見出し画像

轟々たる交感の共鳴を放つトリオ再び〜藤井郷子 東京トリオ『ジェット・ブラック』Disc Review

疾走し続ける藤井郷子の求心力によって生まれた東京トリオの2作目だ。

今年の1月にリリースされて気になっていたまま半年が過ぎてしまったのだけれど、意を決して記事にすることにした。そう、彼女の疾走力の前では、意を決して取り組まないとはじき飛ばされてしまうから、気楽にというわけにはいかないのだ。

さて、東京トリオだが、事の起こりは2020年9月、3度目の共演となった須川崇志(b)と竹村一哲(ds)との顔ぶれで実施したステージのもようを収めたアルバム『Moon on the Lake』が2021年5月にリリースされたところから。

トリオに東京が付いているのは、そのライヴが東京・新宿の新宿ピットインで行なわれたことだけでなく、数多くの海外プレイヤーと交感している藤井郷子が“日本語で”インプロするユニットであることを強調する意図があったようにも感じる。

そしてもちろん、2020年という年がコロナ禍によって鎖国状態であったこともこのトリオが組まれた外的因子として無視してはならないのだと思う。

須川と竹村はそれぞれ別のユニットでの活躍を見ていて、柔軟性とアイデア、瞬発力といったジャズ・アスリートとしての資質を十二分に感じていた面々だから、トリオとしてのパフォーマンスにもまったく不安がなく、“結果”として『Moon on the Lake』が刺激的なものになったことでそれを証明し得たと思っている。

問題は、“継続”と対立しやすいインプロの常で、“次はあるのか”という、ファンたちのやきもきとした疑念だったりしたわけだが、ヨーロッパ・ツアーから日本ツアーへと、前作のリリースを言い訳にしただけにはとどまらない3人の交感が、もうひとつの作品へと向かうことになったということになるだろう。

というのも、予定調和を廃したなかでこれほど変な緊張感なしに反応し合えるという関係性を音楽に昇華できるのだから、彼女たちこそが次なるフェーズを楽しみに、音をぶつけ合っていたに違いないことが伝わる内容になっているのだ。

3人なのに、ストリングス・オーケストラがいるような気さえしてくる迫力を味わってみてほしい。

藤井郷子 東京トリオ『ジェット・ブラック』ジャケット

藤井郷子 東京トリオ『ジェット・ブラック』

1. Along The Way 6:25
2. Gentle Slope 9:25
3. Sky Reflection 10:58
4. From Sometime 12:22
5. Take A Step 10:54
6. Jet Black 5:52
*all composed by Satoko Fujii (BMI)

藤井 郷子 (piano)
須川 崇志 (bass)
竹村 一哲 (drums)

2023年3月21日渋谷公園通りクラシックスでのライヴ録音

https://www.catfish-records.jp/product/31963

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?