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危機管理の要諦 その2

危機管理の2つ目の要諦は、危機の状況を事実(FACT)と真実(TRUTH)を区別して整理し、認識を統一することです。言葉にすると簡単ですが、危機管理の現場の経験からも、意外と実行することが難しいものです。

危機の現場に直面すると、トップをはじめとする担当者は、状況を理解するためにあらゆる情報を求めます。情報は組織の各所から指揮の現場に到着するのですが、確実な情報から未確認の単なるデータまで、その内容は雑多です。それらの情報を総合して状況認識(シチュエーション・アウェアネスともいいます)を進めていくのですが、その中で注意しなければならないのは、事実と真実を区別することです。

入手された情報については、入手の時点でその信頼性を確認することが重要です。信頼性の低い情報が一人歩きすると、精神的な余裕のない危機対応の現場は、その情報をトリガー(引き金)に、誤った方向に対応を進めていくからです。信頼性が高い情報を選別したあとは、それらを組み合わせて何が起こっているのかを5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)の軸で整理し、危機の事実(FACT)を具体化します。

例えば、「昨日午後5時ごろ、△町内の国道◯号線で、出張中の社員Aと取引先の社員2名を乗せた社用車が交通事故を起こし、全員が町内の病院に搬送された」とすれば、社員と取引先が関係する交通事故が発生した事実が明らかになります。

ところが、この会社には、上司の許可なく社員以外の者を社用車に乗車させたり、出張届に記載された以外の経路を運行することを禁じる規則がありました。その後、他の社員からも、過去に社員Aが同じように取引先の社員を社用車で送り届けたり、出張旅費をごまかすために、上司の許可なく運行経路を高速道路から一般道に変更したりすることがあったとの情報がもたらされました。つまり、社員Aは社則違反の常習犯だった可能性が浮上しました。危機の裏に隠れている問題の本質である真実(TRUTH)が明らかになってきました。そうなると、会社の社員管理の実態に関する対外的な説明や、社員Aの不法行為(詐欺または横領)に対する懲戒という新たな対応を検討する必要に迫られます。また、この事故により、ケガをした自社社員や取引先社員のケアだけでなく、社員の交通安全意識の向上、遵法意識の向上に向けた施策も実行しなくてはなりません。そして、同じような事故の再発防止のため、会社が置かれている状況に関する社員の認識の統一を図らなければなりません。

以上簡単ですが、事実と真実の区別を説明しましたが、実際の現場では「Aはああいうやつだからなあ」とか、「Aの上司はあいつの行動を見ないふりしてたようだ」といった、尾鰭の付いたデマに等しい怪情報が飛び交い、社員の間に動揺が起きることも考えられます。危機管理では、関係するメンバーが上下一体となって被害を極限し、組織の存続を実現することが重要です。そのためには、今何が起きているか、それがどのような影響をもたらすかを正しくかつ冷静に認識しなければなりません。それは、組織防衛の観点からも不可欠なのです。

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