7月1日(水) 雨の国

鬱々とした朝を抜けて雨の街を往く。歩調をなるべく落として周りを見ながら歩く。
灰色がかった街の隙間に雨滴をたたえた様々な緑や花が生きている。一つ一つ見落とさないよう首を廻らせる。
濡れた砂地の公園にあえて立ち入る。誰もいない。濡れたジャングルジムを誰も撮らない。

傘を叩く雨音の下、濡れそぼる選挙のポスターを過ぎる。ここは雨の国。
片っ端から自販機を見る。飲みたいものは見当たらない。
気付けば雨が降っていない。右手で無気力に傘を振りながら、この坂を何の気力も伴わず下降していくことが通勤。

雨のない国(会社の隠語)に着く。
PCを立ち上げると昨日仕入れて設定したペンギン達の壁紙に迎えられる。
今日もまたペンギン画像を増やすべく「antratica penguins」で検索。

新入社員氏と初めての共同作業をした。こんなに愛想良くシャキシャキ振る舞う可愛い人間、実在するんだ。
それは素なのか意識的な新入ムーブなのか本心が気になる。私は本心から言えば君のような人は怖ろしい。

やることは多かったが想定通りに事が運び昼休み。
『電脳コイル』15、16話鑑賞。しばらく続いた夏休み日常回が終わりようやく核心部分が進んだ。物凄く面白い。ここから更に10話以上かけてどんどん畳み掛けていくのなら面白すぎて死を覚悟する。

午後はPCの自動化プログラムを利用した一大仕事を行う。電脳コイルの余韻の中ではかっこよく思える。
色々とエラーはあったがこういう時だけ呼ぶスペシャリスト部長と共にやっていく。スペシャリスト部長にはかなり素直な好感を持てる、たまにしか関わらないからかもしれないが。

一大仕事を終え細々とした仕事をやっていると直属の上司というか先輩というかに突然呼び出され突然面談される。
私を評価しておりずっと一緒にこのメンバーでやっていきたいとのこと。ただコミュニケーション面でいくつか改善の指摘を受けた。

この面談中私は本音を一秒たりとも発さなかった。小学生時代の塾の面談から始まり、面談という形式で本音を発したことは一度もない。
あと三か月が限度だろうとちょうど考えていたところだったのに、あと三年、その先も、というスケールの話に「はい」としか発せない。

簡単な退路を確保するために派遣でやってきたというのにいずれ正社員になれと示唆されたら退路を閉ざされたと感じざるを得ない。
上司は面接時に私を採用させた張本人だから自らが推した私の評価をきっといつまでも落とさない。本人の意識としては純粋に私を重宝しているっぽいからタチが悪い。
ありがたいが早く目を覚まして欲しい。こいつ全然向いてないしやる気ないやんと気づいて欲しい。

全くそんなはずはないのに辞めると言い出すのが不可能なことに思えてくる。次辞める時はバックレか移住か結婚か妊娠か逮捕か自殺か起業かヘッドハンティングか芥川賞受賞しかないように思えてしまう。(結構あるじゃないか)
などというのは完全なる脳の誤作動だと私は十分知っている。しかし実際こういう思考に陥るケースが確かにあるのだなと体感出来た。
定時まで泣きそうになりながらやり過ごす。

定時を迎え外へ飛び出す。ただ一つ私が果たせた本音の開示は「残業はしたくない派だよね?」「まあ...そうですね...」。
不意に祖父の言葉が頭に浮かびほとんど涙が出た。弔辞で伝聞した言葉だけれど、要約すればやりたいことをやって言いたいことを言おうということで、12年前の私を目覚めさせた決定的な言葉だった。
いまだに私はやりたいことをやらず言いたいことを言えない。

惨めな気分で、しかしこれはあれだろうと思いルナルナのアプリを起動すると生理予定日まであと15日とあった。ちょうど二週間前から精神の症状が出始めるからやはり間違いない。
毎回毎回「症状だから」と言っていては本物の鬱を見逃しそうで怖いが、以前一度病院の診察=面談で挫折したためもうどうしていいか分からない。
とりあえずは意外と効くサプリでごまかそう。

電車に乗り日記作成ページを開くも全く何も書けない気がした。が、今朝の散歩を思い出して綴っていけば素直な日記が生まれた。少しだけ救われる。こういう日は例えば五行くらい病みポエムを書いて終えるやり方もあるだろうが、こういう日こそ解像度を高める行為から逃げない方が良い。

夜はエビチリ。何も考えず漫画を読んで眠ろう。漫画を読んで眠れる幸せな時代に。

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