はっしぃとの出会い

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久しぶりのはっしぃネタ。すごーく矛盾だらけです。
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「ねぇ。はっしぃ。はっしぃ。」


窓から見える街路樹はみんな葉を落としていて、はっしぃは虚ろな目でそれを眺めている。呼んでも反応がない。いつものことだ。
はっしぃは彼女のその世界で、僕の知らない何かが終わるまで、ひと口食べかけた『今日のドーナツ』もそのままだし、マスターがいつもタダで出してくれるアッサムティーも半分以上残っている。僕は高校2年の秋の深まる頃で、彼女は1年生だった。

いつか、はっしぃがその世界に行かずに済むようにしてあげたい。僕にとっては全くの未知の世界なのだけど、いつか戻って来られなくなってしまうのではないかと不安なのだ。
口が少し広がり、白目の部分の割合がわずかに広がる。彼女の肉体には今、誰もいない。

人がその本人でいられるために必要なものが本人の記憶ならば、はっしぃのそれは間違いなく悲惨極まりない。飛行機がビルとビルの間を飛び、それに乗っていた皆が歓喜の声を発し目を輝かせていたそのとき、彼女は目を瞑っていたというけれど、彼女は聞いていた。耳は機能していて、その事件の唯一の幼い生存者は、周囲十数人の、最後の数十秒間の会話を全て記憶していた。そしてたぶん、今も記憶している。
はじめ警察は彼女の記憶に興味を示さなかったが、幼い彼女が遺族に警察を通して記憶した言葉を伝えたいと申し出たとき、彼女の驚異的な記憶力は世間の人々を気味悪がらせた。

そしてひとり生き延びた彼女は、本当にひとりになった。彼女を引き取った親類はすぐに手放し、どういう伝手をたどったのかは知らないが、僕らが暮らす神社にやってきた。
彼女は日中、小学校で明るく空回りし、夕闇と交わるようにどこかへ沈んでいった。僕はただ横を歩くだけだった。学校は彼女を他の子たちと同じように扱おうとしたが、IQテストの後でそれは変わった。
神社には僕のときと同じように国のなんらかの機関がやって来て、はっしぃと1時間ずつ、1日に何度も何度も、そして何週間も面談を繰り返した。
僕は黙っていたのだけど、面談に訪れた彼らがはっしぃに僕も同じ境遇だと伝えたときのはっしぃの目は今でも覚えている。
「みんな死んじゃったの?」とはっしぃは訊いてきた。僕は「みんな殺したんだよ」と答えた。警察は犯人の目星もつけられずにいたが。

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参考: https://note.mu/agi/n/nf0ac90a6df0f
今のところ、本当に矛盾だらけですからね?
前のやつ、読み返してすらいない。

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