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心の秋

小牧部長様
よろしくお願いいたします。
485字

「秋が好き」というのとは違う。
硬派で鳴らした著述家のポール・ジョンソンは、かのアーネスト・ヘミングウェイを「心に秋を持っている」と評した。
「心に秋」とはどういうことだろう。ポール・ジョンソン曰く、ヘミングウェイには欠点が山のようにある、と。それは言動の端々から滲み出るようなものなのだろうが、少年っぽい駄々の捏ね方だったり、諦めの悪さだったりするらしい。
ただ、ヘミングウェイは私も含め、その辺の男たちが憧れるようなことは何でもできた。文筆は勿論、釣りにしてもハンティングにしても、酒の強さから女性の扱いに至るまで。とにかくカッコいい男であったことに間違いはない。
最晩年の作品に「移動祝祭日」というのがある。それは自身の若かりし頃の自伝のような作品で、瑞々しさと輝きに溢れている。人生を一年に例えるならば、それは春の物語。それを老いてなお書いてしまうのだから怖しい。もしかすると、自身が人生の冬を受け入れられなかったということはあるのかもしれない。
「心の秋」とは、と独断するのは止めておこう。それぞれのイメージで、ポール・ジョンソンの言うその秋を感じていただけたらと思う。

*アメリカ人の歴史 ポール・ジョンソン著


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