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枷の椎骨、黄昏の国 2/2


1.椎骨のきっかけ

1/2では世紀末おじいちゃん聖フォドリックの亡者への慈しみを書いて、私がおじいちゃんに慈しみを抱いて終わったのですが、

2/2ではフォドリックとその家族の出自(のモチーフ)は「枷の椎骨」から追えるのでは?「薄暮の国」のモデルもわかるのでは?という話をしてみたいと思います。

きっかけはこちらの賢者のツイートでした。

なんですと…。
調べてみると私がTwitter再開する前ですが、他の賢者もツイートされてました。

2.アトラス=骨の名は

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アトラス(Atlas)とは椎骨のうち最も頭蓋骨に近い第一椎骨。
アトラスはギリシャ神話において「天を支える巨人神」ですが、重力に従って落ちてくる頭蓋を一手に支える役目を持っている事から、この椎骨にはこのように立派な名が与えられたのです。

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はたして枷の椎骨がこのアトラスなのか、画像を見ても素人にはちょっとわかりません(似て…ないような、角度のような?)。整形外科など知識をお持ちの方に聞いてみたいですね。

※ 拡大してみて気づきましたが、枷の椎骨の画像って一部欠けているんですね。

ちなみに、第一と第二だけは他の椎骨と比べて構造が特殊な為、区別するために名前がついているのだとか。かつては日本でもアトラスと呼称していたが、わかりやすさ重視で和名を付けましょうという事で名付けたが「環椎」。
おや、”環”ですか、リングですか。Wikiの画像を見ると確かに輪っかの形状がきれいです。

…が、きっと収集がつかなくなるのです。一旦置きましょう。アトラスについてです。


3.アトラス神とは

ギリシャ神話において、かつてゼウスに反逆し敗れたティターン族(巨人神族)の末裔がアトラスです。名前は「支える者」・「耐える者」・「歯向かう者」を意味する古印欧語に由来。

ティーターン神族がゼウス達との戦い(ティーターノマキアー)に敗れると、アトラースはゼウスによって、世界の西の果てで天空を背負うという役目を負わされる事となった。この役目はアトラースにとって、苦痛を伴うものであった。

さて、アトラス神話から抽出したい内容は三つ。
【1】アトラスに科せられた使命
【2】アトラスの娘と奥さんについて
【3】アトラスが”石”になった話


4.科せ=枷

紀元前700年ごろ詩人のヘシオドス(Hēsíodos)が書き記した叙事詩『神統記』にはこうあります。

また アトラスは 強い強制のもとに 広い天を支えている
大地の涯(はて) 声澄める黄昏の娘(ヘスペリス) たちの面前で
疲れ知らぬ頭と腕で 立ったままの姿勢で。
この持ち分を 賢いゼウスが 彼に定められたからである。

前述のとおりティターン族がゼウスに反逆した為、ゼウスは末裔であるアトラスに贖いを科しました。

それが「天を支える」という使命。やっぱりギリシャ神話、スケールが違うや。

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※ どうでもよい話ですが、地球の空気の総重量は5000兆トンだそう。この神様、科された罪の重さ、もう少し慈しまれてよいかな…

科せ/科し/科さにいちいち太字を入れているのですが、枷(かせ)という読み方の語源はまさしく「科せ」から来ており、「科される」事を具体化したのが刑具としての枷なのです(出典は林先生が朝の情報番組で言っていた、という私の記憶w)。

何が言いたいかと言うと、天を支える使命を幾年も続けざるを得ないアトラスもまた枷を嵌められている状態なのです。

蛇足とは思いますが、フォドリック=アトラスなどとは言いません。あくまでモチーフとしての共通性が見出せる、という話。

え、だとしても弱くないか? では、次です。


5.娘も嫁も黄昏ている

大地の涯(はて) 声澄める黄昏の娘(ヘスペリス) たちの面前で

――アトラスは疲れも知らぬ顔で、実娘たちの前で勇ましく立ち続けたと言います。

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ヘスペリス(Hesperis)は7人娘で、ゼウスの奥さんヘラ神の領地で「黄金の林檎」を守っていました。お父さんもその面前で立っているのですから、一家そろってこの園に住んでいたというわけですね。

この園がある土地の事をヘスペリア(Hesperia)と呼びますが、これがどこかというと、はるか西方の、日々太陽が沈む「極西」にある不死の庭園なのです。

ずばり、ヘスペリスのギリシャ語の意味合いは「黄昏の女神」という事になります。

思い当たる人も多いと思いますが、西とは太陽が沈む方向であり、夕暮れ→夜へ移ろう時間のきっかけとなる方角です。

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日本でも「黄昏」は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯を指します。
西の空から夕焼けの名残りの「赤さ」が失われて藍色の空が広がると、「まがとき=禍時」。

※ 細かいのですがWikiによると「薄暮」と「黄昏」はまた微妙に違うようですね。写真は季節にもよりますが、まだまだ明るいので「薄暮」に当たるかと思います。

そんなわけで、おやおや、枷の椎骨を追ってギリシャ神話を調べたら「薄暮の国」が覗いてきましたね。

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(といっても、こちらは娘じゃなくて孫ですが)

もう一押し。
アトラスの奥さん、すなわちヘスペリスのお母さんはへスぺロス(Hesperos)と言いますが、こちらは「宵の明星」が顕在した姿だと言います。

宵の明星とは、黄昏時から見える金星の事です。

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写真の通り、やはり「西」の方角、太陽が沈むにつれて見えるようになります。

ギリシャ神話には、アニミズムの名残なのか「自然の事物や現象を司る神」が多くいて、当時のギリシャで西の彼方に宵の明星を見ればへスぺロスに信仰を捧げるわけです。つまりは彼女もまた、西方のヘスペリスの園にいると推測できます。

ここまで自分の言葉少なめに、材料を並べてばかりで恐縮ですが、ビジュアルが示す説得力は私の筆力をはるかに上回るので不要でしょう。

【椎骨=>アトラス神=>黄昏の土地】この一連の中に、「薄暮の国」を連想させるファクターが豊富にあるのです。

6.石になる話

『神統記』のヘシオドスから下る事700年あまり、紀元前20年ローマ帝国の詩人オウィディウス(Ovidius)がギリシャ神話を編纂した『変身物語』に、アトラスの末路が描かれています。

メデューサを退治したゼウスの息子ペルセウスが、その帰路でヘスペリスの園に降り立ち一夜の宿を願い出た。しかし、黄金の林檎がゼウスの息子の誰かに奪われるという神託を受けていたアトラスは警戒するあまり、力ずくで追い返そうとしたところ、怒ったペルセウスがメデューサの首をアトラスに向けた…。

たちまち、アトラスのひげと髪は木々となり、肩と手は尾根となり、体は大きな山になり、頭はその山頂となった。さらに、その山は大きく広がり、全天空がアトラスの上に乗ってきた。こうして、アトラスは死んでも天空を支えているのだ。

このようにしてアトラスは最後、山になりましたギリシャから見た西方にはアトラスの名を戴いた山脈があるんですね。

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巨人神が横たわる似姿。

アトラスは天を支える事が苦痛であったと言います。石の山脈になって尚も、天がその身にのしかかってはいるのですが、強靭な石の身体を手に入れたわけですから「枷」から解放されたといっても良いかもしれません。

一方、フォドリックの場合は、「呪腹の大樹」が天から降ってきて絶命することになります。これは果たして単なる皮肉ととらえるべきでしょうか。それとも、亡者化を通り越して死を迎え、枷の椎骨を欲した彼自身がその一部となり、また枷を積む苦行からも解放された事は、もしかしたら誰もが一旦絶滅する運命にあった火の終わりの時代において最良の道だったのかもしれません。

少なくとも人の形のまま死ぬことができたのですから。

無題


7.まとめ

・枷の椎骨は、人を「人の形」に押しとどめる

・フォドリック爺は、やがて皆が亡者化を迎える事を見据えて、亡者すべてに慈しみを持って積んでいた

・枷の椎骨を一考するとギリシャ神話につながり、フォドリック・シーリスの出自のモチーフ「黄昏の国」を見出せる(私説)


実は「薄暮の国」について、この記事を書いている間に思い当たる事がありました。ので、本来ここで終える予定でしたが、エピローグ的なものを後に付けます。


薄暮の国、黄昏の国、常夜の国 1/1 に続く


参考サイト:
アトラスってなんで地球を支えているの?
https://irenekitakami.com/2016/02/14/%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%A3%E7%A5%9E%E8%A9%B1%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A7%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84/#i-2

ペルセウスとアトラス
http://greek-myth.info/Zeus/PerseusAtlas.html


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