【雀】スズメ目ハタオリドリ科の小鳥。季節を問わず主に人家の近くに巣をつくり群棲する【無季】
今朝は用事があって駅へ歩く道すがら茶色い柔らかそうな塊が潰れているのを見た。白い側溝の上で少し目立つ。最初は台風が運んだ泥土や犬のフンかと思ったけど違うらしい。液体っぽくないし粒子も細かくない。周りには父子と青いジャンパーを着たなにかの業者らしき男がマンションの軒下を見上げるような姿勢で立っているだけで、この色が階層的にところどころ異なる(茶だったり朱だったり淡黄色だったりした)物体に注意を向けてるひとはその時いなかった。わたしも実はそんなにじっと見ていたわけではなく、通りがかりにちょっと覗いたくらいだったけど、その正体はなんとなく見当がついていた。去年旅行から帰って来たときに家の前で見たのと雰囲気が似ていたからだ。雀の死骸だった。足首の形だけが白い側溝の上に残っている。車に跳ねられたんだろう。わたしが前に見たのは、おそらくカラスかなにかにやられたもので、まだ体が温かかった。鳥類の内臓の嫌な匂いを、わたしは初めて嗅いだ。死骸は近くの川へ還すことにした。他にどうしていいかわからない。もしかしたら違法なのかもしれないけど、埋める場所もないし家に入れるわけにもいかない。外に放置していたらそれこそカラスに啄かれる。でも今朝の雀の轢死骸にはなにもなかった。ただの柔らかそうな塊だった。
わたしは電車の窓に流れる風景を眺めながら、考えているふりをしつつ考えないという、いつものぼんやりとした意識に埋没している。今日の用事はあそこ行って、ここ行って、それにあれとこれをこなしてしまう。終わったらお酒でも買って帰ろう。明日は日曜だし。クリームシチューのパスタとアボカドサラダなら白ワインとか? ふつうにビールでも合いそうだけど。太るからなあ。やっぱり今日は白ワインにしよう。さっきの光景をふと思い出す。雀って季語なんなんだろう。Kindleの角川歳時記で検索すると「孕雀(春)」「雀の子(春)」「雀の巣(春)」とか「寒雀(冬)」「初雀(新年)」などが出ていた。へー、雀だけでは出てないのか。と思ってコトバンクで「雀」を検索すると
ということらしい。あらゆる季節にあるものは無季なんだなあ。ちょっと面白い。わたしもここで無季の句をつくってみようと思った。
俳句では「○○忌」という表現がよくつかわれる。それは忌日と季節が結びつくからだろう。
前回の記事でも引用させてもらった俳人の句。一葉忌とはもちろん樋口一葉。十一月二十三日が命日らしい。こんなふうに。この句のみならず哀悼という感じはあまりしない。もちろんそういう句もあるにはあるのだろうけど。それはかなり近しい間柄のひとだろう。雀の死は痛ましい。でもだからといってその死を痛ましく描くのはあまりにも身勝手だ。それは自分の死をそこに読み込んでいるのではないかと思う。なのでわたしは少し離れたところから雀を見てみたい。
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