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リスクマネジメントにおける「情報の本質」

JISQ31000の「リスクマネジメント原則」のfで、リスクマネジメントは「利用可能な最善の情報に基づく」とされています。手に入る情報の良し悪しがリスクマネジメントの成否を決めるという意味ですが、この「情報」ほど扱いの難しいものはありません。

まず、日本語の「情報」は、大きく3つの意味を持っています。一つ目は「データ」で、対象の特徴を定量的、定性的に表現するものです。二つ目は、データがもたらす意味を示す「インフォメーション」で、データを解析・処理して得られるものです。そして三つ目は、インフォメーションを総合して得られる「インテリジェンス」です。最近は、インテリジェンスに関する情報が普及し、論者の数だけ定義が示されていますが、インテリジェンスの本質に最も近い定義は、「我々の今後の行動のための意思決定につながる情報」です。「データ」や「インフォメーション」と「インテリジェンス」の最大の違いは、情報の使い手(ユーザ)の判断や決心との直結性にあります。

「データ」「インフォメーション」「インテリジェンス」の違いを、身近な例で見てみましょう。昨日のプロ野球ナイトゲームで、阪神の得点が5点、巨人の得点が3点でした。これは「データ」のレベルです。そして、阪神と巨人の得点を比較して「阪神が巨人に勝利した」という「インフォメーション」が得られます。
さて、皆さんの上司は熱烈な巨人ファンで、皆さんはその上司に悪い報告を上げなければなりません。巨人が負けたので、明日の上司の機嫌は悪いはず。だから「巨人が負けた翌日の報告は、上司の機嫌がいいタイミングを見計らうべき」という「インテリジェンス」に到達します。そのため、報告を朝一番ではなく、やや落ち着いた午後にしたほうがいいという判断が導き出されるのです。

「データ」「インフォメーション」と違い、「インテリジェンス」には、今後の行動を決定するための仮説が存在しています。この例では「巨人が負けた翌日の上司の機嫌は悪い」や「機嫌が悪いと上司は報告をちゃんと聞いてくれない」です。そこに「巨人は阪神に負けた」という「インフォメーション」が加わることで、「明日、機嫌が悪い朝イチの悪い報告はやめて、午後にしよう」という「行動方針」が妥当である確率が高まるのです。

やや長々と書き連ねましたが、リスクマネジメントの場で情報を取り扱う場合、これら三つの意味を正確に区別することが、リスクマネジメントの結果を左右します。ところが、リスクマネジメントの現場では、この三つの意味が混同されることによる「混乱」がしばしば発生します。そして、クライシスコントロール(危機管理)のフェーズに進行すると、その混乱が組織の命取りになる場合があります。なぜそうなるのか、次回以降でご説明いたします。

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