リレー小説 note13 短物語

空音さん主催のリレー小説です。


「付き合ってください」

そう言われることは大体予想できた。放課後の、更には屋上に、それも女子から呼び出しされれば誰でも分かるだろう。

しかし僕はこう答えるしかない。

「ごめんなさい。付き合うことはできない」

クラスは同じで、何度も話したことはあるし、笑顔は可愛いし、勉強できるし、運動もできる。普通ならOKしている。しかし僕は普通ではない。二十歳まで生きられないのだから。


「行ってきま~す」

今日も元気よく家を出る、憲次16歳。青春を謳歌している年頃なのだが僕はできない。もっとも、仲の良い友達がいないからだ。四年後には死んでしまう友など誰も持ちたくはないだろう。

余命を宣告されたのは去年の夏。部活中に突然倒れ、病院で詳しく検査したところ二十歳まで生きられないと言われた。僕は現実味なく呆然としていたけれど、母親は泣き崩れ、何度もごめんなさい、ごめんなさい、と言っていた。

これが影響して母親はうつになり入院したが、ものの二か月で退院して今ではすっかり元に戻っている。

教室に着くと、昨日告白してきた、夏実が何事もなかったように挨拶してきた。僕は戸惑いながら「お、おはよう」と言った。すると笑顔になり、友達の方に戻っていった。

やっぱり好きだなぁと思う。なぜ昨日振ってしまったんだろうと反省するが、しかし早く死ぬと分かってしまえば僕から離れていくだろう。僕にとってそれが死よりも恐ろしく、つらい。そう思うのはある経験をしたからだが、今は触れないでほしい。

その日の昼休み。夏実が話しかけてきた。

「未来ノートって知ってる?書いたことが絶対叶うんだって」

夏実から聞くまでもなく、この噂は今、学校中に広まっている。

「憲次君がもし手に入ったら何を書く?」

「寿命が延びますよ…ぅ…」

気付いたら口から出ていた。慌てて口を閉じるが、如何やら多くの人が聞き入っていたらしく、みんなが口を揃えて「どういうこと?」と聞いてきた。

「長生きできたらそれに越したことはないかなぁと思って」

みんな納得してくれたようで元の位置に戻った。胸を撫で下ろす。へまを踏むところだった。

「私は彼氏ができるようにって書くかな」

夏実は僕に聞こえるぐらいの小声で言った。

その帰り道、一人で歩いていると、上からノートが降って来た。それには『未来ノート』と書いてあった。上を見ると電線にカラスがいた。カーカーと鳴く声が「贈り物だ」と言っているような気がした。



家に着くと、とりあえずペンを持つ。もしもと考えていたけれどいざ書くとなると気が引ける。しかしこんなものならと思って書いたことは「今日の晩御飯はカレーライス」。本物か確かめるのに上々な選択だったと自分を褒めた。

「御飯できたわよ」と母の声が聞こえ、リビングに行くとカレーの良い匂いが鼻孔をくすぐる。御飯を食べ終え、部屋に戻るとあのノートをすぐさま取り、こんなことを書く。「明日の天気は晴れ」。ニュースで明日は雨となると言っていたからだ。

次の日は快晴だった。雲一つない完璧な青空だった。

気分爽快で家を出る。学校に十分間に合うが走らずにはいられない。その時、左から出てきた人とぶつかる。よく見るとそれは夏実だった。お互いに謝りながらぶちまけたカバンの中身を戻す。そのまま二人で学校に行く。

自分の席に着いてカバンの中から『未来ノート』が無くなっていることに気付いた。ちょうどその時、夏実が

「見て見て。未来ノートがカバンの中に入ってた」

朝ぶつかったときに間違って夏実のカバンに入れてしまったらしい。夏実の周りにはすでに多くの人が集まっている。「何書くの?」と女子が騒ぎ立てる。

夏実は何か書いたらしく、「何って書いたの?」と尋ねられている。書いた本人にしか見えないという噂も本当らしい。「秘密♡」と言っているが頬の口角が上がっている。

その昼休み。いつも通り購買に行く。その道中夏実に何か買っていこうと思うようになった。結果、購買一番人気の『モリモリヨーグルト』を買っていった。

教室に戻り、夏実に渡すと、耳を疑うことを言った。

「おぉ、ありがとう。やっぱり書いた通りになった」

夏実が書いたことは「憲次君が購買でモリモリヨーグルトを買って私に渡す」。本物だと分かり、ノートに何かを書き足した。

「憲次君って隠し事してるでしょ。隠し事ってよりかは悩み事かもしれないけど」

ビクッと体が反応する。もしこれをノートに書いたのならば、話していまうだろうと思った。人間が神の玩具に敵うはずがない。そして夏実は本当にかいたらしい。

「僕は二十歳まで生きられないんだ。だから君とは付き合えないし、誰とも付き合わない」

何時しか僕は泣いていた。この時実感したんだと思う。死ぬことの怖さを。誰も彼も僕がいたことを忘れることを。

「残り僅かな命だからこそ、楽しもうとは思わないわけ。閉じこもってみんなと距離とって、静かに死のうと思っているわけ。私はそんな理由で終わりたくない。死ぬその一瞬まで私はあなたのそばに居たい」

最初は泣いていた夏実は言い終わるころには強い意志を持って言った。

憲次はこの後、夏実と付き合い、死ぬ前日まで一緒にいた。

憲次は最高の人生だったと言えるだろう。しかし一つ物申すことがあるとしたら、もう少し生きたかった。



After story

夏実は幸運なことに運命の出会いが二回あった。一回目は憲次。二回目はこの後に出会い、結婚した相手。

『未来ノート』は親友に渡した。もちろんこの人が骨董品屋になるとも思っていないし、この店で娘がノートをもらうとは思っていなかった。

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