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本を売るという行動はアービトラージ化していくのではないだろうか⁉

2023年の春の話題で、『中世への旅 騎士と城』という書籍の再版騒動というものがありました。

これは、長らく品切れ重版未定になっていたこの本を、書泉グランデという書店が買取という方法で版元に掛け合って重版を成し遂げたというもの。

返本制度に守られた日本の出版社では、出回っている出版物の量の調整が経営に直結するため、とにかく刷って売ろうという考え方がどうしても取れなくなっているように感じています。

実際にこの問題は、欲しい人が多い(はず)、重版してくれ、というリクエストに対して、(マーケティングしているわけじゃないけど)売れないんじゃないかな、売れなかったら困るんだから、と二の足を踏む版元との攻防が、たいていは版権をもっている版元の意向でゴーサインがでないところ、逆転判決で、しかもリクエストの根拠どおりに売れているというオチになっているところが注目されているのだと思います。

この手法が成功したおかげで、続々と重版される本がふえているようです。

書泉グランデさんは、東京在住時にはオープンのころからよく利用していました。新宿の紀伊國屋さんないかと違う空気感で、神保町でも特異な存在だったんじゃないかと思います。

このニュースを読んでいて思い浮かんだのは、アービトラージという言葉。

これは、裁定取引を指した金融用語で、もともとは取引所ごとに換金比率がことなることを利用して、安いところで買って高いところで売るという利ざや稼ぎを指しています。

厳密に言えば、書泉グランデの重版リクエストはアービトラージとは言えないのですが、中古マーケットで高値が付いて入手が困難な状況に合った本の重版を求めたことと、それを買取という特選契約で実行できたことなど、ビジネス的にはわりにアタリマエのことをやってのけたという印象です。

要するに、返本が保証されているというシステムに寄りかかったビジネスモデルによって疲弊していたマーケットに、ほかの業態ではアタリマエの買い切り保証を付けた仕入れで活路を見出したということになると思います。

まぁ、せどりと呼ばれるマーケットの品薄状態を狙った価格差を目的としたビジネスモデルで稼いでいた人には迷惑な話ですが、そもそもロングテールの小ロットでもオンデマンドで対応できるような時代になっているのに、その商機を取り込めない体質の書店や出版社は、やはり問題があると言わざるをえないでしょう。

クラウドファンディングで利益を確定してから生産に取りかかることができるシステムもあるわけだし、デジタル化された文字文化は、もっと柔軟にその価値を解放していって欲しいと願ってやみません。

出版業界はあまりにも閉鎖的で、それは囲い込むことで自分たちを守ろうとしてきた歴史があるからなのかもしれません。でも、あると思っていた出版側や販売側のリスクは、もうほとんどなくなっていると言えるかもしれないのですよね。

そうなると、せどりから版権ハンターのようなビジネスが注目されるようになるかもしれませんね。

出版の将来についてはもうひとつ。

「読者による読まれ方」をアルゴリズム分析し、「ヒットセラーになりそうな」小説を選択して公開するシステムが実用化されると、出版への参入障壁がほとんど消失する可能性がでてきますね。

記事では13社から断わられた『ハリー・ポッター』や、30社から断わられた『キャリー』の例を挙げていますが、確かに作家からすればどこから出版するかが問題ではなく、出したらどうなるのかが重要なわけですね。出版しなければどうともならないわけですから。

で、このシステムを運営しているInkittが、LinkedInなどを通じて日本の「シニア・マーケティング・マネジャー」と「コンテント・アンド・ローカライゼーションマネジャー」を「積極的に採用中」とアナウンス、ということが記事後半に言及されているのです。

日本でのローンチは2023年の10月から年内。初年度で200万人の読者を獲得する計画というから、かなり強力ですね。

物理的な書籍の出版計画は(いまのところ)ないそうなので、ある意味では日本の既存出版社と競合しないような振りをしながら、しっかりとマーケットの美味しいところをさらっていくようなビジネスモデルに発展していくのではないか──。

注目していきたいと思います。


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