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危機管理の要諦 その1

先日、日大アメフト部員による悪質タックル事件に関連し、危機管理の要諦について某ニュースサイトでコメントしました。その内容は、
①経営者が危機にあることを自覚すること
②危機の状況を事実(FACT)と真実(TRUTH)を区別して整理し、認識を統一すること
③危機から何を守りそのために何を切るかを適切に設定すること
です。悪質タックル事件の日大側の対応に対し、様々な批判が上がっているのも、こうした危機管理の基本を踏まえたものになっていないからです。これらについて、これから一つずつ解説していきたいと思います。今回は、①の危機の自覚についてです。

事件発生当日の夜には事件でSNSで騒動になっていたにもかかわらず、その対応は日大アメフト部公式HPに簡単な謝罪文を掲載しただけした。日大HPには、大学を代表する形での謝罪文は掲載されませんでした(5月25日朝の時点でも掲載されていないようです)。関西学院大学(関学)側が記者会見を開いた後、事件の4日後に初めてタックルを行なった学生本人の記者会見が行われましたが、これは「日大が学生を守るどころか晒し者にしている」という激しい世論の批判を呼び込むことになりました。この会見を受ける形で開かれた、監督とコーチの記者会見は、準備不足が明らかにわかるしどろもどろで責任回避的な応答に両者が終始しただけでなく、司会者が記者団と口論になるという前代未聞の醜態をさらすものとなりました。5月25日の日大学長の記者会見でも、大学側の責任や実効的な対処策に関する発言は一切見られず、「何のための会見だったのか」という批判が既に出ています。

こうした一連の対応のまずさを指摘するときりがありませんが、対応から感じられるのが、この事件が日大に危機をもたらしているということを、日大が組織として自覚できていないのではないかということです。経営陣としては、「スポーツの中で起きた偶発的なことなのに、なぜここまで批判されなければならないんだ?」という感覚なのかもしれません。また、「日大ブランドがあればこの事件も乗り切れる」という読みがあった可能性も考えられます。しかし、この事件が社会的にいかに特異なものであったかは、以下の点から明らかです。

まず、日大側の選手が、悪質なタックルをホイッスルの後、しかも審判の目の前で行なったことです。アメフトの試合で15ヤードのペナルティーを課されるパーソナルファウルはそう簡単には起きません。それが一つのシリーズで、審判にわかる形で、なおかつ同一選手により3回も起こされるというのは、確率論的に極めて稀なことです。

また、事件発生後、マスコミはニュースやワイドショーなどの番組で、連日この事件を取り上げています。ここ最近では米朝首脳会談や、いわゆる「モリ・カケ」問題のようなニュースバリューが高い話題があるにもかかわらず、タックル問題の報道時間がそれらを圧倒しています。電波という限られた資源を放送局側がこの事件にこれだけ費やしていることがどういう意味を持っているのかは、少し想像力を働かせれば理解できます。放送局は既に、自らが世論の代弁者となり、関係者や日大に社会的制裁を加えようとしているのです。

この2点だけでも、正常な経営意識や危機意識を持っている経営者なら、「何か極めて異常なことが起きている」と判断し、組織のダメージを回避する対応を内外に展開するでしょう。その結果が冒頭の対応要領だとするならば、限りなく客観的に判断するとしても、日大経営陣に危機意識が欠如しているという判断を下さざるを得ません。

危機意識の自覚は、あらゆる危機管理のもっとも基本なのです。

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