殺された大物極道の死の真相を探るべく、関東侠和会の諜報部隊『鳩』の隊長である那岐は、腹心の加賀谷と共に調査を開始する。
 過去の大罪に苦しむ者。憎むべき相手に溺れていく者。報われない愛を捨てきれない男。誰にも理解されない闇を心に抱える者。
 そして大事なものを失い続ける男。

 現在と過去が交錯する中、男たちは愛と憎しみによって複雑に絡み合い、それぞれが生きる道を模索していく──。


★ドラマCD

制作・発売:サイバーフェイズ
こちらもドラマCD化されましたが、倒産により現在は入手困難です。

<キャスト> ※敬称略

那岐顕司/鳥海浩輔
加賀谷功/三宅健太
火野一左/子安武人
安見亨/近藤隆
篠塚英之/三木眞一郎 

宗近奎吾/小西克幸
矢嶌昭重/丸山詠二
七枝和馬/前野智昭
マスター/斉藤次郎
益谷輝之/阿部敦
里江子/野村牧
玉木美沙/森夏姫
玉鱗/寺島拓篤
小聡/小田久史、他


・『最果ての空』

ラストを締めくくるのは、篠塚が主人公のお話です。
もうひとりの主人公は、若き公安の刑事、江波。
物語は江波と篠塚の視点が交互で進んでいきます。篠塚が亡き妻や椎葉への複雑な想いを語っています。椎葉と宗近も少し出てきます。


「俺の下で喘ぐあなたが見たい。俺に許しを請うあなたが見たい。今、唐突にそう思いました」
「悪いが、君のような坊やに好き勝手される気はないよ」
「だったら、あなたが俺を好きにすればどうです。……俺はいい声で鳴きますよ?」

<あらすじ> ※裏表紙より転載

 警視庁公安部、外事第一課第四係の刑事であり、ウラに属する江波郁彦は、ある日、秘匿追尾していた男に尾行を見破られるという失敗をおかしてしまう。そしてその日、上司に呼び出された江波は、そこで警視正、篠塚英之からある事件の班員に指名される。篠塚は若くして公安部部長に次ぐ地位にあり、一見穏和だが常に冷静で、なにを考えているのかわからない男だ。江波はある事実から篠塚に反抗にも似た感情を持っており……!?  事件にはできない事件を追う、男たちの静かな闘いの物語!


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★『エス』番外編ショート

「意地っ張りな彼と意地悪な彼」(宗近×椎葉)



 クリスマス・イブのその日、珍しく仕事が早く終わった。
 家族持ちの同僚は、帰宅したら子供にプレゼントを渡すのだと張り切って帰っていった。独身だが恋人のいる同僚は、これから彼女の家に行くと嬉しそうに笑っていた。

 警察官だって人間だ。クリスマスは大事な人と過ごしたい。だから早く帰れるに越したことはない。椎葉も予定さえあれば、早く帰りたくてしょうがなかっただろう。
 だが残念なことに、今年はなんの予定も入っていなかった。
 家でひとりぼっちの寂しいクリスマスを過ごすくらいなら、いっそ仕事をしていたかったのだが、こういう時に限って居残る理由が見つからない。
 仕方なく残業を諦め、七時には警視庁を出た。

 自宅のある最寄り駅で電車を降りると、駅前には大きなツリーが飾られていた。どこからともなくクリスマスソングが流れきて、浮かれた恋人たちが写真を撮ったりしていちゃついている。
 若いっていいよな、と生温かい気持ちではしゃぐ若者を横目に、椎葉はコンビニに寄ってカップ麺とボトルワインを買った。
 イブの夕食がカップ麺。侘びしいが、ひとりでチキンとケーキを食べるよりましだ。

 1DKの狭いマンションに辿り着き、部屋着に着替えてキッチンでお湯を沸かした。腕組みしてケトルが鳴るのを待つ。にらんでいれば早くお湯が沸くわけでもないのだが。
 宗近は仕事で二週間前から海外にいる。ヨーロッパを回っていて、帰りは大晦日になるらしい。

『クリスマスなのに俺とデートできないのは寂しいだろう?』

 先日の電話でからかうように言われ、咄嗟に『別に』と答えた。

『お前は本当に素直じゃないな。寂しいなら寂しいって言えばいいのに』

 宗近はいつだってひとこと多い。人の気持ちを勝手に決めつけるなと腹が立ち、思わず『予定があるから寂しくないんだよ』と言ってしまった。
 同僚の家でのクリスマスパーティーに招かれているんだ。お前は日本に帰ってこないから、参加することにした。
 もちろんそんなのは嘘だ。自分で馬鹿じゃないかと思った。恋人に見栄を張ってどうする。
 宗近は『そうか。ならよかった』と言った。

『ひとりじゃないと知って安心した。楽しんでこい』

 優しい声でそう告げられ、つまらない見栄を張ったことを後悔した。けれど今さら嘘だと教えるのも恥ずかしい。どうせ外国にいる宗近には気づかれないんだし、と結局、訂正はしなかった。

「何がクリスマスパーティーだよ。そんな相手、まったくいやしないのに」

 炬燵に座って、できあがったラーメンを啜りながらぼやいた。あっという間に食べ終え、買ってきたワインを飲み始める。おつまみは柿の種だ。
 テレビもクリスマス特番ばかりで嫌になる。少し酔いが回ってきたせいか、無性に宗近の声が聞きたくなった。だが自分はパーティーに参加していることになっているから、電話をかけると怪しまれるかもしれない。
 メールくらいなら平気だろうか。そう思い、メールを打ち始めた。

『奎吾へ。メリークリスマス。一緒に過ごせなくて寂しいよ。早く帰ってきてくれ。お前が恋しくてたまらない』

 そう打ち込んでみたが、酔っていてもさすがにこの文面はないな、と我に返り、送信はしなった。こんなメールを送ったら、一生、からかいのネタにされてしまう。
 酔いのせいで眠気が襲ってきた。携帯を持ったまま横になり、目を閉じる。

 ──会いたいよ、宗近。お前に会いたくてたまらない。

 心の中で呟いてみる。面と向かっては言えない台詞だ。
 出会って五年の月日が流れたというのに、いまだに宗近には素直になれないことが多い。多分、相性の問題だろう。
 何かにつけ人をからかい、椎葉を怒らせるのが好きな宗近と、なんでも生真面目に反応して、言い返さずにはいられない椎葉。だから小さな喧嘩は絶えない。

 でも恋人になってからは本気で喧嘩しても、どんなに腹が立っても、宗近を嫌いになったことは一度もなかった。それはこれからも同じだろう。愛されていると心から信じられる。そう感じさせてくれる宗近の大きな愛情には、いつも感謝していた。

 喧嘩も愛情表現のひとつだと思えばいいのかもしれない。喧嘩するほど仲がいいという諺だってあるんだし。
 そんなことを思いながら、椎葉はいつの間にか炬燵で眠ってしまった。

*****

「昌紀。寝るならベッドに行け。風邪を引くぞ」

 宗近の声が聞こえた。寝ぼけた頭で夢だと思い、「やだ」と答えて炬燵布団で顔を隠した。灯りが眩しい。

「何がやだ、だ。可愛い声出しやがって、犯すぞ」

 耳もとでいやらしく囁かれ、目が覚めた。──夢じゃない。

「宗近……っ? ど、どうして? お前、なんでここにいる……っ?」

 慌てて飛び起きると、宗近がそばにしゃがみ込んでいた。

「帰国したからに決まってるだろう。カップ麺が晩飯か。放っておくとすぐこれだ。俺がいないと、お前はろくなもの食べないな」

 頭を乱暴に撫でられる。何がなんだかさっぱりわからない。

「帰国は大晦日だって言ってたじゃないか」

「商談が早くまとまったんだよ。それよりお前、今日は友達の家でパーティーじゃなかったのか?」

「え? えっと、それがその、急に中止になって……」

 言い訳しかけたが、そんな自分が嫌になり「嘘だよ」と白状した。

「パーティーがあるなんて嘘だ。予定なんて最初からなかった」

「やっぱりな。そうじゃないかと思って来てみたんだ。正解だったな」

 宗近は怒りもせず、呆れたように優しく笑っていた。たまらなくなって宗近の胸に飛び込んだ。宗近の腕が背中に回り、強く抱き締められる。
 安堵にも似た幸福感に満たされていく。
 いつからかこの胸の中が、一番安心できる場所になった。心の安まる唯一の場所に。

 宗近の大きな手が椎葉の頬を包み込む。会えなかった時間を埋めるかのように、ふたりの唇は深くしっとりと重なり合う。
 甘いキスに目が眩む。宗近の不在がどれほど寂しかったかを、身体で思い知る。
 キスが終わっても宗近は椎葉を放さず、頬や額に何度も唇を押し当てた。

「会えない間、寂しかったか?」

 今度こそ素直になろうと思い、「ああ」と答えようとした、その時だった。

「聞くまでもないか。こんなメールを打つくらいだから、よほど寂しかったんだな。──奎吾へ。メリークリスマス。一緒に過ごせなくて寂しいよ。早く帰ってきてくれ。お前が恋しくてたまらない」

 椎葉の携帯が宗近の手の中にあった。本気で心臓が止まるかと思った。

「ちがっ、それは、違うんだっ。酔った勢いで……っ。いつもの俺ならそんな女々しいメール、絶対に打ったりしない!」

「でも打ったんだろう? 現にこうしてあるだから」

「おい、返せよっ。人の携帯、勝手に弄るな!」

 じたばたと暴れてどうにか携帯を奪い返したが、時すでに遅しで、世にも恥ずかしいメールは宗近のアドレスに送信されていた。送信済みのフォルダに収まっている。
 宗近の携帯が短く鳴った。椎葉のメールを受信したのだ。

「消せ……。今すぐ消してくれ、宗近。頼む」

「断る。これは永久保存に匹敵する貴重なラブメールだ。死ぬまで残しておくつもりだ」

「や、やめろ……本当に勘弁してくれ……」

 宗近は椎葉の頬にチュッとキスし、上機嫌で立ち上がった。

「チキンとケーキを買ってきたんだ。一緒に食べよう」

 宗近がキッチンに立った隙に、椎葉は今だと思い、素早く手を伸ばして宗近の携帯を掴んだた。ロックナンバーならわかっている。

 メールを開くと受信フォルダの一番上に、椎葉のメールがあった。迷うことなく削除する。

 ──やったぞ。削除してやった。

 ほーっと安堵して携帯を炬燵の上に置いた時、宗近が「ああ、そうだ」と思い出したように椎葉を振り返った。

「さっきのメールなら削除しても無駄だぞ。パソコンにも転送しておいたから」



-END-


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