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リスクマネジメントと情報 その1: データの捉えかた

リスクマネジメントで、データ、インフォメーション、インテリジェンスを取り違えることは危険であると申し上げました。我が国では情報の取り扱いに関する知識や教育が乏しいといわれます。また、情報というとITというイメージで語られることがほとんどで、意思決定やインテリジェンスの意味でのリテラシーは、いわゆる知識人とされる方でもきわめて限られているように思えます。インテリジェンスというと、映画に例えれば007(古いですね)のようなイメージがあるかもしれませんが、我々の生活の中で行われる決定、例えば「今日の晩ごはんを何にしようか」とか「明日のデートはどこに行こうか」という問いの答えを導くために、無意識のうちに我々も「インテリジェンス」を働かせていることを、まずはご理解ください。アメリカがどうしたとか、ロシアはどうだといったものだけがインテリジェンスではありません。

リスクマネジメントで情報の本質を取り違えることの危険性ですが、今回はデータの本質に起因するものについてご説明します。理系で計測論を学ばれた方はご存知かもしれませんが、データ計測にはいわゆる「真の値」というものは存在しません。その理由は、データは本来的になんらかの誤差を常に含むからです。その代表的なものが「偶然誤差」と「系統誤差」です。また、これらの誤差は数値のような定量的データだけでなく、定性データでも当てはまります。
偶然誤差とは、データを測る時に、偶然的理由で含まれる誤差のことです。一方の系統誤差は、ある傾向をもって現れる誤差です。偶然誤差と系統誤差のイメージは、射撃訓練をする兵士の例がわかりやすいかもしれません。的の中心を狙って撃った弾が、的の中心を挟んで左右に散らばるのが偶然誤差、弾の散らばりが全体的に的の中心の右側や左側にずれているのが系統誤差です。

リスクマネジメントの実務では、全然違う意味のデータや、状況が刻々と変化するデータなど、様々なデータがもたらされます。リスクマネジメントのような時間的余裕がある状況ではそれほど深刻ではありませんが、進行中の危機に対応するクライシスコントロール(危機管理)の場面では、関係者が心理的に圧迫されていることもあり、個々のデータに組織が過剰反応することがあります。こんなとき、全く正反対のデータが入ってくると、「いったいどうなっているんだ!」とトップが激昂するというシーンが発生することがあります(私もそんなケースに何度も遭遇しました)。事故を例にすれば、「生存者がいる、いない」や「けが人は何名」などの情報は、その情報収集にあたる要員の能力や収集の状況により常に変動します。一方、危機対処部隊は、もたらされるデータに応じて対応を変更しなければいけませんから、不確実な情報を最も嫌います。

リスクマネジメントやクライシスコントロールの司令部では、入手される情報の変動から、「どこまでは確実にいえるのか」を常に意識して対応しなければなりません。さもなくば、司令部が個々の情報に振り回され、対応方針がいつまでも定まらない危険性があります。そのためには、情報担当者や部署が、データの変化を敏感に感じることが大事です。「なぜこんなデータがこのタイミングで入ってくるのだろうか?」「同じ人間がなぜこんな違う情報を報告してくるのだろうか」といった感覚を持ち、それが偶然誤差によるものか、または系統誤差によるものなのかを考える習慣をつけることが、データで組織が右往左往する状況に陥る危険性を減少させます。

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