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謎解き公演において、遅読は不利か?

謎解き公演(※1)内での立ち回りについては日頃より考えを巡らせているところであるが、今回あるきっかけもあって筆を執ることにした。

きっかけはこちらのツイート。

ツイート内容、そして記事タイトルのとおり、テーマはズバリ「謎解き公演において、遅読は不利か?」である。


結論から言えば、間違いなく不利だ。
そして、厄介なことに多くの謎解き公演はチーム戦であるため、それはチームへのマイナス貢献という帰結を生みかねない。

では、なぜ不利なのか。そして、そのマイナスはどうしようもないのか。
以下では、非常なる遅読家である筆者が、自身の体験に基づき考察する。


謎解きにおける遅読家は捨て置くべき駄馬?

謎解き公演においては、「ストーリーシートは必ず全員で読んでから先に進みましょう」というアドバイスをよく耳にする。
このアドバイスに従うならば、当然次に進むまでに必要な時間は最も読むのが遅いメンバーに依存して決まることになる。


これは、実はとても恐ろしいことだ。

少し具体的に考えてみよう。

チーム6人のうち5人は1分で読めるストーリーがあり、残り1人の遅読家に合わせてこれを3分かけて読んだとする。
このとき、チームとして最大10分(=2分×5人)相当のロスを生じさせてしまうのである。


ストーリーを理解させてもらえたとして、それによって1人で10分以上取り戻す活躍ができる人はそういないだろう。
取り戻せなかった分が、そのままチームへのマイナス貢献となる。


4頭の馬を連れた男についての問題(※2)を見て、「そんなに移動が遅い駄馬は捨て置け!」と思ったことがある人も少なくないと思うが、謎解き公演における遅読家は、この駄馬にあたってしまうおそれがあるのだ。

そして何を隠そう、筆者も紛うことなき駄馬なのである。マンガですら単行本を1冊読むのに1時間以上かかることもある。ダバダバ。


これは謎解きにおいても足枷となり、謎解き公演へ本格的に参加し始めた頃には、速読セミナーの資料請求までしたほどだ。


思えば受験だって仕事だって、遅読はいつだって障害になってきた。
しかし同時に、戦略次第で十分取り返す余地があった。
今回もきっと何か方法があるはずだ。駄馬には駄馬の走り方が。


速読セミナーの入会案内をビリビリと破きながら、真剣に考えてみた。


遅読家は何を読むべきか

マイナスの貢献をしない最も簡単な方法は、ストーリーを読まないことだ。
読まなければ、ゼロである。貢献をしない代わりにロスも生まない。(※3)

ただ、それでは参加している意味がないし、単純に面白くない。

では、どうするか。

駄馬が足を引っ張るのは、駿馬たちと一緒に移動しようとするからだ。
遅読家も、他のメンバーと同じタイミングで読もうとさえしなければ直接ロスを生じさせることはない。

ならば思い切って、いっそ他のメンバーとは全く違う動きはできないか。


いま、1つの謎解き公演における工程を次のように表そう。
左から右へ進み、丸印でストーリーシートが与えられ、線が太いほど工数がかかる(あくまで工数であり、難易度とは異なる)ものとする。

工程表

まず状況やルールを把握し(⓪)、STEP 1では人数分の小謎を解いて(①)答えを解答用紙に埋めて指示を導き実行する(①')…といった具合だ。 

通常ならこのとおり数字順に進めるが、これを見直してみる。
その際に有効な発想の1つに、「ボトルネックを潰す」というものがある。

まず、謎解き公演における工程は、大きく次のように分けて考えよう。

・上図①や②のように、一気に増えるタスクを同時並行で進める工程
・上図①‘や②‘のように、複数のタスクの結果等を集約して進める工程

潰しておくべきボトルネックは、後者に潜んでいる。

例えば①'で、1枚の解答用紙に同時に書き込むことができる人数は、せいぜい2~3人。6人のチームメンバーのうち半数以上が余ることになる。
せっかく6人全員の手が空いていたとしても、6馬力で進むことはできない工程なのだ。

このようなボトルネックに先回りして、少しでも足止めされる時間を減らしておく。

⓪のストーリーシートは一旦無視し、①の小謎にそのぶん早く手を付け、いち早く①'を引き受ける。
⓪はチェックポイントに並ぶ間などにでも戻れば良い。

その後も、"船頭多くして"になりそうな②'のパズルを先に解き始めるとか、③で使いそうな対応表を予め作っておくとか、ストーリーの読解を後回しにしてもできそうなことはいくらでもある。

もちろん、先行が過ぎれば予想を外して無駄骨に終わるリスクはある。
いくらでもある選択肢の中から、

(必要になる確率)×(必要と分かってから全員で取り掛かったとしたら掛かる時間)

がより大きいと思うものを優先すべきだ。

遅読家が真に読むべきは、先の展開なのだ。


遅読家はRPGでいう職業のようなもの

解答用紙を埋めるくらいであれば多くの人が自然と並行して進められるかもしれないが、「1つのタスクが全て終わってから次に進みたい」と無意識に順を追ってしまう場面は案外多い。

チームメンバーの大半はそれでいい。想定された順序で一つ一つ正しい理解を積み重ねることは重要だ。ただ、全員がそうである必要もない。

違和感に気付いた時点で忘れずそれを処理したり、冒頭に提示された情報を終盤に読んだことで新鮮な記憶として保持しているメンバーがいることも、チームにとってプラスとなり得るはずだ。


遅読家は、皆と同時に文字を読もうとすれば、足を引っ張ってしまう。
ならばその分、先の展開を読むことを武器とする役割になろう。
RPGの世界の職業のように、それぞれの強みと弱みを活かして戦えば良い。

冒頭で、「厄介なことに多くの謎解き公演はチーム戦」と表現したが、それすらもプラスに捉え直すことができる。
チーム戦だからこそ、様々な役割があって良い。むしろそれでこそチームとして強くなれる。



遅読家に必要なのは、速読セミナーなどではない。
少しの工夫で武器をとり、自らの役割をもってチームメンバーと共に戦うことなのだ。



(※1)
ここでは、制限時間のある謎解き公演、中でも一般的に「ホール型」と呼ばれるものを想定している。以下、本稿において同様。
(※2)
特定地点間の移動にそれぞれ2分、3分、7分、11分かかる4頭の馬のうち、同時に最大2頭まで連れて地点間を移動でき、その時の所要時間は連れている馬のうち最も遅い馬に依存して決まる、という条件下で、4頭全てを移動させるのに必要な最短の時間を問うような問題。「馬の散歩」という題がついていることもある。
(※3)
各人が別の文書等を読みそれぞれ別の指示に従う場合などではまた話が変わってくる。例えば、それぞれがモノを持って、それを正しい順番に重ねて1つのものを作る、などといった場合には、誰か1人が誤った理解でいると正しい結果を得られないし、1人が抜けて誰かが1人2役を務めることは難しいことが多い。

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