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なぜ「リスクマネジメント」と「クライシスコントロール」なのか

先日、ある方から「なぜクライシスマネジメント」という言葉を使わないのですかという質問を受けました。結論からいうと、クライシスの状況では、力と意志で組織や個人を「生き延びられる状態」にする必要があるからです。それは、平時の計画や調整活動が中心の「マネジメント」とは異なる概念です。

「Management」と「Control」の違いは、このページ( http://www.differencebetween.info )で詳しく説明されています。「Management」は、「管理の過程や実践であり、ある目標を達成するために人々の努力を調整する行動(the process or practice of managing. It is the act of coordinating the efforts of people to accomplish certain goals)」です。

一方「Control」は、「(他者に)影響を与えたり、示唆したり、あるいは(他者の)行動を支配する活動(the exercise where one influences , suggests or dictates the behavior)」としています。最大の違いは、コントロールという言葉には「強制力」の考え方が伴っているということです。

皆さんは、飛行機に搭乗する際、離陸前に救命胴衣の着けかたや酸素マスクの使用法、避難方法などのビデオをご覧になることでしょう。これは「リスクマネジメント」です。乗客に緊急時の対処法を理解させることで、緊急時に退避できないリスクを小さくするための努力を乗客に促しているからです。寝ている乗客を起こして無理矢理ビデオを見させる強制力もありません。

しかし、ひとたび緊急事態が発生したら、乗客は客室乗務員の指示に従って酸素マスクや救命胴衣を着用し、機外に脱出しなければなりません。速やかに脱出を完了させるために、乗務員はある程度の強制力を行使する可能性もあります。「救命胴衣は窮屈だからつけるのはイヤ」と乗客に言わせることはできません。最悪の場合、「マネジメント」のやり方で、乗客が全滅することがあるかもしれません。これが「マネジメント」と「コントロール」の大きな違いです。

「全ての要素を制御できないから、コントロールではなくマネジメントだ」とする文献や資料もあるようですが、学問的には正しくても、リスクマネジメントやクライシスコントロールの実務ではほとんど意味のない主張です。実務で求められるのは、「いかに安全を確保し、損失を少なくしつつ目標を実現するか」、「いかに人や組織の生存を実現するか」です。財務リスクを多く抱えて悩んでいる経営者には、専門的なファイナンス理論より、まずは「大変でしたね」と折れそうな気持ちを支えて経営モチベーションを上げる心理的アプローチの方が有効的かもしれません。

このマガジンでは、リスクマネジメントに関し、JISQ31000(ISO31000)などの資料や、統計学的考えかたなど、学問的な内容も用いて説明するよう努めていますが、それは説明内容の合理性や客観性を担保するためです。「マネジメント」と「コントロール」の違いにこだわる理由は、「実務上意味があるか」を価値判断の基準にしているところにあります。

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