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いつかは強みになる?

中学の頃に観た月9で、主人公がバスケの自主練をしている公園に“Love makes me strong.”と書かれた広告看板があった。

それは同ドラマのキャッチフレーズ「恋は人を強くする」で、私はその言葉を信じ、お守りのように思っていた時期があった。

当時の自分には頗るに惚れている人がいて、その人は自分よりも賢く器用な上、努力もしているような人だから、私は少しでも追いつきたい思いで、まったく伸び代を感じない部活も、時間をさいている割に上がらないテストの点数も、その言葉のおかげで最後まで粘り続けられたように思う。

“努力家の人は、努力をしている人が好きなはず”と疑わなかったが、そんな自分なりの努力も虚しく、そのうち彼は可愛いだけの同級生(いまだに現役の僻み)と付き合い始める。

彼女がリアル(死語)に「Love makes me strong.(照れ顔のデコ絵文字)」と書き込んでるのを見た日には、「アンタは西野カナにだけ共感してろ」とむちゃくちゃ腹を立てた。

あの時の自分がどれだけイライラしていたか、今でも鮮明に思い出すことができる。別れたあとも彼にズルズル片想いしてたくせに、他に言い寄ってきたイケメンと付き合いだしたのも余計に気に食わない。自分が彼に振り向いてもらえない以上、彼女と自分の想いの差を勝手に比べて“私のほうが好きなのに!”と嫉妬する以外にできることがなかった。

そんな醜い感情まみれの中学時代を思い出す“Love makes me strong.”の看板と、サブスクで久々に再会した。恋は本当に人を強くするのだろうか? たしかに月9みたいなドラマでは、恋をした主人公の心に「誰かのために」という気持ちが芽生えた途端、物事が上手くいく展開が多くある。

実際はどうだろう。自分においては“誰かのために”と意識すると押し付けがましくなってしまうから、あくまで自分のためというか、“このことを"誰かに伝えたい"と思った自分のために行動する”というほうがうまくいく気がしている。

私の場合、恋は大抵弱みになる。柔らかく、傷つきやすく、愚かな行動につながる感情が心の大部分をしめる。

そのまた昔、小学生の頃の席替えで、目が悪い人は席替えのくじ引き後に前へ移動ができるというシステムがあった。

まず、目の悪い人はくじ引きの前に忠告することが決まり。私はガンガン視力が落ちていたので移動の権利をもらい、くじで引いたのは一番後ろの席。座ってみて見える見えないを判断するまでもない位置だが、隣の席を引いたのが好きな人だと分かった途端、全員の前で「あ、見えるから大丈夫です」と言ってしまったことで大バレして、しばらく「は? 違いますけど?」みたいな強気な態度を取ることに体力を使いまくった。好きな人は何も知らないような顔で普通に接してくれてもっと好きになった。

好きな人とのメールを優先して、次の日に予定があるのにオールしたことは何度もあるし、好きな人に「制服が似合わない」と言われてから怖くて制服が着られなくなったし、恋が叶わなければ恐ろしいくらいに他人を僻むし、好きな人が恋人になれば他のことがどうでもよくなって、恋人にどれだけ腹を立てた日でも、寝顔を見たら忽ち“らいおんハート”モードに切り替わってしまう。

もしも私があのドラマの主人公だったら。きっと毎朝毎晩と視界に入るその広告看板にケチをつけ、恋をして、ちょっと信じてみた矢先に失恋し、その深夜にスプレーで“Love makes me weak.”と書きかえていただろう。

“恋の力”なんて言い回しもあるけど、恋にあるのは力ではなく怒りだ。だいたい傷つくことのほうがダメージが大きいのだから、その先には醜い怒りが待っている。時に簡単に許さないほうがいいことをコロっと許し、怒らないほうがいいことにムキになり、立ち直れそうなことになかなか気持ちの踏ん切りがつかない。

こんな考えれば考えるほどに弱点まみれのものが、いつか本当の意味で成就することはあるのか。

最近思う。恋に限らずとも、何かを好きになるよりも頭で考えて行動することが得意な性格だったら、どんな人生だったのだろう。少なくとも今の仕事は選んでいないし、選んでいたにしても、もっと稼げる見込みのある場所を選んでいたと思う。何かを好きになったことで突き動かされ、好きな気持ちのせいで周りが見えなくなり、たいした努力をせずに貴重な時間をその欲に費やしてしまったような気がしている。

はっきりと後悔しているわけではないけど、まだ若いとされる年齢のうちに軌道修正したい。でも、これまでは何かを好きだと思う感情が先にあったから、それがイマイチないというか、あったはずなのになくなってしまった今、なにを頼りに動いたらいいのか。頭の動きが鈍く、抜け出したい、抜け出したいという気持ちだけがそこらじゅうに転がっているような感覚でいる。

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