ナギサチャンによって滅んだ世界の記録

ナギサチャンによって滅んだ世界の記録

それはこちらを見て、ふっと息を抜く笑い方をした。何故かそういう風に、はっきりと、それの臓物の動きが七種茨には分かった。十字の星を正中に宿す瞳が朱いのも、腰まである緩い巻き毛が天の川をそのまま纏ったような白銀なのも。白黒のはずのモニターを凝視して茨は唾液を飲んだ。キーボードに乗せた指が酷く汗をかいている。首筋から始まった鳥肌で背筋までが震える。壁一面に設置された盗撮映像のモニターの全部、それぞれ別の角度に設置したリアルタイムの映像全部に

「………みぃーつけた」

蕩けるような朱い目が嗤っていた。

「……ッ!!」

刹那、激しいノイズと共に部屋中の機器が熱を持つ。不協和機械音は瞬く間に起動していたコンピューターの悉くに拡がり、ドミノ倒しの如く画面がブラックアウトする。

「クソッ…なんなんだよ…!!」

真っ暗な画面からいくつもの声が聞こえる。

『………っ…ふふふっ………』
『みつけた、みつけた……』『うふふ…おこった、おこった…』『……ねぇ…ほら、あのこ、おこってる…おもしろい』『…わたし…きにいったから、あれがほしいの』『……わたし、ずぅっとかわいいにんげんのおとこのことあそんでみたかったんだ』『こねこもこいぬもこうさぎもだめだったけど』『にんげんのおとこのこなら』

ふっ、と音が途切れる。耳鳴りがした。茨は咄嗟に耳を塞ごうとしてヘッドホンを頭からむしり取ったが、遅かった。モニターが一気に点灯する。全てのそれ、が同時に同じ言葉を吐く。

『……ああ、でも……こわしちゃったらごめんね?』

吐き捨てるように、画面が落ちた。発火してもおかしくないワンルームで茨はミネラルウォーターのペットボトルを引っ掴む。

「……クソッ……!」

ひび割れたモニターをぶん殴る。まさか物理的に干渉することまで可能だとは。過呼吸じみた呼吸の中、茨はぐしゃぐしゃと髪を掻き回して今現在、唯一閲覧可能な紙の資料を引っ張り出した。

──通称、終末の獣。正体不明。人類に対して極めて有害な生物。過去の出現記録は1914年及び1939年。いずれも戦場で確認されている。人間同士の闘争を非常に好んでいるが、自ら戦闘能力を保持しているかは不明。