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【声劇】絶対悪の一人勝ち

利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08

♂:♀=1:2
約20 分~30分

上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

♂リアン :王女リリーに仕えている元奴隷。ミーシャとは密かな恋仲。
♀リリー :一国の王女。日本の文学が好き。
♀ミーシャ:家族をリリーに殺された奴隷。リアンとは密かな恋仲。

***

リリー:「ねぇ、リアン」

リアン:「っ…………」

リリー:「人の悪って、こんなにも素敵」

***

リリー:「リアン(手を叩く)」

リアン:「はい、リリー様」

リリー:「今日も政治は退屈だわ。大臣がほとんどやってくれるし、ずーっと名前を書くばっかり!リアン、代わって?」

リアン:「いけません、リリー様。貴方が書かなければ意味がない。それに、私は元奴隷。文字は書けません」

リリー:「むぅ、それじゃあお勉強しなさいよぉ」

リアン:「なりません。私はリリー様の仰せで召使いをさせて頂いている身です。ですから、王女であるリリー様のおそばを離れれば、この首が飛ぶでしょう」

リリー:「ちぇ、つまんないのーっ」

リアン:「リリー様、どうか、署名をお続けくださいませ」

リリー:「……それじゃあ、いつもの、やってくれる?」

リアン:「は……いつもの、ですか」

リリー:「えぇ、いつもの。あれさえやってもらえれば、私もちゃんと署名をするわ」

リアン:「…………」

リリー:「リアン、出来ないとは……言わないわよね?」

リアン:「王女リリー様の仰せのままに。……用意をしてまいりますので、ご許可を」

リリー:「えぇ、いってらっしゃい?」

リアン:「失礼いたします」

リアンM:『……リリー様は、悪女だ。政治は大臣に任せきり、そのくせ署名時に何か気に入らない点を見つけると口を出す。極めつけは……』

リリー:「準備できたわね、始めなさい」

リアン:「…………」

リリー:「リアン」

リアン:「リリー様の仰せのままに……。っ!」

ミーシャ:「きゃあ!」

リリー:「いいわ!そうよ、もっと!」

リアン:「……フンッ!」

ミーシャ:「どうか、どうかお許しくださいませ……!」

リリー:「キャーッハッハッハ!そうそうこれこれ!奴隷をムチで苦しめる、この瞬間が一番楽しいわ!」

リアンM:『罪のない奴隷を、ムチで打つことに快楽を覚えている』

リリー:「あぁ、私も早くそのムチを打ちたいっ……!筆が進むわ!流石よ、リアン!」

ミーシャ:「どうかっ……お許しをっ……!」

リアン:「……お褒めにあずかり、光栄でございます……。フンッ!」

ミーシャ:「ぅくっ……うぅっ……」

リアンM:『僕は、この王女が……リリーが、嫌いだ』

***

リアン:「……すまない、いくら言いつけられていたとはいえ、僕にとってミーシャは大切な人。ここまでやることはなかった……」

ミーシャ:「ぅ……いいえ、いいんです。傷は痛むけれど、それでも、リアンの優しさが傷を癒してくれる……」

リアン:「そんなはずはないだろう。ほら、傷を見せて」

ミーシャ:「……痛っ」

リアン:「大丈夫か!?すまない、どこが痛んだ?」

ミーシャ:「だ……大丈夫です。ただ、傷が衣服に触れただけなので……」

リアン:「ムチとは、これほどまでに人を傷つける物なのか……。ミーシャ、これからは……」

ミーシャ:「ダメ」

リアン:「……え?」

ミーシャ:「だって、リアン。手加減をするつもりでしょう?王女様にバレたら、リアンが危ないじゃないですか。私は奴隷の身。私より、リアンの命が大切ですから……。どうか、今まで通りに」

リアン:「……分かった。だが、リリー様の機嫌を取るのは僕の仕事だ。リリー様にムチを持たせない方法を、いくつか考えてみるよ」

ミーシャ:「リアン……ありがとうございます。私のような奴隷に、そのようなお慈悲を……」

リアン:「やめろ、『奴隷』なんて言葉を使うな。僕だって元は奴隷。それに、ミーシャは僕の幼い頃からの恋人じゃないか。せめて、僕の前では素直に、奴隷なんかじゃない、ただのミーシャでいてくれ」

ミーシャ:「リアン……」

リリー:「(遠くから)何をしているー!これ以上待たせると、お前の首をはねるぞ!」

リアン:「おっと……すまない、ミーシャ。僕はもう行くよ」

ミーシャ:「あ……治療、ありがとうございます。お気をつけて」

リアン:「ハハハ、この城で気を付けることなんて、僕たちの関係を秘密にすることと、リリー様の機嫌くらいさ。それじゃあ、愛してるよ」

リリー:「(遠くから)リアンー!!!早くしろー!」

リアン:「今行きます!リリー様!」

ミーシャ:「(リアンが去って)……どうか、気をつけて」

***

リリー:「リアン(手を叩く)」

リアン:「はい、リリー様」

リリー:「今日も政治は面倒だわ。いつものをやって?」

リアン:「リリー様、あまり奴隷をいじめては……」

リリー:「じゃあ、お前が代わる?」

リアン:「……っ」

リリー:「リアン、出来ないとは言わないわよね?」

リアン:「……ッ、王女リリー様の仰せのままに」

リリー:「…………」

***

ミーシャ:「……うっ」

リアン:「……」

リリー:「今日はあまり鳴かないわね。つまらないわ、リアン、剣を持ちなさい」

リアン:「っ……リリー様、一体何を」

リリー:「その肌を切り付ければ、きっといい声で泣いてくれるでしょう?」

リアン:「リリー様!」

リリー:「リアン」

リアン:「っ…………」

リリー:「貴方が出来ないなら、私がやるわ。リアン、剣を貸しなさい」

リアン:「…………嫌です」

リリー:「なら、貴方がやる?」

リアン:「出来ません」

リリー:「リアン!」

ミーシャ:「……リアン様、剣を」

リアン:「っ、ミーシャ!」

リリー:「っ……ふふ、あはははは!いい度胸の奴隷じゃない!いいわ、それなら、こうしましょう。リアン、剣をその奴隷に渡しなさい」

リアン:「……え」

リリー:「早く!」

リアン:「……分かりました。少し重いぞ」

ミーシャ:「……はい」

リリー:「受け取ったわね。それじゃあミーシャ、私の近くに」

リアン:「…………?」

ミーシャ:「はい……」

リリー:「ミーシャ、今までよく痛みに耐えてくれたわね。酷いことをしてごめんなさいね」

ミーシャ:「え……?」

リアン:「何を……」

リリー:「さぁ、その剣で、リアンの首を斬りなさい!」

ミーシャ:「っ……!」

リアン:「っ……リリー、様……」

リリー:「私が気づかないとでも思っていたの?愛する者同士、二人で死にたいのなら、それも結構。でも、命令に従えば、ミーシャ。貴方に裕福な暮らしをさせてあげるわ。貴方の家族も皆、リアンの首一つで助けてあげる」

ミーシャ:「そんな……」

リアン:「ミーシャ……」

リリー:「ミーシャ、貴方は、その剣を誰に向けるの?リアン?それとも自分?」

ミーシャ:「私はっ……」

リリー:「ミーシャ、今まで苦しかったわよね?リアンのせいで」

リアン:「は……」

リリー:「同じ奴隷だったリアンばかりが優遇されて、自分はムチに打たれる日々。愛するリアンは私に逆らうことなく、その身の大事さに貴方を犠牲にした」

リアン:「やめろ……」

リリー:「ミーシャ、剣を持っているのは貴方。リアンは丸腰よ?」

ミーシャ:「…………私はっ!(リリーに剣を向ける)」

リリー:「……!」

リアン:「……ミーシャ!」

ミーシャ:「止めないでください……!貴方を殺すなら、自分を殺すなら、この人を殺した方がマシです!」

リアン:「ミーシャ……」

リリー:「……っふふ、あはははは!私に剣を向けるというの!?非力で、貧弱で、奴隷の貴方が!」

ミーシャ:「私の家族は、貴方の所為で死にました。私が、私の家族が苦しんだのは、リアンの所為じゃない。貴方の所為です!その華美なドレスは、貴方に踏みつけにされた奴隷たちの命の重みです。貴方の後ろには大きな窓、扉は私達の後ろ。最上階のここからじゃ、逃げることは出来ません。大人しく死んでください」

リアン:「ミーシャ、剣を貸せ。お前がそのつもりなら、僕が彼女の命を狩ろう。君が絞首台に立つなんて、考えたくもない」

ミーシャ:「リアン……」

リアン:「こんなに重い剣は初めてだ……。リリー様、覚悟なさってください」

リリー:「…………」

リアン:「国民の苦しみ、ミーシャの苦しみ、この剣にて晴らさせて頂きます」

リリー:「……ふふ」

リアン:「……?」

リリー:「あーっはっはっはっは!」

リアン:「っ……!」

リリー:「覚悟?そんなもの、とっくの昔に出来ているわ!不幸を貪(むさぼ)る代償、絶品じゃない!人の不幸は蜜の味と言うけれど、私は私の作った蜜じゃなきゃ満足できない。首を絞めるなら己の手で、最後まで私を満たしてくれなきゃ!」

ミーシャ:「っ…………」

リアン:「なん……だって……?」

リリー:「私はずっと待っていたの。己の人生を狂わせてでも、私を殺してくれる人を!あぁ、待ちわびていたわ。リアン、ミーシャ。覚悟はおあり?」

リアン:「覚悟……?」

リリー:「当たり前じゃない!覚悟をするのは私じゃない。貴方たちの方よ!そうね、教えてあげる。どうして私が死を望むかを!」

リアン:「…………」

リリー:「外国の本にこういうジャンルがあるわ。『勧善懲悪』」

ミーシャ:「勧善懲悪……」

リリー:「『罪を犯した魂は、生まれ変わっても贖罪をしなければならない』つまり、今世でどれだけいい行いをしても、前世で罪を犯している人間は、幸せになれない」

リアン:「……それが、どう覚悟に繋がるんだ」

リリー:「分からない?貴方たちが今までずっと不幸だったのは、前世で罪を犯した人間だから。そして、私が今幸せなのは、私が前世でいい行いをしたから」

リアン:「…………?」

リリー:「もし、貴方たちがここで私を殺せば、貴方たちはまた来世で不幸になる。さらに、キリストの教えを信じるならば、貴方たちが死んだあと、私と同じ地獄に来るってことなのよ?まぁ、地獄に来た場合、来世などないのだけれど」

ミーシャ:「っ…………」

リリー:「面白いでしょう?私を裁けばどんな善人も来世では不幸せ!復讐心に身を任せれば、憎くて仕方のない私と同じ末路を辿ることになる!」

リアン:「お前っ……」

リリー:「さぁ、恨むなら私を刺せばいい。悪に堕ちる覚悟があるなら!あーっはっはっはっは!」

リアン:「くっ…………」

ミーシャ:「死んだあとも……貴方に虐げられる……なんて」

リリー:「ミーシャ、貴方も剣を持ったらどう?せっかく私を殺せるんですもの。リアンのような長い剣はないけれど、短剣ならば引き出しにあるわ。取ってあげる」

ミーシャ:「私……私は……」

リリー:「ほら、ミーシャ。私はここから動かないわ。心配なら、リアン。貴方が受け取りに来なさい」

リアン:「っ…………」

ミーシャ:「……私が受け取ります」

リアン:「いや……ミーシャ。やめよう」

ミーシャ:「どうして?」

リアン:「ここで王女を殺せば、僕たちは死んだ後もなお、王女に付きまとわれる羽目になる。でも、殺さなければ、僕たちは死んだあと天国に行ける。僕たちが王女から離れて暮らすためには、ここで彼女を殺すべきじゃないんだよ」

ミーシャ:「そんな……」

リリー:「私はどちらでも構わないわ。殺せば絞首刑、殺さなくても絞首刑。キリストに背いて私を殺すか、憎しみを断って二人で死ぬか。選ぶのは貴方たちよ」

リアン:「ミーシャ……僕は二人で天国へ行きたい。そして、来世で幸せになろう。僕は剣を置くよ」

ミーシャ:「リアン……」

リリー:「さぁ、短剣よ、ミーシャ。家族の恨みか、リアンとの愛か。悪と善、貴方はどちらに堕ちる?」

ミーシャ:「私は……」

リアン:「ミーシャ……」

ミーシャ:「私は……!」

(リリーに近寄る)

リアン:「ミーシャ……!」

リリー:「そう、いい判断ね。ミーシャ。さぁ、受け取りなさい」

ミーシャ:「私はあなたが憎い。でも、その剣は受け取らないわ」

リリー:「ほう?」

ミーシャ:「私は、リアンと二人で幸せになりたいの。ここで家族の復讐をしたって、不幸になるのは私。天国にいる家族に会えず、リアンも失うのなら、私は喜んで絞首台に乗るわ!」

リリー:「…………そう、つまんないの」

(リリー、ミーシャの腕を掴み、強く引く)

ミーシャ:「…………えっ」

リリー:「…………」

(短剣がミーシャの喉を掻き切る)

ミーシャ:「かはっ…………」

リアン:「……は」

リリー:「たかが奴隷に、高望みしたのが間違いね」

リアン:「ミー……シャ」

ミーシャ:「…………」

リリー:「リアン、片づけておいて」

リアン:「はぁ、はぁ、ミーシャ……。はぁ、はぁ、はぁっ……!リリー!!!!」

リリー:「っ……!」

リアン:「うぉぉぉぉぉおおお!」

(リアンが剣でリリーを刺す)

リリー:「ぐッ……けほっ……」

リアン:「よくも、よくもミーシャを!地獄で罪を償え!お前のようなクズ、神がお許しになるはずがない!」

リリー:「ふふ、うふふふふっ……」

リアン:「っ………!?」

リリー:「あはははは!これよ、これ!この時を待ちわびていたの……!ごふっ……」

リアン:「何を……笑って……!」

リリー:「私を、刺したじゃない!私が殺したミーシャは、罪を犯さないまま、悲劇のヒロインとなって死んだ。でも、貴方は私を刺した!」

リアン:「っ……!」

リリー:「ねぇ、リアン」

リアン:「っ……」

リリー:「人の悪って、こんなにも素敵」

リアン:「…………。っ、うおぉぉぉぉおおおお!!!!!」

(リアン、何度も剣を突き立てる)

リリー:「ゲホッ、ガハッ……はぁ、はぁ、私の……っ、勝ちよ!ふふ、あははは!ゲホッ、ゲホゲホッ!」

リアン:「リリィィィィ!!!!!!」

リリー:「グハッ……っ———」

リアン:「はぁ、はぁ、っ、うおおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁ!!!!(雄たけびを上げながら泣く)(少し落ち着いて)——————…………ミーシャ、この愛は、神の名の元に」


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