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怠惰1

「変化」をテーマに書いていたものと、「想像と実際に沸いた感情」で書いていたものがあったけど、ぜんぶ怠くなっちまった。やるべきことをやってからのほうがよさそうですね。

「キモ」と思うとぜんぶ消してしまうから、それを潜り抜けた部分だけを簡潔にメモしておきたい。

変化しないほうがいいことってあんまりないなと思った。だいたいのことは変わっていったほうがいい。社会も、寝付きの悪さも、サブスクというドデカイ組織や数字がデーンと真ん中にいる音楽業界も。

でも一つだけ、自分の個性は変えずに守るべきと思う。ドラマ『初恋の悪魔』に大好きな台詞がある。

「世の中を恨む悪魔になっちゃダメ。人は人。自分らしくしていれば、いつかきっと未来の自分が褒めてくれる。僕を守ってくれてありがとうって」

ブレていいし、何かに影響を受けるのもいい。でも、居心地の悪さを「ここにハメたらちょうどいいから」って切ったり曲げたりしてはダメだと思う。

自分を削ってしまうのも分かる。自分を自分として受け入れるのって面倒くさい。私みたいに隠れエゴイスト的な要素がないと苦痛だと思う。

下手な知識が、自分の個性とか感性を簡単に削る。SNSなんてそんな刃ばかりで、「この人の骨格はストレートだからこういうパンツを履くべき」みたいな、どこぞの誰かさんによる最悪のアドバイスが平気で飛び交っている。

自分は自分をどれだけ守れているのだろう。最近、「守れていたからかもしれない」と思えた嬉しい出来事があったけど、それはいったん置いておいて、少し前にも書いた向田邦子さんの「あだ桜」を読んだ時にもそんな気持ちになった。

「あだ桜」では、平たく言うと邦子さんのしなくてはならないことを先延ばしにして、しなくてもいいことに手をつけてしまう怠惰な性格が面白おかしく書かれているのだけど、なかでも印刷所の前に停めてあったオート三輪の荷台に寄りかかって原稿を書いていたエピソードが特に好き。

似てるなんて烏滸がましくて言えたもんじゃないけれど、私も取材前にレーベルのビルの前にある立派な花壇を机にして、追加の質問をメモ書きしていたことがあった。忙しさは邦子さんに比べたらほんの少しだろうけど、「あだ桜」はそういう自分のダメなところがいくつも思い出される随筆文で、まさかこの人の文章を読んで自分が「この気持ち知ってる」なんて思うとは想像もしていなかったものだから、衝撃的でボロボロと泣けてきてしまった。

そして、邦子さんはその怠惰な性格が年々増しているとおっしゃっていて、小さく絶望感もいただいた。私にはどうにか可愛がってきた個性くらいはあるかもしれないけど、センスも才能もないからね。

自分の怠惰な性格には飽き飽きしているから、それを個性だとはあまり思っていないけど、好きで、恐れ多いと思っている方がそっとだらしなさを仄めかすと、「ふうん」なんて何でもない顔をしながら実は嬉しくなってしまう。うっかり「そうなんだ。じゃあこの気持ちは知ってる?」なんて話しかけたくなってしまう。

「この人もそうなんだ」という安心感。救われるまではいかないけど、今までヂクヂクと痛め続けていた部分を初めて労われるような心地になる。それは、『初恋の悪魔』でいうあの台詞みたいに、過去の自分を褒めてあげるのと似ているのかもしれない。

最近も相変わらず、向田邦子さんの本ばかり読んでいる。死後の世界とかはないと思ってるけど、もしあるのなら真っ先に探して握手してもらいたい。「あのマンション、今建て替えしてるみたいですよ」とか、「お気に入りの喫茶店はなくなってしまいましたよ」とか、緊張のあまりにもう何人ものファンが伝えているであろうことからお話して、自分が邦子さんの作品をどのように読んできたのかを少しだけ聞いてほしい。

もし自分が想像していた人柄と全く違っても、ぜんぶひっくるめてその人として好きになる自信がすごくある。邦子さんをはじめ、自分が「これだけは」と愛情を注ぎながら触れている人や音楽のことは、ガッカリしたり揺らぐようなことはない。信じているわけではなくて、むしろ、その人のことはあまり信じていないから(笑)。その人のことよりも、その人が生み出したもの、表現と、それとともに過ごしてきた自分の時間を信じている。だから、その人の性格がどうであれ、裏側にどんな事実があれ、知ることができればぜんぶが嬉しいし、面白い。

この気持ち、誰か分かってくれる人はいるのだろうか。私は何かを好きになる時の熱量がちょっとキモいらしい。この前なんて、山ちゃんが如何に素晴らしい芸人さんかを話したら、相槌がてら「そう言えばさ」ってあるバンドのヤベェファンの話されたよ。そこに紐づいちゃうの?

「自分はそんなに一つのものにどっぷりハマらない」とかよく言われる。たしかに気づいたら一緒に楽しんでいる人はいなくなっている。でもぜんぜん寂しくない。「センスねえな」とかはたまに思う。

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