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「稼げる大学」の前に——大学とは何だったのか(講座アーカイヴ公開)

哲学との交流は人生の日曜日と見なされうる。
G.W.F.ヘーゲル

白熱講座のアーカイヴ、ついに出来!
講座アーカイヴリンクは下部の有料部分にて公開いたしております。

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 時事通信の「稼げる大学」報道が世を騒がせてから一ヶ月。大学人、知識人、市民などから多くの反響があったことは、皆様の記憶にも新しいことかと思います。(「稼げる大学」へ外部の知恵導入 意思決定機関設置、来年法改正——https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082601191&g=pol)とりわけ大学に所属する教員など有志からは、様々の意見が発表されてきています。
 最近では、「大学の自治の恢復を求める会」の発起人駒込武氏の編集による『「私物化」される国公立大学』が岩波書店から上梓され、あるいは同氏の登壇した「大学はどこへ向かうのかIII〜「稼げる大学」へ向かうのか?」では、筑波大学や京都大学から目下進んでいる大学改革の情況が報告されました。

 文科省を超え、内閣府の中で検討されている日本の大学のあり方。「稼げる大学」とは直截に言われてはいないにしても、「大学」はいま、「我が国が世界の知的競争をリードする」(世界と伍する研究大学の在り方について (中間とりまとめ)、p.2)という企てのもと、大きな変革を迫られています。
 こうした情況にあって、われわれは「大学とはたんに国家間の競争に克つための手段にすぎないのか?」と問わざるを得ません。しかし、われわれは次のような問いもまた禁じえないでしょう——そもそも大学は(そうした手段であるよりも前に、あるいは国家がわざわざ内閣府主導で手段として利用しようとするほどに)ある種の特異性・特権性のもとに成立しているのではなかろうか? 大学人の研究は、なぜ私人の個人研究と峻別され、あるいは学位授与の対象となり、あるいは国家から予算が降りてくるのか(はたまた分野によって降りてくる額が変わってくるのか)?
 その理由の一つとして、大学という装置が研究者再生産の機関として、国家の要請するところであるということが挙げられます。日本の場合でも、戦前の科研費成立などのように、国家から大学(および大学での研究)が求められていることが、歴史的にも確認されます。
 大学および大学人は、その存立過程からして国家の下での特権性と無縁ではいられない。冒頭で挙げましたヘーゲルの言も、この特権性の中で位置付けることができます。また、それゆえに、学術の世界で(自明視されていながら)特異的な場所である「大学」が民主的に運営されていることは、政治的にももっとも重視すべき要素の一つとなります。日本国憲法第23条が大学の自由を規定するものと解釈されてきたのも、そうした背景のもとに捉えなおせることでしょう。

 ひとえに大学が特異的・特権的であるがゆえに、大学および大学人(研究者)のコミュニティがどのようにあるべきかを真剣に議論してきた人は、11世紀〔最初の大学成立〕以来歴史上数多く現れてきました。その中でもここで特筆したいのは、ドイツの哲学者G.W.F.ヘーゲル、あるいはフランスの精神分析家ジャック・ラカンです。
 アドソキア京都では、この二人の思想家とともに「大学」とは何だったのかを考え直す機会として講座「大学とは何だったのか——エコールとウニヴェルジテート」を配信いたしました。講座では大河内泰樹氏、松本卓也氏を招き、各々パネルトークをしたのち、ディスカッションを行いました。講座の中で繰り返し取り上げられたのは、協同体 Korporation としての大学である、ということのヘーゲルやラカン(派)による確認です。
「稼げる大学」で本当に危機に晒されているのは、端的に特権的である大学という場所だけではない。大学が本来担うべきはずだった協同体——あるいは哲学者マイケル・ハートの術語から〈コモン〉と呼べるかもしれない——としての可能性もまた潰えつつあることは、憂慮すべき事態であります。
(とりわけヘーゲルやラカンを媒介として)大学の将来を問う根本的な課題や提言が挙げられております、講座「大学とは何だったのか——エコールとウニヴェルジテート」のアーカイヴ動画へのリンクは、以下の有料部分にてご案内いたしております。よろしくご高覧くださいませ。

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※いただきました収益は、当講座主催団体「アドソキア京都」の今後の活動費として使わせていただきます。

講座名
大学とは何だったのか——エコールとウニヴェルジテート
収録日
2021年4月16日
登壇者(登壇順)
松本卓也 人間・環境学研究科、教員。精神分析学・精神病理学。
大河内泰樹 文学研究科、教員。哲学(ドイツ観念論、批判理論)。
制作
アドソキア京都
https://addsocia.info (twitter: @addsocia)

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