animacy ep制作後記

epについて

 animacy epが1/6 18:00にOMOIDE LABELさんからリリースされました。また、各種サブスクサービスでも聞けるようになっています。



 ステムは以下に公開しておきます。消えた場合、TwitterのDMで連絡していただければお渡しできます。

 FL Studioのpfは以下で販売しているので投げ銭をしてくださる石油王の方はご購入ください。

(後で貼ります)

制作の経緯

 6月ごろから作曲を始めたが、二曲完成させたあとモチベーションが湧かなかったためepを制作することに決めた(ちなみに二曲目が1トラック目のilである)。かにくみーといさんにジャケットを依頼し、レーベルに連絡することで自分を追い込む(本来制作を自分に強いたくないが作らないより作ったほうがまし)。
 コンセプトが定まらなかったが、自分で歌うよりもボカロの方が楽しそうだったので初音ミクさんを軸に制作することに決める。兼ねてよりストリングスとノイズが好きなので、それらも加えた三つの軸を定めた。

コンセプト

 意識しながら作ったわけではないので、コンセプトというより可能な限り客観したときの自分の感想になることを了承して欲しい。みなさんが異なった感想を持った場合それはそれでこれと同等に妥当だと思う。小難しく感じたら飛ばしていただいても構わない。

 言語学にはanimacy、即ち有生性という用語がある。
 これは対象がどれだけ「生きて」いる(として主語の役割を果たす)かを表す。たとえば「人がいる」ということは出来るが「机がいる」ということは出来ないし、「机がある」ということは出来るが「火事がある」「熱さがある」ということは出来ない(というか通常しない)。通常、大まかに分類する場合、人間>物>出来事/抽象概念の順に有生性があるとされる。

 以前から初音ミクがシンセサイザーとして、即ち物として扱われることが指摘されていた(文献は挙げられないが前に読んだので探せば見つかると思う。リサーチ力の低さを恥じるばかり)。それにカウンターするように初音ミクのアイドル化が進んだ( https://ferne.hatenablog.com/entry/rintarofuse-riyuuuyu )。しかし同時にボーカロイドはある種アーティストの登龍門となりつつある。YouTubeのコメントには曲自体ではなくアーティストの作家性への言及が溢れ、「元ボカロP」の曲がポップスとして消費される。
それ自体問題はないが、それではボーカロイドは物どころか一過性の出来事になってしまう。こと初音ミクはボカロの中の一強の時代を過ぎ、選択肢の一つになってしまったのだからすでに過ぎた流行でもある。

 だから、アイドルというよりも歌う人格としての初音ミクはもう「いる」ことはないし、それどころか物としての初音ミクが「ある」こともない、という状況になりつつある、即ち有生性の低下、という事態が起こっている。

 私は、以前の付喪神的な初音ミク像が好きだった。「初音ミクさんと曲を作る」ボーカロイドコミュニティのあり方が好きだった。初音ミクの崩壊を描いた素朴なメタフィクションが好きだった。だから、それらを取り戻したい。取り戻せないにしても、リスナーに思い起こしてほしい。
 出来事や抽象概念は高い有生性を持たないが、神格や幽霊は人間と同等、あるいはより高い有生性を持つ場合がある。「神はいない」「幽霊がいる」というように。わたしが行いたいのは初音ミクの再神格化である。

 素朴な歌詞、ストリングスの透明感と変則的なノイズ、無機質だが主張のある声から、「隔てる壁」の先、「バイナリ」「幽霊」であって「初めからいない」けれど「歌っているからここに生きてる」初音ミク像を感じ取っていただければ幸いである。

制作

 タイトルや歌詞の意味はコンセプトに書いたことの通りだと思うので、自分の意図を知りたい場合はそこから読み取って欲しい。

 それぞれの曲の設計思想や表現意図自体は視聴するごとに見えてくるものであり、必要以上に語るのは無粋だと思うので、影響を受けた曲を羅列するような形にさせていただく(ディグ自慢だなんだあとから言われそうだが、広く浅い聴き方自体を全く誇りに思っていないことをことわっておく)。このプレイリストにまとめてあるので、文中で気になったら聞いてみて欲しい。

https://open.spotify.com/playlist/4fiPJEJF9WChHzaqNlwsph?si=BKx17bfZQbWAwwWzU-DXxQ

1.il

 これは以前作った曲なので当時の話をしたいと思う。初めて作った曲がドラムンベースであり、かねてよりピアノとストリングスが好きだったので近いジャンルの(日本的な)アートコアを主軸に定める。
 やっぱりアンセムだろうということでFeryquitousさんのstrahvとdstorvを聞き込みボーカルのリファレンスとした。またVampilliaのice fistのストリングス・ピアノの使い方が好きだったので少し参考にした(あまり似ていないが)。あとイントロではcallasoiledさんを意識した。

 加えて以前から好きだったロシアのクラシックの影響もあると思われる。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のピアノで盛り上げる部分からも着想を得ていそう。もっとも自分の曲はかなり使い方がアートコア的だが。ハイスイノナサも無意識に参考にしていると思う(照井順政のファンボなので)。

 チュートリアルを見ながら作ったので結構似ている部分がありそうで割とビビっている。生涯2曲目なので許して

2.organ

 以前からTim Heckerが好きだったのでDroneっぽい何かを作ろうと思い立つ。弦楽器っぽいノイズが欲しかったのでテレキャスをジャカジャカ弾いてgranularにぶち込んだ。
 ただ流石に本気で和音オンリーは飽きると思ったので少しドラムとフィルターの展開をつけた(この辺はindustrialを参考にしたと思う)。1年ぐらい前Osiris Musicというレーベルのアーティストを好んで聞いていたのでその辺からも影響を受けてそう。またillequalさんの無色透明/2020も意識した(鳴ってる音は結構違うが)。

3.inclusion

 最初らへんはorganと同じノリで作った。ただ調性のない曲ばかりだと飽きると思ったし、表現意図的にも透明感を出したかったのでストリングスやシンセ、ミクさんのコーラスを入れた。
 途中からは前述のOsiris MusicのIpmanのSignal Motionという曲を参考にしつつもう少し反復的なベースにしてビルドアップを作った。oblivious( https://twitter.com/obliviousdayo )に声に何かしら加工が欲しいと言われたので考えたところ、loli in early 20sの加工が曲調的に合いそうだったのでそれっぽいのをVocalSynth 2で作ったらいい感じになった。また、cvelさん( https://twitter.com/Cvelz)にインストの使い方のリファレンスとしてSilentroomさんの驟雨の狭間を挙げられたので参考にした(以前から知っていたが、音楽を作り始めてから聞くといろいろ発見があった。映像も本当に凄いのでYouTubeで是非見てみて欲しい)。
 最後の部分はどれだけサンプルを刻むかかなり迷った。直前にHarmful LogicとDJ Kuronekoのライブを聴いていたこともあってbreakcoreらしきものを作るのは確定していたが、Aphex Twinのような旧来の変則的に刻むものと、sewerslvtのようなdepressive breakcoreっぽい反復的に刻むもののどちらを選ぶかに悩み、結局後者に近いもの?で落ち着いた。D-Viのresonanceもリファレンスとした。また、途中で聞こえるのはilのセルフサンプリングである。

4.nyx

 多分読み方はニュクスで良いと思う。heolieneやquoreeさん、宇田もずくさんを聴いてエレクトロニカっぽい音作りがやりたくなったが、作っている途中でゴチャらせたくなったのでインストを増やした。表現意図的にもコード感を無視したかったのでサビまではFmajのメロディーにBの反復的な音をぶつけ、サビではCmajのメロディーでA#とD#を踏みまくった。反復的な音は呂布カルマのSAMSAVANNAのビートに、パーカスはOli XLに影響されたと思う。あとラ・モンテ・ヤングも?
 「サビ感」が出ずかなり困ったのでadomioriさんの曲を聴いた(少ない数の音でしっかり展開を作っている方として思い浮かんだので)。刻んだシンセを用いていることが多かったのでシンセをチョップしてリズムを作った。
 二つ目のサビはある理由からkabanaguさんの冥界、アンセムとして100 gecsのmoney machineぐらいとにかく音をデカくして終わらせたかった。hyperpopに寄せるならkiteみたいなメロウな感じで終わってもいいが、速くしといてそれは締まりが悪いなと思ったのでやめた。

5.jailed

 この曲では語り掛ける感じにしたかったのでポエトリーを選んだ。アメリカ民謡研究会などニコニコに上がっている人工音声ポエトリーを聴きつつ作った。キックは勘で置いた。面白いベースを入れたかったのでワブルベースを入れたら迫力が出た。lobotix channelさんいつもありがとうございます。
 遥そらさんのはちみつと時空旅行。やcvelさんの崩壊でASMR的な要素があり、それってありなんだ!と思ったので組み込んだ。また、TenchioのAcheのアウトロにそれっぽい音があったのにも影響されている。
 sewerslvtがyandere complexなどで使っていたのでノリでacidbassを入れた。
 最後にトレモロのバイオリンを入れたのは次の曲がバイオリンで始まるから。この移り変わりの感じはペン:力:刀をはじめスタァライト全体を参考にしたと思う。というかこのep自体結構演劇的かもしれない。スタァライト見ろ!

6.animacy

 オタクあるある:最終話でタイトル回収 をやりたかったのでepを通したテーマを反映し、ノイズ・ドラムンベース・四つ打ち・ストリングス・ピアノをすべて用いつつ、バイオリンやシューゲイズっぽいリバーブマシマシのギターを入れてアニソン・ポップスっぽい感じにした。この辺のインストの組み合わせ方はla la larksのego-ism、柳川和樹さんのRabbit & Crow、Petit Rabbit'sのノーポイッ!、65daysofstaticのSupermoonを聴きつつ考えた。
 また、パーカスはPorter RobinsonのEverything Goes On(マジの泣きメロ)と10月に上がったRed Bull RASENのDJ JAMさんのビート( https://youtu.be/6FCLB4MhEU0 )を参考にした。
 途中はビート感を残しつつアンビエントっぽいノイズにしたかった。なんかよくわからない感じになったがこれはこれでいい
 あんまり語るのもよくありませんが、「僕」と「私」の使い分けについて考えてみると面白いかもしれません。

使ったプラグインなど

 無料の物やバンドルで安いもの、FLの標準などもあるので活用してください(Serum持ってない人は絶対に買ったほうがいいですが)。

エフェクト

iZotope Vinyl(lofiでビットクラッシュできる)
iZotope Trash 2
Nectar 3 Elements
Ozone 9 Elements
RX 8 Voice De-noise
waves maxxbass
waves Trueverb
waves doubler4
waves DeEsser
vocalsynth 2
voloco
vocodex
Fruity delay 3
soundgoodizer(マキシマイザーです)
Fruity Chorus
Fresh Air
Guitar Rig 6
Mautopitch
Mautopan
Fruity Fast Dist
OTT
Overtone GEQ

ジェネレーター(シンセ)

Serum
3x Osc
初音ミク V4X
Fruity Granulizer
Audio Damage Quanta
BBC Symphony Orchestra Discover
Soft Piano
French Violin(リバーブ次第で結構よくなる)
FLEX
FL Keys

サンプルパック

KYMOGRAPH Acoustic Breaks Loop
KYMOGRAPH Acoustic Breaks Loop 2
Hylen Minerva EP Premium USB Set

宣伝

 最後に宣伝させて欲しい。1/14につくば市OctBassでDJを、2月中旬に同クラブでイベントの開催をするのでよければ遊びに来てください。どちらも配信が無料で見られるので来られない方はそちらもどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?