「どうなってもよくはないんだよ!」

 東京03の角田さんはこれまで何度もライブやDVDで観ているけれど、本当に素晴らしい芸人さんだなぁとつくづく思う。もはや喜劇役者に近いと言ってもいいぐらいだ。
 角田さんのすごさ。それは「ブレなさ」と「跳躍力」のバランスだと思う。「ブレなさ」について、角田さんがネタ中に何かにつられて笑ってるところを一度も見たことがない。アルファルファの二人は笑ってつい素が出てしまうことも多いのだが、角田さんははじめから終わりまでずっとコントの中の人で居続ける。そして「跳躍力」。アドリブのセンスと言い替えてもいい。どこまででも行けるようなバネで以て、観客の笑いをドカっとかっさらう。

 自分が大好きなのが、第13回単独ライブ「図星中の図星」でのネタ「救世主」だ。これはDVD、YouTubeでも公開されているのでぜひ観てもらいたい。
 「上司(角田)が息子へプレゼントするはずだったラジコンを部下の豊本が壊してしまう。そこへ現れた飯塚が救世主となってラジコンを修理していく」というあらすじ。途中でそれぞれの立場が逆転し、終盤は壮絶なドタバタコントへと発展していく。特に豊本さんを本気で殺そうと飯塚さんが事務イスを投げまくる下りは、回数を増すごとにどんどんエスカレートしていったもので、収録されている回は相当激しい。そして、注目なのが最後の飯塚さんと角田さんとのやりとり。

「もうどうなってもいい、殺す!」
「おい! どうなってもよくはないんだよ!」

 おそらくどちらもアドリブである。怒りに身を任せたある意味「素」の飯塚さんの言葉に、「コントの中」の角田さんの「どうなってもよくはないんだよ」という台詞。飯塚さんはちょっと笑ってしまう。角田さんはクスリともしない。そして客席からの惜しみない拍手笑い。この下りはいつ見ても楽しいし、何と言うか、ライブで鍛え抜かれた03だけが持つ、とても甘美な瞬間だ。
 こういう瞬間が03の全国ツアーの間には数多くあって、回ごとにコロコロ変わったりもするので、自分が実際に観た回と映像に収録されている回との違いを発見するのも面白い。そしてつくづくお笑いは生モノだと思わせてくれる。劇場へ行かねばならない、と。

 さて、ここまですごいすごいと言ってきた角田さんだが、飛びすぎてちょうどいい着地点をよく見失ってしまうのが玉に瑕で、脂の乗った状態であるかどうかは、幕が明くまで本人にすらまあまあわからんのである。