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【ブルアカ】時計じかけの花のパヴァーヌ【シナリオ考察と感想】

 シナリオの質が高いことは対策委員会編で十分に理解したので、早速、続きを読んだ。やはりブルアカは、美少女がわちゃわちゃしてるだけのコンテンツではなかった。

 上位存在との対立を示唆するSF要素や武器と学生とのアンマッチの融合は、フィクションらしい非日常を演出する一方で、組織間の醜いパワーゲームや人間くさい心理描写を巧みに操るリアル嗜好も追求している。存外に大人向けのシナリオ展開は、透き通るキャラクターデザインからは想像もつかず、気づけば読み進める手を抑えることができずにいた。

 さて。まず気にかかったのは表題だ。前回は「対策委員会編」と題からして概要が何となく伝わるシンプルなモノとなっているが、今回は少し冗長的な構造になっている。つまり本編を読んでから、ようやく題の意味を理解できるようになる。

 とはいえ、表題の意図は公式から明文化されるべきモノではなく、解釈は各人に委ねられるだろう。付け加えるなら、それぞれの解釈に間違いなどなく本人がそう思ったのなら、それが答えなワケで。故に私もメモ代わりに書き残したい。

 当シナリオの表題は長いので、各部位の解体をしてから再結合した方が良さそうだ。

「①時計じかけ」
「②花」
「③パヴァーヌ」

 まずは①の「時計じかけ」だが、これは言うまでもなくアリスの本質のことを指すのだと思われる。

 二章時点での詳細はわからない。が、どうやらアリスはキヴォトス世界をひっくり返すために作られたアンドロイドのような存在で、背景には「無名の司祭」とやらが絡んでいるらしいことが判明している(終盤でリオ会長が慌てふためきながら云々言っていた)。

 純真無垢なゲーム開発部のメンバーと触れ合い親睦を深めたまでは良かった。けれど、アリスの本質はあくまでキヴォトスにおける厄災。その機能が起動するまでのリミットは迫っているということが本編で度々描写され、ユーザに刻限を強く意識させている。

 つまり「①時計じかけ」とは、アリスの厄災としての機能が発揮されるまでの(同時にゲーム開発部の交友関係が壊れるまでの)刻限を暗示しているのだろう。

 また、このことからも「②花」は「①時計じかけ」とセットで考えて良いと思う。花だけではいくらでも解釈のしようがあるため、単純にアリス=花として考えて以下のように訳す。

「時計じかけの花」=「厄災としての刻限が迫ったアリス」

 ロマンチックかつ単純に解釈するなら、花は咲いている期間は美しい(アリスとゲーム開発部との交友期間)が、散る時(アリスの災厄としての機能が発揮される時)はすぐに訪れる儚い存在であることを暗示しているとも取れる。

 または、「花の開花」を「厄災としての機能が開花する時」とかけているのかもしれない。蕾の間は安寧と静寂の担保。けれど、ひとたび花弁が顔を覗かせれば、途端に厄災と転じる。そう捉えると、しっくりくる。

 最後の「パヴァーヌ」だが、これは一番厄介だ。パヴァーヌ(パバーヌ/pavane)とは、16世紀にヨーロッパにて普及した行列舞踏(wikiより)であるらしく、名称の由来にも諸説あるとのこと。

 ダンスとしてのパヴァーヌは、一組のカップルとしての行進の意で使われるようなので、「Key」と「アリス」との対比を表すには適した表現に思える。

 また、解釈としては、以下が重要だろう。

・パヴァーヌのステップは「躊躇いの足取り」に見ることができること
・ゆっくりとした二拍子の舞踏であること

 つまり、本編の表題におけるパヴァーヌとは「アリスが厄災として機能するまでの道のりを躊躇う足跡」であり、「その進行は緩慢だが着実に進んでいる」と解釈することが可能だ。

 時計じかけの花=厄災としての刻限が迫ったアリスの、パヴァーヌ=躊躇いの足取り、と訳すれば、本編の内容とも合致して腑に落ちる感じがする。とはいえ、本編が公開されてから大分経つため、この辺りの解釈は二番煎じもいいところだろう。

 次に書きたいのは、キャラクターの魅力だ。対策委員会編から感じていたことだが、ブルアカのキャラクターには、王道的な型を採用しつつも差別化の意図を感じられる作りになっている。

 話を跨いでしまうが、例えばシロコなんかは従来の(他コンテンツ群の)キャラクターの型とは差別化がしっかりされている。クールな容姿や低血圧な口調とは裏腹に、実は人情派で血の気が多い。これだけなら、どこかの刑事モノにでもいそうな型だ。が、彼女の差別点は意外にも「欠点」にある。

 シロコは行き詰まると視野が「極端に」狭くなり、行き着く先は何故か犯罪的思考なのだ。

 日常生活において警備員の動線だったり、犯罪を犯した後の退路についてだったり、バスジャックの算段だったりを考えており、問題の解決策として、それらの犯罪的思考を口に出す。そんな飛び抜けた意外性を秘めている。

 根は間違いなく善良だが、犯罪に手を染める極端な危うさを兼ね備えている。それは幼さ故と言えば頷けるものの、判断から着手までのプロセスがあまりにも早く、過去にも犯罪を犯しているのではないかと疑ってしまうほど手際が良い。

 仮にもコンテンツの顔を担うような重要なキャラクターに、ここまで突飛な設定を持たせるのは挑戦的で、他に類を見ない型だ。考えてもみてほしい。ヒロインに「銀行を襲う」なんて普通は言わせない

銀行を襲うシロコ


 と、このようにキャラクターの型は突飛でかなり面白い。そもそも、コンビニで銃弾が販売していたり、キヴォトス住人は銃火器程度では死なない身体を持っていたり、それ故か個人の銃火器所有が一般的であったりするため、多少の無茶な設定に耐えうる側面がある。また、それらの突飛な要素が、キャラクターの挑戦的な型作りを助長させている。

 話はパヴァーヌに戻るが、メインのミドリとモモイとユズに関しては、やや王道寄りな作りとなっている。

才羽モモイ
行動的な双子の姉で溌剌な言動が目立つ
向こう見ずな分、仲間を牽引できる力がある
リアルファイトしに行くよ(マジギレ)


才羽ミドリ
冷静で優秀な妹
姉の軌道修正役
落ち込むと妹らしい一面を覗かせる


花岡ユズ
引きこもり気質だが芯が強い
ゲームの手腕に自信有り
受動的だが物語の転換点になり得る



天童アリス
パワー系アンドロイド
ゲーム開発部の影響でゲーム愛好家に
言語基盤をRPGで形成したため口調が独特
光よ─────────(爆)



 モモイ、ミドリ、ユズに関しては、やはり王道的な型に思える。だからと言ってキャラクター性が薄いというワケではない。

・能動的で気楽な姉とそれを支える妹

・見た目は双子なだけあって瓜二つだが、
 比較的大人しい妹の方は垂れ目

・モモイは対人ゲームで煽られればIPを特定し
 対戦相手と物理的に戦いに行くなど、
 ぶっ飛んだ一面がある

・ミドリは原則姉らしい立ち回りをするが、
 一度折れると年相応の顔を覗かせる

・ユズは積極的に物語に介入しないが、
 介入すると決めた時にはシナリオに
 転換を迎えさせる

 汎用的な型であるなら、いっそのこと王道要素を煮詰めてしまおうといった感じで、それぞれ型の旨味を贅沢に使っている。こんなん美味しくないワケがない。

 しかし、ゲーム開発部はこんなモノでは終わらない。当開発部で最もキャラが立っているのは間違いなくAL-1Sことアリスだろう。

 もう散々旨味でごった返しているにも関わらず、リミット付きのキャラクターまで投入してくるのだから恐れ入る。

 例えば、「ソマリと森の神様」のゴーレムだったり、「のび太の恐竜」のピー助だったり。刻一刻と迫る別れの気配を漂わせながら進行するシナリオには哀愁が帯びる。薄氷の上に成り立っている淡い関係を意識させると、キャラクターがいくら喜悦の表情を浮かても、どこか空元気に見えてしまう。

 シナリオや脚本における重要な要素に「※死の二択」というモノがあるが、その要素の大部分を担っているのがアリスと言えるだろう。

※死の二択:キャラクターが失敗したらどうなるのか? というシンプルな問いかけ。原則、主人公の目標に対して課され、また、目標に比例して失敗した時の代償も大きくなる。ユーザの興味を惹き、シナリオを読み続けさせるために重要な要素の一つ。パヴァーヌで死の二択の例を挙げるなら、モモイとミドリとユズは「ゲーム開発部とアリスを失う」ことが、死の二択の代償であると言える


 メインの4人だけでも十分に魅力的だというのに、当シナリオでは新キャラが続々と登場し、ますますユーザを独特な世界観に引き込んで行く。二章を読み終えた時には、ブルアカのキャラクターにはハズレがない、と確信めいた予感が走り、コンテンツの深すぎる沼から逃れられなくなってしまっていた。

 と、ここまで長々とキャラクターや表題について書いてきたが、シナリオの内容にも触れていきたい。

 流れとしては、基本的に対策委員会編と同じだ。廃部を逃れるため、部の実績を作るという小さな契機から始まり、やがて世界の核心に触れるような大きな流れに合流していく。廃部の危機を救うために動いた結果、アリスとの邂逅に繋がり、最終的にキヴォトスの命運を左右する場面に立ち会うことになる。

 全く接点のない二つの点を結びつかせ、世界の謎を提示するシナリオ展開には息を呑むこと必至だ。

 廃部の危機を救う方法を探す必要がある。それは伝説のゲーム開発者が残した「G.BIBLE」の噂だった。

 ミレニアムの忘れ去られた廃墟にて見つけた目的物をデータ消去間際で自端末に移し、同廃墟でアリスも発見。部室へ彼女を連れ帰り交流を深めていく。が、アリスはキヴォトスを滅亡へと導く存在だった。

 何やらキヴォトスの裏事情にやたらと詳しいリオ会長は危機を察知。学園の資金を横領しまくって建設した防衛都市にて、独断でアリスを抹消しようとしていた会長と対峙することになる。

リオ会長
アバンギャルド君を発進させる女



 短期間の学園生活で様々な交友関係を築いたアリスを救うため、これまで交流した友人らが一点に集う最終局面には胸が熱くなる。出会いこそ偶然だが、アリスの人格形成を手伝ったのがゲーム開発部で良かったと思えるシーンは見物だ。

 本来、厄災としての本質を持って生まれたアリスは、鏡のような存在である。干渉した相手によっていくらでも変化しうる危険な兵器。

 もしも悪意のある人物と出会ってしまっていたら、リオ会長の予測した結末になっていたかもしれない。が、そうはならなかった。邂逅したのが純真無垢なゲーム開発部の面々だったから。

 彼女らが世界の命運とは全く関係のない点に位置し、厄災とは全く関係のないゲームに触れさせたおかげで、アリスは今の人格を得た。独特な口調が一種の弊害を生んだとはいえ(キャラクターの特徴としては相当に面白い)、愛嬌と良心を兼ね備え、人の信頼を勝ち得る存在にまで成長できた。

 現在の世界はプロローグ(あるいはエピローグ)の段階で示唆された通り、連邦生徒会長が観測したであろう世界線とは別の可能性を進んでいると思われる。そんな状況で、アリスが善の方向に成長できたことを考慮に入れると、今のところ正しいルートに進めているのではないかと希望が持てる。

 また、正規ルートに導いた特異点がまさに先生の存在だ。

 連邦生徒会長が観測した世界線では、もっと悲惨な運命を辿っていた可能性がある。先生が特異点となれず、アリスを抹消せざるを得なかった世界がどこかにあったのかもしれない。あるいは、覚醒したアリスにそのまま世界を滅ぼされた世界線すらあったかもしれない。

 故に、それらの結末を経験した連邦生徒会長が、別の可能性を模索するように先生へ希望を託したと考えれば辻褄は合う……気がする。何にせよ現段階では憶測に過ぎない。連邦生徒会長が同じ世界線をループしてきた可能性だってあるだろう。

 最後に。本筋とはあまり関係がないかもしれないが、個人的に気にかかったことをメモ代わりに書き残しておきたい。

「名もなき神々の王女」
「Divi:Sion System(及びG.BIBLE)」
「デカグラマトン」

 上記については、あまり馴染みのない単語だった。リオ会長曰く、アリスとは「名もなき神々の王女」であり、世界を滅亡へ誘うオーパーツであるらしい。

 ……のだが。リオ会長は肝心の「名もなき神々」とか「それを信奉する名もなき司祭」とか「神々の王女」とかが一体何であるかの説明はしてくれない。
ヒマリ「そんなだから浄化槽に浮いた水、みたいに比喩されるんですよ」

 この世界には大昔に古代人がいて、彼らが残した遺産があることや、名もなき神々(並びに司祭)と呼ばれる上位存在がいるらしいということが漠然と提示されるだけだ。

 動機は不明だが、名もなき司祭はキヴォトスを滅亡へと導きたいらしく、リオ会長はそれを阻止するために一人対策を練っていた。つまりこれから相対する敵は、概念的な上位存在であり、思っていたより規模の大きい話になるであろうことが予測される。想像していた世界観より数倍SFチックで驚かされた。

 上位存在の総称を「キヴォトスの外から来たもの」と表現するあたり、文字通り外宇宙の存在であることが想像され、どことなくクトゥルフ神話っぽさがある。

 次に「Divi:Sion System」についてだ。同システムは「Key」と連携しており、追跡者と呼ばれる機械兵器群を操作したり、アリスを「名もなき神々の王女」として覚醒させるための機能である。

 しかし、同システムは「デカグラマトン」というAIに機能が取り込まれていたらしく、モモイのゲーム端末に保存されたデータはデカグラマトンから逃れた一部だった可能性がある。

 故に「G.BIBLE」とは全く関連性がないと考えていいだろう。「G.BIBLE」とは、あくまで伝説のゲーム開発者が残したマニュアルであって、それ以上の掘り下げはされていないからだ。

 「Divi:Sion System」と一緒にモモイの端末へ保存されたため、関わりがあるように思えたが、どうやら違うらしい。

 危険を乗り越えて獲得し、ハッカー集団の手を借りてロックを解除。そこまでしてようやく解凍された「G.BIBLE」の中身が、「ゲーム開発者における最も大切な心根は、ゲームを愛することである」というテキスト文だけだった。

 ここまでシナリオを読んできたユーザとしても腑に落ちない結果であり、アリスを見つけるシナリオ上の起点としてしか利用価値がなかった、と考えても仕方がない要素に思える。

 でも、ブルアカのライター陣がそんな寒い展開を用意していたとは(贔屓目もあるが)考えにくい。

 「Divi:Sion System」は、デカグラマトンに喰われていたという事実がある以上、当システムは「G.BIBLE」を餌にしてモモイの端末に逃れたのだ、と考えるのが妥当だろう。伝説のマニュアルは本当に存在し、廃墟の工場にデータは完全に保存されていたのかもしれない。

 モモイの端末に移る際、既存のゲームデータを全削除するほど容量が重たかった「Divi:Sion System」は、自身の機能を格納するのが限界で、肝心のマニュアルを保存する容量が確保できなかったとしたら。そんな裏事情があると考えるなら、あの結果にも納得がいく。

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