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企業が直面するリスク:人的損失のリスク

「経営者、重役、あるいはその他の従業員の死亡・事故・疾病・不健康・信用損失などのリスクのこと」とされています。人的損失といえば、公安職やスポーツ選手など、一般的に危険要素が多い職業に限りません。ごく普通の企業でも人的損失のリスクは存在します。

1985年に発生した日航機御巣鷹山墜落事件では、お盆の時期にもかかわらず多くのビジネスマンが遭難しました。不安定な機内で書かれた走り書きの遺書のイメージは、今でも強烈に残っていることでしょう。日常においても、病気や怪我による社員の損耗、交通事故、工場災害など、従業員が被害を受ける事例は枚挙にいとまがありません。

海外では、1996年の在ペルー日本大使公邸占拠事件や、最近では2013年のアルジェリア日揮プラント襲撃事件、2017年のバングラデシュ・ダッカ銃撃事件で日本人社員が犠牲になった例があります。規模に関わらず、社員を海外に派遣している企業は数多く存在します。日本も最近治安の悪化が叫ばれていますが、海外の治安状況は日本の日ではありません。私もこれまで、海外では強盗未遂や集団ひったくり未遂事件に遭遇したことがあります。怪我なく無事にやり過ごせたのは幸運だったといえるかもしれません。

人的損失リスクがもたらす悪影響は、第一に人的資本が毀損されるということです。労働力は重要な経営資源の一つです。人的損失が発生するということは、人的資本が失われ、それだけ生産力や競争力が失われることを意味します。人が失われるということは、遅かれ早かれ企業の力が削がれることになるのです。

第二の悪影響は、人的損失を通じて、企業と従業員や社会との信頼関係が損なわれる危険性です。現代では、企業の従業員に対する安全確保義務が、あらゆる場面で要求されるようになりました。それは単に労働災害から従業員を守るだけでなく、広い意味ではパワハラやセクハラによる精神的被害、ブラックという言葉で表現される劣悪な労働環境に起因する従業員の精神疾患、退職、自殺などの回避を含んでいます。安全確保義務を果たせない企業に対しては、労働基準監督署による指導だけでなく、企業名の公表、罰金などの行政的、刑事的、社会的制裁が加えられる可能性があります。また、労働力不足が発生している労働市場において、社会的信用が低い企業への求職も減ることが予想されます。従業員やその家族などに対する賠償リスクも十分考えられます。その結果、企業と従業員、その家族、社会との信頼関係が損なわれ、それが長期的には企業の競争力の低下を引き起こす危険性を考慮する必要があります。

その他にも、経営者の喪失による事業継続の不安定化や、後継者の不在による廃業も大きな経営リスクになります。人的資本を補充するのには時間とコストがかかるので、平素から後継者の育成やダブルワーク化などの準備が必要です。

バブル崩壊後の不況の時期を通じ、人は企業経営におけるコストであるとの風潮が広がりましたが、従業員は人的「資本」であり、コスト発生源ではありません。そのことをよく理解し、人的損失リスクの極限に努めていただきたいと思います。

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