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父と母が命がけで教えてくれたこと

父を実家で看取りました。
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父との関係は長いあいだ難しいものだったので、母が亡くなってからはいっそう実家へ足が遠のき、最小限のかかわりで一生やり過ごすつもりでした。
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私は両親の仲が悪く、愛がなく育ったとことにずっと劣等感を感じていました。だから自分はろくな人間になれないのだと、そして両親が間違っていることを証明するために、人生の選択をしてきたようにも思います。
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母を精神的に虐げていたにもかかわらず、母が亡くなってボロ雑巾のようになった父は、少しづつではありますが穏やかになっていました。
しかし母が私に望んでいたとおり、母が不幸な人生を送ったのは父のせいだと、ずっと父を責めていました。これまで私を頑張らせてきた「父を赦さない自分」を手放せずにいました。
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コロナで一度、心が死んで「役にたたなくてもわたしは生きていていい」と思ったとき、自分にとって一番の関門は父であることを自覚しました。
とても苦しくて恐ろしくて、まったくできる気がしませんでしたが、たくさんの人に助けてもらいながら、父を一人のひととして理解することをはじめ、少しづつ赦せるようになっていきました。
それは傷ついていた自分を赦し、捨ててきた自分を取り戻すプロセスでもありました。
そのおかげで、決して家に愛がなかったわけではなく、私と父の愛の認知が違うだけだったと、いつも私は愛に囲まれていたと感じられるようになりました。
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診断されてから1か月半の間に、父の魂は驚くほどのスピードで進化していったようでした。
抵抗をする暇もないほどに、あまりに短い時間だったからこそ、肉体にとって最大のエゴである「死」への争いに降伏せざるをえず、すべてを受け入れることができたのだと思います。
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病を得てから出会った宗教の力に支えられながら、彼からもっとも遠い存在にしていた愛と幸福を感じ、感謝を毎日、口にするようになりました。
それは妻を失うことで、そして病によって短い時間で自分の肉体を失うことで得られたものでした。
やさしくあたたかい、本来の彼の姿を取り戻していくようでもありました。
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父はこの人生できっと欲しかったものすべてを、たった1ヶ月半で手に入れ、家族に見守られて、愛と感謝に包まれながら自宅で穏やかに亡くなりました。
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人ってこんなにも変われるのか、
魂ってこんな帳尻合わせができるのか、
と、茫然とするとともに、人はどんな形であっても、自分に必要な体験をつくりだすのだ、とようやく腑に落ちた思いです。
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父と母が命がけで教えてくれたこと。
それを体験したくて、私は父と母のもとに生まれてきたのだと、いまは分かります。
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お父さん、ありがとう。大切にして生きます。
ずっと愛しています。
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