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「ローカルガストロノミー」イベントレポート

2020年11月「ローカルガストロノミー」をテーマに行ったイベントのレポートNo5です。舞台は発酵の町、秋田県湯沢市。秋田の伝統食材を使用し、未来に食文化を継承するべく「自然と人が共生する」を探究するべく、新しい地域の料理を楽しんだ1日目に続き2日目はシンポジウムを行いました。
そのシンポジウムの中で行われた『未来の食を考える分科会』についてこの記事を通して共有したいと思います。

分科会では、ローカルガストロノミー、農業、テクノロジーの3グループに分かれて議論を行いました。

●農業分野の分科会参加者:8名(大学生5名、秋田県の農家1名、農林水産省職員1名、秋田県内企業社長1名)
・中山間地域の耕作放棄地を再生させ、「人と自然の交わり」をテーマに農業に従事する学生。
・海外のファームを周り、海外と日本の農業を勉強している学生。
・農業や食に興味はあるものの、自分が何をしていけばいいのかを考える機会にしたいと足を運んだ学生。
・伝統野菜に魅力を感じ、自らの畑で栽培を行う学生。
・耕作放棄地を開墾し生産、販売まで手掛ける学生。
・農薬、化学肥料に頼らない生産手法を取り入れている、秋田県の農家さん。農業をコミュニケーションを育む場としての提供を行い、生産と消費の垣根を超えた取り組みを行なっている。
・農林水産省版オープンイノベーションを主に担当している農林水産省職員。農林水産省の内外とアイディアなどの政策資源の流出入を行い、組織内部のイノベーションを促進する役割を担っている。
・生花を天然貴石等で着色し、長期保存する技術開発を手がける秋田県内企業社長。循環型社会・サスティナビリティに基づいた開発を地域と共に考えた取り組みを行なっている。

●分科会内容
会のはじめに農業における問題点をあげた。その中の「耕作放棄地」を焦点として、話を進めた。耕作放棄地となっている所は「農業従事者の高齢化」が深刻であり、機械が入れないほど奥まった「条件不利地」であるなど、他の農業の課題と結びつく点があると理解できた。
条件不利地が増加している中山間地域では、人がどんどん離れてしまっている。奥まった農地より、「開けた農地」を欲する人が多い。しかし、見方を変えると「自然環境」は奥まった農地の方がいいかもしれない。オーガニック栽培を行いたい農家にとっては「残留農薬」の心配も少なくて済む。加えて、「種が混ざる可能性」も低いため、「伝統野菜」を栽培するのにも適しているかもしれない。また、参加者の学生から次のような言葉が出た。「東京で長い間生活をしていた。秋田の農地の景色はとても美しく、心打たれるものがある」と。このまま山に戻すより、人と自然の交流の場にできないのかと意見として上がった。
そこで参加者全員で考えてみた。「農業は生産だけなのか?」と。すると、「農村の暮らしを守りたい」と学生からの発言があった。理由を聞くと、「私の地域はよく野菜や魚など、お互いの貰い物で生活しており、所得を目的としていない生活の豊かさは農がそこの地域にあるからだ」と、学生は言う。もしかしたら、コミュニティーと農業は共生しているのかもしれない。教育の面に視点を変えると、農村の暮らしでは、親以外の大人と話すことが多く、小さい頃から地域に認められていると感じることがあり、若者を受け入れてくれる体制があるのかもしれない。ましてや、農業体験をしたり、友達と川や山などの自然のもとで遊んだりした思い出は、今では希少価値が高いものとされるのではないでしょうか。やはり小さい頃からの暮らしは人生においてとても重要なものなのになると感じる。
今回の分科会で多く聞こえた「分断」という言葉。「都市」と「農村」、「農業」と「食」、「固定種」と「F1種」のような分断。それぞれが共存している現代だが、この先、共生し合う未来になればいいと思う。農村は人がいなくなっていくから消滅しても自分には関係ないだとか、自分が口にする食べ物が目の前にあれば生産現場のことを知らなくても別にいいだとか、こういった考えを持っている人がいるかもしれない。
もう一度足元の幸せを見直すことが大事だと、議論し合う中で意見として上がった。夏の避暑地として農村に足を運んでもらえるような環境づくり、都市部で地域の食について考える機会提供、住民が地域資源を見直す機会を設ける(地域の人が宝だと思わない限り、外の人がいいと思っていても続いていかない)等、やり方はたくさんある。
食とは人間が生きるために必要不可欠である。しかし、生産から食べるまでの工程が増え、いくつかの隔たりが生まれている。消費者ではなく、共生産者として農を身近に感じて欲しい。コミュニティの形成や、有機栽培、食育、景観保持等、農業の考え方は多様化している。今後は農業に対して、テクノロジー、ローカルガストロノミーの技術や、考えを加えることにより、新しい農業のモデル構築が実現する可能性がある。その上で、生産者は何を手伝って欲しいのか、何に対して悩んでいるのか等を明確化するべきなのかもしれない。食に携わる多様な人々が介入しやすい場所を、共に創り上げていくべきだと考える。

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