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経営戦略とリスクマネジメント

中小企業診断士にとって、顧客の経営戦略は、経営支援の最も中心的な存在です。「経営戦略って何なの?」という質問には、ごく簡単に「経営目的を実現するためのストーリー」と答えるようにしています。戦略という言葉の定義は人によって異なるので、これが絶対的に正しいというものはありません。戦略とは何かという問いだけ本を一冊書くことができます。書店に行ってみてください。戦略と名がつくタイトルの本が多数並べられています。ただし、巷でやたら氾濫している「戦略的何々」という言葉には十分注意してください。戦略と言いながら、中身はテクニックの羅列にすぎないものも多くあります。

経営戦略とリスクマネジメントの関係について考えてみましょう。私は、リスクマネジメントは経営戦略の重要な一部であると考えています。つまり、リスクマネジメントの目的は、「経営目的の達成に寄与すること」にあるのです。
リスクマネジメントといえば、収益につながらないとか、面倒だという声が聞こえることがあります。私も職場でBCP策定のリーダーとして活動したことがありましたが、ミーティングでは「業務で忙しいのでさっさと済ませてね」といった雰囲気を醸し出していたメンバーもいました。リスクマネジメントとは、組織の本来の成果に繋がらないものという認識がまだ一般的ではないでしょうか。

リスクマネジメントの主眼は、「組織を存続させること」です。多様なリスクにさらされる中で組織が生き残り活動を続けることが、経営目的を達成する「最低条件」になるからです。言い換えれば、組織が存続できなければ、経営目的の達成も何もありえないのです。その基本が理解できていないケースが非常に多いのが現状です。

企業活動を例にすると、「トップライン(「売上」のこと。損益計算書の一番上に書かれるから)で稼げていれば大丈夫」ということになりますが、重要なのは、「なぜそのトップラインが達成できているか」なのです。例えばその理由を営業努力に求めるとするなら、それは営業努力が売り上げにつながった環境が「偶然にも」整っていたからかもしれません。ライバル社が現れるだけで、競争環境は厳しくなり、前期以上の成果を達成するには質量ともにさらなる営業努力や工夫が必要になるでしょう。もし今期の成果が、営業担当者による不正な処理によって達成されたとするなら、それが明らかになった場合、会社は社会的信用を失い、不祥事対応や信用低下による売上減少で収益が悪化する可能性があります。そのような事態を予防するために、全社的なリスクマネジメントが必要になるのです。

リスクにはアップサイドとダウンサイドの両方があるので、リスク回避が常に正しいとは限りません。利益獲得のためにリスクテーキングしなければいけない場合もあります。そのため、リスマネジメントは常に経営戦略として検討されなければならないのです。JISQ31000でも、リスクの運用管理によって組織は「目的達成の起こりやすさを増加させる」ことができるとしています。また、同文書ではリスクマネジメント原則の一つに「価値を創造する」と謳っています。リスクマネジメントは、形を変えた「経営目的達成ストーリー」であり、経営戦略の一部をなすものです。

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