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日大アメフト事案に思うこと

リスクについてもう少し掘り下げて説明する前に、現在進行中の日大アメフト部員によるタックル事案について取り上げたいと思います。この事案は、リスクマネジメントだけではなく、リスクがクライシス(危機)に進行した後のクライシスコントロール(危機管理)の点においても、非常に示唆に富むものです。

事案の概要については頻繁に報道されているところですが、簡単にまとめると、今年の春季オープン戦で、日本大学(以下「日大」とします)アメフト部のディフェンスラインの選手が、パス終了後の関西学院大学(以下「関学」とします)アメフト部のクウォーターバックに背後からタックルを行い負傷されたとされるものです。この日大の選手はこの後も2回パーソナルファールを犯し、資格没収と退場の処分を受けました。このプレーについては、日大アメフト部の監督が試合前に当該選手に「相手クウォーターバックを壊せ」と指示をしたとされると報じられたことから、テレビニュースやワイドショーでも盛んに取り上げられました。

このような事案が発生した要因は数多くあり、その全てに言及することは控えますが、リスクマネジメントの点から最も注目されるのが、こうした事案を未然に防ぐガバナンスが日大に整備されていなかった可能性があるということです。中でも、監督の力が強大で、監督に意見できる関係者はほとんどいなかったということが、リスクマネジメント的に最も脆弱であったといえるでしょう。リスクマネジメントのためのガバナンスの基本は、経営者がリスクマネジメントに対する高い意識を持つことと、どのようなリスク要因があり、それが現実化するとどのような悪影響が引き起こされるかの認識を組織全体で共有することです。それらを機能させるのに必要なのが、適切な組織ガバナンスです。

日大の場合、悪質なファウルを是とするような指導方針があったとするならば、そもそもリスクマネジメントに対する意識が低かったと考えられます。また、一回のファウルがどのような悪影響をもたらすかについても、組織的な認識が不足していました。それをチームとして、また大学として組織的に是正するガバナンスは、これまでのところ確認できません。極端な勝利至上主義を是認することにより、「ルールに反したファウルもやむなし」という空気が醸成されていたとするなら、それはスポーツチームとして許されない事態です。

事案が報道され、クライシスコントロールの段階に進んだ後の対応も、関学と日大では対照的でした。関学は日大に正式に抗議するとともに、2回にわたり記者会見の場を設定して、大学としての事案の経過、事案に対する認識とその後の対応方針を明らかにし、世論を味方につけることができました。一方の日大は、負傷した関学選手への謝罪や会見を開くこともなく、それがさらに世論の反発を招くことになりました。19日になって日大監督が関学側に謝罪するとともに辞意を表明しましたが、正常化に向けて最悪の形で第一歩を踏み出すことになりました。

言及すべきことはまだありますが、それらには追って触れることとします。いずれにしても、今回の日大アメフト事案は、リスクマネジメントとクライシスコントロールの点で、非常に示唆に富むケースであったことは明らかでしょう。

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