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“鬼滅”ばかりじゃない、今見ておかないとかなりもったいないアニメ映画「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」。

 きょうは珍しく、午前中から映画を見た。
 自宅の最寄り、浦和駅前のパルコ内にあるユナイテッド・シネマ浦和は、平日の午前10時前だというのにやけに人が多い。やはりお目当ては「鬼滅の刃」なのだろう。ちなみに、この映画館では毎週金曜日、会員価格1100円でどの映画も見られることになっている。おそらくそれが狙いだろう。

 ほかならぬ自分もそれが目当てなのだが、本日の目的は「鬼滅の刃」ではない。先週から公開が始まっていたアニメ映画「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」の方だ。公開4周目になるきょうも複数のスクリーンで上映している「鬼滅の刃」とは違い、「羅小黒戦記」の上映は1日2回のみ。しかも午前9時50分からと夜7時過ぎからしか設定されていない。何という不遇。まあ、中国で公開されたのは14ヶ月も前であり、日本での公開が始まって今回のは日本語吹き替え版ということなので、多少は仕方のない扱いではあろう。

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 だが、同作は「鬼滅の刃」に匹敵すると言ってもいい、今見ておかないとかなりもったいない映画であると断言できる。それほどにクオリティが高い内容だった。

 可愛らしい黒猫の姿をした妖精・シャオヘイが、人間の少年の姿に変身できるようになり、妖精の世界と人間の世界の狭間で、居場所を求めて旅に出るというのが、かなり大まかなあらすじだ。これだけの説明だと、ジブリ映画によくあるようで中国人たちが体よく真似た作品程度に思うかもしれない。

 しかし、シャオヘイが旅する先は、自然豊かな森かと思えば、突然ビル群がそびえ立つ超現代的ハイテク都市だったりと実に目まぐるしく移り変わる。そして合間合間に、古式ゆかしい中国ならではの風景が写り込まれる。シャオヘイが出会うキャラクターたちも、古風な着物に身にまとった者から、妖精なのにスマホ片手に情報社会を器用に渡り歩く者など実に様々。

 大雑把だが、宮崎駿作品と新海誠作品の特徴的な美味しいところを組み合わせて、唐辛子とにんにくを効かせた中華味に仕立てた作品ということもできよう。日本アニメの影響を強烈に受けているのは間違いないだろうが、中国アニメならではの風味を実にうまく引き出している。これを「パクリ」などと安易な言葉を使ってはならないし、そんな陳腐な言葉を使うことが恥ずかしくなる。

 そして、際立ったのは絵作りだ。後半にかけて大規模なバトルシーンが展開するのだが、キャラクターの動きのほとんどは、3DCGに頼らず、多くの部分を手書き作画で作り上げているのだ。いや、部分部分でCGは使っている可能性はあるが、それがわからないくらい、作画感が強烈なのだ。これは、10数年前まで日本アニメが世界を席巻した表現方法であり、今はかなりな部分で忘れかけてしまっているものである。それを、この作品は何ら遠慮することなく取り入れ、中国アニメここにありと私たちに見せつけているのである。

 さらに、この高品質の画に、日本アニメ自慢の音響陣がブレンドされ見事なまでにアニメ界の国境をぶち破ってくれたのがこの日本語吹き替え版なのだ。声優陣からして豪華この上ない。主人公シャオヘイの声は花澤香菜、シャオヘイとは初め敵対するも不思議な仲へと変化する人間界最強の執行人・ムゲンの声は宮野真守、シャオヘイを仲間に招くも後に豹変するフーシーの声は櫻井孝宏。ほかにも水瀬いのり、松岡禎丞、斉藤壮馬、杉田智和、大塚芳忠、豊崎愛生、チョーなど、アニメファンなら知ら誰もが知ってる声優陣が名を連ねる。いずれも“らしい”キャラになりきってイキイキした芝居を聞かせてくれている。

 そして、忘れてはならないのが音響監督・岩浪美和の存在だ。巨大ハイテク都市を舞台に繰り広げられる空間そのものを駆使した激しいバトルは、4DXでなくとも体全体に響いてくる。これについては、言葉で説明するより、劇場で体験してくれとしか言いようがない。

 昨年現地で公開された時点で、日本アニメ界にとっての驚異との評判が飛び交った本作。しかし、もはやこれを“敵”と表現するのはミスリードだろう。劇中でシャオヘイが妖精の世界と人間の世界を超越しようとしたように、日本も中国も有意義な部分を取り入れ合い、互いにクオリティを高め私たちアニメファンに次なる驚きをもたらしてくれることに期待するのが、あるべきカタチに違いない。今は“鬼滅”二湧く日本アニメ界にとっても、「羅小黒戦記」がいい刺激になることを願わずにいられない。

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