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綺麗事抜きの公営競技指南 競輪編その2

 あらゆるスポーツ勝負事はデータが物を言います。競輪もそれは例外ではありません。しかし、データは読み解けなければ単なる数字の羅列です。

 そこで、競輪選手の成績について今回は説明させていただきます。しかし、そこは競輪なので数字では表現できないものが多いわけです。そこに選手や胴元が隠したがるリアルと、予想の最大のヒントが隠れています。

予想印を鵜呑みにするな

 これは競輪の公式サイトから拾ってきたあるレースの出走表です。公式サイトのフォーマットが少し前に変わって不評ですが、それでも競馬よりはずっと親切な作りになっています。

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 中央競馬ではありえない事ですが、主催者と予想紙の会社が提携してラインの並びに予想印、更に3連単における支持率という便利なデータも提供されています。

 予想印は新聞によって違いますが、おおむね◎→〇→△→×の順になっています。完全なビギナーの内はこの印だけを見て買ってもいいですが、競輪の予想印はあまりアテになりません。

 というのも、競馬なら馬と騎手の能力と、展開や各種条件を加味してて印を付けるわけですが、競輪はラインがあるのでこう単純にはいきません。

 例えばこの出走の場合、一番強いだろう自力型の1番松岡に◎が付いていますが、一番強いウマの番手は多少能力が怪しくても〇になります。もっとも、このレースの場合〇の7番松尾はそれなりに信用してよさそうです。

 その一方で◎松岡が引っ張るラインに対抗し得るのは△西田のラインというのが予想印からは読み取れます。

 ここに競輪の予想印の罠があります。競馬で◎=△なら結構来そうですが、競輪で自力型同士で決着するというのはかなり展開のもつれたレースです。むしろ△西田が勝つとしたら、番手である無印の3番國武との決着になる可能性が高いでしょう。

 あるいは6番車の田口は一番格下ですが、イチかバチかで派手に逃げれば2番の高嶋が車券に絡むこともあり得ます。このように、どんな展開を想定するかで印が全く変わってしまうのが競輪なのです。


選手の素性

 左から順に行きましょう。最初は名前です。競輪選手の選手寿命は長いので、一度覚えれば競馬よりも楽です。

 そして登録地。これがラインの根拠になるわけですが、競輪の世界では新潟が関東だったり福井が関西だったりと前衛的な区分けになっています。詳しくはWikipediaか何かを参照してください。

 また、競輪場のない県に登録している(住んでいる)選手、引っ越して移籍する選手、住んでいる場所と登録地が一致しない選手と色々です。この辺は長く見ていないと見落としがちです。

 移籍した選手は古巣の選手ともラインを組みますし、地区が違っても隣県だったり、隣り合った地区だったりすればラインを組むことがままあります。詳しい事は改めて他の回に解説します。

 そして期別というのは競輪学校の卒業期のことです。しかし、ここで注目すべきは期よりも年齢です。競輪の世界の上下関係は年齢で決まるのです。


S級かA級か

 級班というのが目に付くはずです。これは競輪選手のグレードです。S級S班、同1班2班、そしてA級は3班と、成績に応じて6つの階級に分けられます。

 そしてS級、A級12班、A級3班(チャレンジと呼ぶ)の3層に分かれてレースをします。実力差の少ない相手と競争する仕組みです。

 選手は半年ごとに審査され、1月1日と7月1日に前々期の成績を基にクラス分けされます。前々期というのがポイントです。

 例えばS級2班の選手がある期でA級に落ちてしまう成績に終わったとしても、来年まではS級なのです。

 その間にどう過ごしたかを知るのが予想のカギになります。たまたまこの期だけ怪我か何かで不調で来期には復調した場合、S級の力を持ってA級に落ちる事になります。

 これは選手にとって屈辱ですがチャンスでもあります。こういう選手はA級で半年間目一杯暴れて稼げるのです。

 逆に言えば単純に衰えてA級に落ちる場合も、1年間はS級で居られるわけです。こういう選手はS級でいる間は問題にならず、A級に落ちても相応の力しか出せません。

 しかし、S級から落ちて迎えた初戦は元S級というだけである程度人気になります。こういう選手を見抜くのがチャンスなのは言うまでもありません。

 逆にA級からS級に上がる場合も1年はA級です。S級になれるからと浮かれて怠ける選手も居れば、相手が強くなるS級昇級に向けて気合を入れる選手もいます。

 とにかく、これについても詳しい話は次回以降です。


脚質とプライド

 脚質という欄もあります。逃なら先行選手(ウマ)で、追ならマーク屋、そして両はどっちでもいけるという事です。しかし、これはあまりアテになりません。

 というのも、この脚質は選手の自己申告です。若いうちは馬力を活かして先行選手としてスタートし、やがて歳を取ってマーク屋になるのが競輪選手のライフプランです。

 しかし、多くの選手は少しでも長く先行選手で居たがるのです。所詮マーク屋は先行選手次第で成績が左右されてしまうからです。

 そしてマーク屋になるというのは競輪の世界では老いたという事です。転向するタイミングは成績=稼ぎとプライドと能力の兼ね合いで決まります。

 もはや先行選手としては賞味期限切れなのに意地を張って先行選手の看板を下ろさない頑固オヤジも居れば、まだ先行選手としてやっていける脚があるのにさっさとマーク屋になって荒稼ぎをもくろむエゴイストも居ます。

 いずれにしても、脚質というのは単なる心構えの表明ととらえるのが賢明です。

競走得点

 選手のクラス分けは各期間の競走得点で決定されます。競輪のレースは格に応じて何着で何点と得点が定められていて、その平均点が競走得点です。

 この出走表の場合直近4か月の数字ですが、公式サイトだと各選手の開催ごとの得点の推移も確認できます。これが◎松岡の数字です。

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 赤いグラフが単純な過去4か月の平均の競走得点、青いグラフがランクを決めるために使われるこの期の競走得点です。

 ここから興味深い数字が見て取れます。松岡は前期S級でしたので、1月時点では高い競走得点を持っていました。S級のレースの方が競走得点のベースが高いのです。

 しかし、松岡はA級でかなり勝っているというのに走るうちに得点が下がっています。それだけA級とS級では貰える点数が違うのです。

 従って、期の変わり目に見せかけの得点だけで実力を判断をするのは危険です。A級の100点とS級の100点は全く値打ちが違うのです。

 もっと競走得点には綺麗事抜きで語るべきことが沢山あります。これについても次回以降です。


只今の決まり手

 競輪独特のスタッツが決まり手です。それぞれ「逃げ」「捲り」「差し」「マーク」を意味し、2着までに入った際の動きで決まります。

 最終周回までに先頭に立って押し切ったら「逃げ」、逃げた選手を最終4コーナーまでに追い抜いた場合は「捲り」、最後の直線で番手から抜け出した場合は「差し」、番手のまま2着に入れば「マーク」となります。

 形はどうあれ、この決まり手の数が多いほど2着までに入っている数が多いので強いと言えます。そして、問題はこの決まり手の分布です。

 自力選手は当然「逃げ」や「捲り」が多くなります。逃げが多くて捲りが少ない選手は単純な馬力で勝負を決めるパワーファイターです。トップスピードを長く維持できる選手です。

 しかし、競輪選手は脚だけで走るのではありません。この手の選手は脚は良くても頭が悪いタイプが少なくありません。レース運びが下手で逃げる展開にならないと勝てないとも言えます。

 「逃げ」が少なく「捲り」が多いのはトップスピードを長時間維持できない代わりに瞬発力のある選手です。

 また、捲りは展開に成否が大きく左右されるので、捲りで勝てる選手は頭も悪くないと考えられます。

 本当に強いのは「逃げ」と「捲り」がどっちも使える選手です。逃げ切れる馬力と捲りを決められる瞬発力と頭脳があるわけです。

 自在型の選手は「捲り」と「差し」が多いわけですが、逃げる力が無くなってマーク屋に転向する過程なのか、レース運びが上手い選手かで話が違ってきます。また、「捲り」が減ってきたら自在型の看板も下ろす時期に入っているという事です。

 マーク屋で「差し」が多いのは最後の最後にウマを抜き去っていく力がある選手です。時々「捲り」もあるとかなりの脚力の持ち主です。

 しかし、単にウマを平気で捨てる選手である場合もあります。真に強いマーク屋は僅差で2着にウマを残す選手です。

 「差し」が少なく「マーク」が多い選手は要注意です。自分を捨ててでもウマを守る漢である事もありますが、多くは単にウマを差す力のなくなった選手です。

 単に強いウマの揃った地区に居るという既得権益にすがって2着を稼いでいる食わせ物がかなり混ざっています。こういう選手を過信すると痛い目に遭います。この手の選手は『あいつの脚質は「追」じゃなくて「マ」だ』などと陰口を言われます。

 いずれにしても、決まり手も結果でしかありません。過程を熟知することが肝要です。これは特に回数を割いて徹底的にやります。


男は生き様
 B・H・Sというよく分からない数字もあります。これはそれぞれ「バック」「ホーム」「スタート」の略です。

 ラスト半周をトップで通過したらBが、1周を通過したらHが、先頭誘導員の真後ろに付けたらSが記録されます。これらは成績と直接結びつきませんが、選手の生き様を表す数字です。

 成績がどうあれBが多い選手は派手に先行する選手という事です。更にHが多ければ捲りより逃げ志向と判断できます。

 こういう選手の番手はそれだけ上位に食い込む可能性が高く、またこういう選手の番手に付いた良識あるマーク屋は極力この勇気ある若者を守ろうとします。

 Sは良し悪しです。Sを取るという事はそれだけ早く誘導員の後ろに付けるので足を温存できますが、Sを取ったラインは後ろのラインにアウトコースを塞がれて不利を被るリスクもあります。

 先行が多くてSが多い選手は基本的に頭が悪い選手です。レース運びが下手なのでせめて足だけは取っておこうという了見です。

 こういう選手が展開が向かずに不利を被ると、番手の事を考えずにイチかバチかの捲りに打って出ます。番手は付いて行けず置いて行かれ(千切れるという)て、迷惑にも自分だけ3着に飛び込んだりします。

 マーク屋のSはちょっと特殊なので、これについては後に譲ります。

 とにかく、これだけ覚えればこの選手がこういう男だとある程度推定できるようになります。次回はレースの流れについて解説しましょう。

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