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【声劇】紅蓮の夜叉

利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀=2:1
約45分
上演の際は、作者名とリンクの記載をお願いします。
役表
緋色♀
光男♂兼 村人、鬼
荒鬼♂兼 登山者、鬼八
***
緋色
「……お母さん」

「……………」
緋色
「あぁ、また……」

「……………」
村人
「こいつが鬼の子だ!殺せ!!!」
緋色
「また、この夢か……」
***
光男
「荒鬼さん、この前の山の鬼の件なんですけど……」
荒鬼
「あぁ、光男がやってくれたんだったか?」
光男
「今月でもう四回目ですよ……」
荒鬼
「鬼さん達もよくやるもんだよなぁ」
光男
「いったいどこから湧くんでしょうね」
荒鬼
「どうせ親玉でもいるんだろ、近々顔を出してくれるんじゃねぇか?」
光男
「親玉を待っている間に一体どれほどの被害が出るやら……」
荒鬼
「調査に行こうにも、最近通報が多くて手が回らねえしなぁ」
光男
「今年に入ってからどうも妖の活動が活発ですね……人々の神話の記憶が薄れていることが明白だ」
荒鬼
「まぁ、おかげさまでうちも大繁盛ってもんだぜ」
光男
「荒鬼さんが開設したこの『怪異かいいあやかし相談事務所そうだんじむしょ』両親が死んでここに連れてこられた時は正直何の詐欺かと思いましたよ」
荒鬼
「ハッハッハ、光男は両親が陰陽師おんみょうじだってことを知らなかったもんな。俺も初めは『守れるのがうちくらいだからって、厄介な坊主を連れてこられた』なんて思ったもんだぜ」
光男
「荒鬼さんには力の使い方をゼロから教えて貰いましたもんね」
荒鬼
「ほんと、とんだ骨折り損だぜ」
光男
「はいはい、そんなこと言ってないで。早く準備して下さい。二時から武田さんちの地縛霊払いに行くんでしょ」
荒鬼
「なっ!話しかけてきたのは光男だぞ!」
光男
「僕は話してる間に準備してました。グダグダしてるとおいていきますよ」
荒鬼
「ちぇ。……あ。おい、やっぱ光男来なくていいわ」
光男
「いやいや、勉強させてくださいよ。気にさわったなら謝りますから」
荒鬼
「そうじゃない。ほら見ろ、五件目の被害者になりそうな馬鹿が山に入っていくぞ」
光男
「またあの山ですか……役所も注意喚起ちゅういかんきじゃなくて立ち入り禁止にしてくれればいいのに」
荒鬼
「役所も信じてないんだろ。仕方ない。光男、登山者を守って、もし鬼が出たら捕獲ほかくしてこい」
光男
「分かりました。じゃあ僕行ってくるので、荒鬼さんは遅れないように出発するんですよ」
荒鬼
「はいはい」
***
緋色M
『八年前、母は人間に殺された。母は若い頃鬼に強姦ごうかんされ、人に見つかれば殺されるだろうとこの山に逃げ込んだ。そして山の中にあるすたれたやしろの中で私を産んだそうだ。母は、山のけものを狩り、妊娠中に持ってきた服を私に着せ、お気に入りの本で私に読み書きを教えてくれた。私を人間として育ててくれたのだ。
しかし、どこからか私の存在がバレてしまい、母は私のフリをして私の代わりに殺された。
「鬼の成長は早い。母なら産まれた時に私の炎で死んでしまった。私が緋色だ」
そう嘘をついて殺されてしまった。
私が鬼であることを自覚したのは母の日記を読んでから。私を喰おうとする鬼がこの山に出るようになってから』
登山者
「うわああああああ!!!!!」
緋色M
『私の父はどうやら力が強いようで、私は鬼たちに負けなかった。そんな鬼たちが今度は人間を襲い始めたものだから、私は仕方なく人間たちを守っている』

「ぐへへ……食ってやるよ……」
登山者
「く、来るな……来るなァ!」
緋色
「刀よ、一刀のもとしき魂をしずめよ。陽炎落葉斬ようえんらくようざん

「グハぁッ」
登山者
「……え?」
緋色
「大丈夫?」
登山者
「ひッ……別の鬼ッ……」
緋色M
『赤い瞳に二本の角。黒い髪も真っ赤に染まり、腕には炎の紋章もんしょうが浮かび上がる。恐らく父譲りであろう姿』
登山者
「どうか、どうかお助けを……」
緋色M
『こんな姿で、やしろにあった刀まで持っているものだから、人に恐れられるのは仕方のないことだ』
緋色
「……もう行くわ。気を付けて下山して」
登山者
「……え?」
緋色M
『死のうにも死ねないこの姿……私は、何のために生まれてきたのだろうか』
光男
「そこの鬼、止まれ」
緋色
「…………」
光男
「この山の鬼か……悪いがお前を捕獲ほかくさせてもらう」
緋色
「とんだとばっちりね。私はそこにいる人を助けたのに」
光男
「つまらん戯言ざれごとだな。大人しく来れば、手荒な真似はしないぞ」
緋色
「私、まだ読みかけの本があるの。悪いけど、これ以上関わるつもりはないわ」
光男
「そうか……残念だ。式神よ、目下もっかの鬼を捕縛ほばくせよ。妖異封縛式よういふうばくしき
緋色
「っ……」
光男
「悪いな、仕事なんだ。さあ、貴方にも来ていただきますよ。事情徴収じじょうちょうしゅうをしなきゃなんでね」
***
緋色
「——————」
荒鬼
「なるほど、全く、駄目ですよ?役所が注意喚起ちゅういかんきしてるんだからぁ」
緋色
「———……ん」
荒鬼
「気を付けてくださいね、じゃあ、はい。帰ってもらって大丈夫なんで」
光男
「荒鬼さん、武田さんちの地縛霊は?」
荒鬼
「あぁ、弱かったからすぐ終わった」
光男
「そうですか」
荒鬼
「大変だったんだぜ?ビュンビュン逃げ回ってよお……あ、はい!お気をつけて~」
光男
「でも、すぐ終わったんでしょう?強いんだから文句言わない」
荒鬼
「愚痴くらいいいじゃねえか。ほんとにすごかったんだぜ?」
光男
「はいはい、それで、この刀はどこに置きますか?あの鬼の所持品なんですけど」
荒鬼
「ちぇ、光男君つれねえの。刀はそっちに置いといてくれ」
光男
「分かりました」
荒鬼
「おい、待て。それ妖刀じゃねえか」
光男
「妖刀?」
荒鬼
「あー、確かあの山、やしろがあっただろ。多分あそこのだなぁ。なんだっけ、確か刀に名前が……」
緋色
「……紅炎べにほむら
荒鬼
「お、嬢ちゃん。おはよう。へぇ、これ紅炎べにほむらっていうの」
光男
「姿が変わっている……術でも使ったか」
緋色
「私は鬼と人間の子だから。力を使わない限りは人間でいたいの」
光男
「ハーフか……これは大きな事件だな。悪いがしばらくはここにいてもらうぞ。鬼と人間のハーフなら被害者がいるはずだ」
緋色
「母は死んだわ。人間に殺されたの。私の身代わりでね」
荒鬼
「八年前の鬼狩りか……。嬢ちゃん、山の中ではどんな生活を送ってたんだ?」
緋色
「そうね、山の獣を狩って、母の好きな本を読んでいたわ。たまに鬼が人を食べようとするから、仕方なく助けてあげているの」
荒鬼
「鬼を?母を殺した人間が嫌いじゃないのか?」
緋色
「別に。悪いのは母を殺した奴らだけ。それに、奪う力だからこそ私はこの力で人を守りたいわ」
荒鬼
「鬼なのに、鬼を殺すのか?」
緋色
「だって、鬼は私の母をおそった種族だもの。私を食べようとした奴もいたし、人を殺そうとしたやつもいたわ。嫌いに決まってる」
荒鬼
「鬼嫌いの鬼か……」
緋色
「やめて、私は人間よ」
荒鬼
「悪かった」
光男
「で、どうするんですか。この鬼」
荒鬼
「光男」
光男
「すみません。でも、名前を知らないので他に呼びようがない」
緋色
「……緋色」
光男
「そうか。それで、緋色をどうしますか」
荒鬼
「しばらくは観察だろうな」
光男
「チッ……忙しいのに」
緋色
「帰っちゃいけないの?」
荒鬼
「暫くはここに泊まってもらう」
緋色
「……そう」
光男
「悪いな。お前が鬼の血を引いている以上、あの山に鬼が湧くのがお前の所為じゃないと証明できない限り返せないんだ」
荒鬼
「とはいえたった二人の事務所でどっちかが付きっ切りってのは流石にきついな」
光男
「そうですね、流石に現場には連れていけないし……」
荒鬼
「それだ!嬢ちゃん、いっそのことうちに入ったらどうだ?」
光男
「は?」
荒鬼
「三食飯付き、街で暴れる妖怪を斬ったり、人にいたずらをする霊を斬ったりするだけ!」
光男
「いやいやいや、鬼に仕事させるんですか?」
荒鬼
「だって、じゃないと仕事にならないだろ。こっちは人手が増えて助かるし、鬼と人のハーフならワンチャンごまかせる」
光男
「いや……僕は嫌ですよ」
荒鬼
「でももう決定しちゃうもんね」
光男
「チッ……分かりましたよ。従わなきゃ僕の仕事減らすんでしょう」
荒鬼
「さっすが光男君!察しがいい!」
光男
「僕は嫌ですけどね!!!」
緋色
「……それで、私はどうしたらいいの」
荒鬼
「しばらくはここに住んで、気が向いたら嬢ちゃんのことを教えてくれ。しばらくしてまだあの山に鬼が湧くようなら、嬢ちゃんはあの山に帰れる」
光男
「きっと湧くでしょうけど」
荒鬼
「さあ、どうだかね。それじゃあ、しばらくよろしくな、嬢ちゃん」
緋色
「よろしく」
***
荒鬼
「ふぅ……。ついにこの時が来た。まさかあいつがあの紅炎べにほむらを持っているとは思わなかったが……問題ない。その力すらもかてにするだけだ。俺が百年かけて用意した最高傑作さいこうけっさく……。奴さえ消せば全てが上手くいく。覚醒かくせいの時は近いぞ……“紅蓮の夜叉ぐれんのやしゃ”」
***
緋色
「……ねぇ」
光男
「なんだ」
緋色
「あの男は?」
光男
「荒鬼さんなら仕事中だ」
緋色
「あなたは何をしているの」
光男
「同じく仕事中だ。荒鬼さんが式神を飛ばしてくるのを待っている」
緋色
「式神……あなたは陰陽師おんみょうじ?」
光男
「あぁ、その血を引いている」
緋色
「どうしてこの仕事を?」
光男
「両親が妖に殺されてな。僕を引き取ったのが荒鬼さんだった」
緋色
「そう……。そういえば、私あなたの名前知らないんだけど」
光男
「たった数日の付き合いの奴の名前なんて知りたいか?」
緋色
「だって、呼びようがない」
光男
「……それもそうだな。僕は夜道光男やどうみつお。僕の上司、あの偉そうな男は荒鬼嵐八あらきらんや。仕事サボろうとするし、僕を盾にするような人だけど、僕なんかより何倍も強い」
緋色
「光男に荒鬼……覚えておくわ」
光男
「なっ、“さん”をつけろ“さん”を!僕はまだしも、荒鬼さんなんてお前じゃ到底とうてい勝てない相手だぞ!」
緋色
「私は別に尊敬してない。それよりほら、式神が来たんじゃない?」
荒鬼
「光男……酷い言いようじゃねぇか」
光男
「式神を通して話を聞かないでください。僕、褒めてたと思うんですけど」
荒鬼
「緋色には尊敬されてないし、部下はこんなだし……俺、仕事辞めようかな」
光男
「はいはい。それで、どんな感じですか」
荒鬼
「ちぇ、少しは引き留めろよぉ」
光男
「随分と余裕そうですね。それなら荒鬼さん一人で十分か」
荒鬼
「あぁ!光男君待って一人にしないでぇ!」
光男
「はぁ、それで、状況は?」
荒鬼
「この旅館のオーナーも随分と見て見ぬふりをしてきたようだぜ。個々の力は弱いが量が多くて敵わねぇ。待機してるから、緋色を連れてサポートに来てくれ」
光男
「承知しました。緋色、僕について来てくれ」
緋色
「分かった」
光男
「と言っても数軒先だ。迷子にはならない」
緋色
「どこだっていいわ。早くいきましょう」
光男
「おう」
***
荒鬼
「遅いぞ、光男、緋色」
光男
「うっわ……この量を見て見ぬふりとか……」
緋色
「姿は人とあまり変わらないのね」
荒鬼
「そりゃあ鬼みたいな姿なら見て見ぬふりできなかっただろ。この姿だから人だと思い込めたんだ」
緋色
「ここに人間は?」
荒鬼
「今はいない。オーナーを説得して全員避難させた」
緋色
「そう……」
光男
「この量を払うには……どの術を使えば……」
荒鬼
「お前の力で考えるなら……緊縛式きんばくしきを一体一体にかけて、この前教えた妖殺ようさつの術を地道に発動するしかないな」
光男
「それって勝ち目ないんじゃ……」
荒鬼
「だから緋色を連れてきてもらったんだよ」
光男
「緋色が何の役に立つんですか」
荒鬼
「くぅーっ辛辣しんらつだねぇ。光男、仲間を信じるのも仕事だぜ?」
光男
「悪いけど、僕はまだ認めてないですよ」
荒鬼
「じゃあこの任務で認めてもらうしかないな。緋色、俺たちが敵の動きを止める。その間に奴らを刀で斬ってくれ」
緋色
「分かった」
光男
「いやいや、刀なんてどこにも……」
緋色
紅炎べにほむら
光男
「なっ、事務所にあるはずの刀……召喚したのか……」
荒鬼
「ほら、驚いている暇はないぞ。緊縛式きんばくしきを開け!」
光男
「ッ……はい」
***
緋色
「はぁ……はぁ……後はこの部屋だけ……。今までとは違う感じがする……一旦戻るべきかしら」
光男
『悪いけど、僕はまだ認めてないですよ』
緋色
「……いえ、やっぱり一人で行くわ。私なら出来るはず……」
鬼八
『この俺様の力だからな』
緋色
「ッ……!?今のは……何?……ダメ、私は貴方みたいになりたくない……ッ。……たった一部屋。私なら出来るわ」
***
荒鬼
「斬られた霊の術は解けるから……後一体か。緋色、随分と頑張るなぁ」
光男
「……所詮鬼の子。強いのは当たり前ですよ」
荒鬼
「おいおい、数日とはいえ仲間だぞ?その妖怪嫌い、どうにかしろよ」
光男
「僕は妖怪に親を殺されてるんですよ。嫌いにならない理由がない」
荒鬼
「緋色は親を人間に殺されている。それでもあいつはたった一人で人間を助けているぞ。もう少し考えを改めろ。じゃないとまた孤独になるぞ」
光男
「ッ…………」
荒鬼
「それにしても、後一体の割には遅くないか?」
光男
「……奥の部屋?僕たちはまだ見に行っていないですよね」
荒鬼
「……なるほど、弱い霊がここに集まっていたのは、ボスが力を持っていたからか!」
光男
「行きましょう!もし緋色が喰われたら、僕たちじゃきっと倒せない!」
***
緋色
「ッ……攻撃が……効かない……っ。ここから出なきゃ……早く逃げなきゃっ……。あ……扉が……開かなっ……ぅあッ……」
***
光男
「この部屋かっ……」
荒鬼
「随分とすげえ妖気じゃねぇか……霊の妖怪化……こりゃ祓いきれるかどうか……」
光男
「くそ……荒鬼さん、僕、行ってきます」
荒鬼
「待て、光男!この部屋には術が……!」
***
光男
「緋色!!!」
緋色
「ぁ……光、男……」
光男
「馬鹿か!?こんな妖気ようきの部屋、一人じゃ死ぬに決まってるだろう!」
緋色
「だって……ずっと一人だったから……」
光男
「関係ない!危険なら頼るべきだ!」
緋色
「孤独なの……嫌だった……」
光男
「そんなの……!」
緋色
「一人で倒して、認めてもらいたかった……っ!」
光男
「ッ……!」
(回想)
荒鬼
「馬鹿!お前みたいな坊主が一人で倒せるわけないだろう!」
光男
「父さんも母さんも、いつだって僕を一人にした!一緒にいてくれるって約束した日、帰ったら二人とも死んでた!僕は……孤独以外の道を許されていないんだ!」
荒鬼
「お前はもう孤独じゃない!俺がいる……。これからきっと仲間も増える。だから、無茶するな……」
(回想終わり)
光男
「……お前はもう一人じゃない。僕がいる……。お前を孤独にはさせない……!」
緋色
「…………っ」
光男
「刀を借りるぞ。お前の力、信じて頼らせてもらう」
緋色
「光男…………」
光男
紅炎べにほむらよ……一刀いっとうもと、災いの根源こんげんである霊を焼尽しょうじんせよ!!喰らえ、紅蓮炎椿ぐれんえんつばき!!!」
(間)
荒鬼
「光男!緋色!……これはッ!?」
光男
「霊なら祓いました。緋色は気を失っています」
荒鬼
「……。ったく、また一人で突っ込みやがって!」
光男
「すみません……」
荒鬼
「この部屋はな、入ったら二度と外に出られなかったんだよ!」
光男
「なるほど、だから緋色はこの部屋から出られなかった……」
荒鬼
「術を見抜くまで動くな……お前そのうち死ぬぞ……」
光男
きもめいじます」
荒鬼
「今回はお前の脳筋特攻のうきんとっこうが緋色を救った。だが、次はないぞ」
光男
「申し訳ございません」
荒鬼
「だぁっ!謝んな、気色悪い!とりあえず一旦帰れ。俺はこの旅館のオーナーに説教してくる」
光男
「……ありがとうございます」
***
光男M
『あの時のあの気持ち……。何だったんだ……?緋色は鬼、妖怪だ。妖怪は僕のむべき相手。それなのに……』
緋色
「だって……ずっと一人だったから……」
光男M
『あの時の緋色の目……。その瞳に、妖怪は感情のない化け物という固定概念を壊されてしまった。あれはきっと、人の血が混ざっているから、なんて理由ではないだろう。思えば、今まで退治してきた妖怪も感情があったように思える』
緋色
「一人で倒して、認めてもらいたかった……っ!」
光男M
『こいつも、僕と同じで孤独だった……。こいつもそれが辛かった。僕に認めて欲しくて、あんな無茶を……』
光男
「すまなかった。僕は妖怪を一概に悪いものだと決めつけて、緋色の気持ちを考えていなかった。むべき相手は変わらないが、もう少し考えを改めようと思う」
荒鬼
「そりゃあいい心がけだ」
光男
「荒鬼さん!?」
荒鬼
「やっぱりあの部屋で何人か死んでたみたいだ。これから警察が調べるらしくてあんまり説教できなかった」
光男
「ど、どこから聞いてたんですか」
荒鬼
「そりゃあもう全部だよなぁ」
光男
「くっ……あんたいつか絶対呪いますからね」
荒鬼
「おぉ怖い。ま、せいぜい頑張れってこったな。ところで光男」
光男
「はい?」
荒鬼
「お前、妖怪化までしていた霊をどうやって祓ったんだ?」
光男
「どうやってって……えっと、確か緋色の刀を借りて……」
荒鬼
「何?」
光男
「えっ、駄目でした?でも、その時は体が勝手に……」
荒鬼
「……やはりこいつはあの男の……」
光男
「荒鬼さん……?」
荒鬼
「光男、緋色の刀は妖刀だ。剣術けんじゅつ心得こころえがないお前が安易あんいに使っていいものじゃない」
光男
「す、すみません」
荒鬼
「……じゃ、そろそろ寝るかぁ。今日は本当に疲れたぜ」
光男
「荒鬼さん……」
荒鬼
「お前も夜更かしするなよ。また明日な」
光男
「は、はい」
***
光男M
『緋色はまだしばらく起きてこなさそうだな……。僕もひと眠りするか』
***
荒鬼
「まずい……光男の力が覚醒しかけている。そうなれば計画は全ておじゃんだ。やはり計画の実行は明日……俺の復讐を果たさなければ」
***
緋色
「……ん…私……。隣にいるのは、光男……?朝……」
荒鬼
「おう、起きたか。早速で悪いが行くぞ。準備しろ」
緋色
「どこに行くの?」
荒鬼
「一人で任務だ。俺たちの力は邪魔になる」
緋色
「……わかった」
***
荒鬼
「ここだ。人目が多いから厄介だが、この建物に妖がいる」
緋色
「わかった。斬ってすぐ帰って来る」
荒鬼
「おう。気をつけて行けよ」
緋色
「分かってる。紅炎べにほむら……」
荒鬼
夜叉やしゃよ、今、目覚めたまえ」
緋色
「……?何を言って……っ!?」
荒鬼
「真の姿に身を堕とせ、紅蓮の夜叉ぐれんのやしゃ!」
緋色
「荒鬼……っ……嫌っ!……光男!」
***
光男
「……っ!緋色!……何だ、今……声が……」
荒鬼
「おい!光男!」
光男
「荒鬼さん!緋色は?」
荒鬼
「街のど真ん中で鬼になりやがった。何がトリガーだったのか分からねえが、理性がない」
光男
「一人で任務に行かせたんですか!」
荒鬼
「今回の妖だと俺たちの力は邪魔になると思って!」
光男
「あいつは……緋色は孤独だったんです!約束したんだ、一人にさせないって!僕が、僕たちが守ってあげなきゃ!」
***
緋色M
「嫌……あいつの言う通りになるなんて……。暴れたくない、傷つけたくない。あいつと同族になんて堕ちたくない!光男……助けて……!」
光男
「緋色!!」
緋色M
「光男……!助け……っ!ダメ!近づかないで……そうよ、今の私は……“紅蓮の夜叉”ぐれんのやしゃなんだから。あなたまで傷つけてしまう!」
光男
「緋色、僕だ、分かるか?」
緋色
「来ルナ……」
光男
「緋色、僕が悪かった。緋色が起きたのに気づいていれば」
緋色
「ニンゲン……ワタシニ……寄ルナァ!」
光男
「緋色……ダメだ、そんな妖に身を堕とすな!」
緋色
「来ルナ!」
光男
「ぐあぁっ!」
緋色
「フーッ……フーッ……」
光男
「緋色……クソ、荒鬼さん!手を貸して……」
荒鬼
「光男!どけ、心苦しいが緋色を祓う!」
光男
「緋色を……祓う!?」
荒鬼
「何をしているんだ!どけ!!」
光男
「…………っ」
荒鬼
「お前ごとやっちまうぞ!どけ!!」
光男
「……嫌です」
荒鬼
「光男!!」
光男
「僕は!……僕は、緋色を助けたい!例え貴方でも、これだけは従えない!」
荒鬼
「ふざけんな!今までだって無慈悲に殺してきただろう!」
光男
「荒鬼さん!やめ……」
荒鬼
「寄るな!俺に寄ると……」
光男
「ぐあぁ!」
荒鬼
「あーあ、ほら、こうなるだろ」
光男
「あ……ら、き……さん?」
荒鬼
「フハハハハ!!ようやくだ!!!」
光男
「どうして……僕を……」
荒鬼
「あぁ、光男……お前は本当に邪魔な存在だった、なぁ!(光男を踏む)」
光男
「グハッ……!あ……あらき、さ……」
荒鬼
「クハハハハ!お前の先祖に封印されて数百年、封印が解けた百年前からずっとこの時を待ち続けていた」
光男
「なに、を……」
荒鬼
「まだわかんねぇのか。それなら、見せてやる。俺の真の姿を!」
光男
「……ッ、姿が……変わって……」
鬼八
「俺の真の名は荒神鬼八あらがみきはち、八年前に緋色の母親を襲ったのは俺だァ」
光男
「……っ!」
鬼八
「クハハハ!光男、俺様の計画にお前は邪魔だったが、随分と利用させてもらったぜ?」
光男
「どういう……ことですか……」
鬼八
「お前の妖に対する憎悪が、俺の力を増幅ぞうふくさせていた。それに加え俺の夜叉やしゃを見つけ出し、俺の元に連れてきてくれた。沢山働いてくれて、感謝するぜェ?」
光男
「荒鬼さん……そんな、僕たちの今までは……全部虚像きょぞうだったんですか……っ!」
鬼八
「当たり前だろォ!ただでさえ邪魔なお前を有効活用してやったんだ。お荷物はそろそろ死んでもいいよなぁ?」
光男
「荒、鬼さ……」
鬼八
「ウオラァ!」
光男
「ぐあぁっ……ひ……い、ろ……」
鬼八
「クハハハハ!!!ようやくだ……ようやく俺様の復讐がようやく始まる!!!」
緋色
「グワアアアアア!」
鬼八
「うおっと!敵は俺様じゃないぜ?紅蓮の夜叉ぐれんのやしゃ
緋色
「許サナイ……」
鬼八
「まだ意識が残っているか……ふっ、だがいい!紅蓮の夜叉ぐれんのやしゃ、俺が憎いだろう。母を襲い、お前を孤独にし、光男を殺した俺が!」
緋色
「ウゥウ……」
鬼八
「さぁ、憤怒ふんぬに溺れろ!紅蓮の夜叉ぐれんのやしゃァ!!!」
緋色
「ウワアアアアアア!!!!」
鬼八
「ハハハハ!!!そうだ、怒りに沈み鬼に身を堕とせ!!どれだけ抗おうがお前はもう俺様のものだ!」
緋色
「紅炎《べにほむら》ァ!!!」
鬼八
「クハハハハ!!!そんな腐った妖刀、俺様には効かねぇよ!オラァ!!!」
緋色
「クッ……!!!」
鬼八
「ほらほら!地獄はもうすぐそこだぜェ!!!」
緋色
「ウワアアアアアアアアア!!!」
光男
「緋色!!!」
鬼八
「何ッ!?」
緋色
「ウゥッ!離セ!!離セェ!!!」
光男
憤怒ふんぬに身を奪われちゃいけない!奪う力だからこそ、人を守る為に使うんだ!!!」
鬼八
「光男、何故動ける……貴様は確実に仕留めたはず……!」
光男
「緋色、お前はもう一人じゃない!僕がずっとそばにいる!!!だから……だから、目を覚ましてくれ!緋色!!!」
鬼八
「無駄だ!こいつはもう……!」
緋色
「私ハ……私ハッ……!」
鬼八
「何ッ!憤怒ふんぬが……消えた、だと!?」
緋色
「私は間違えない。憎悪ぞうおに溺れた貴方なんかに、屈したりはしない!」
鬼八
「ほざけ!お前は夜叉やしゃ、俺様の娘だ!」
光男
「例え血がけがれていようと、緋色の想いはその血をも焼き尽くす!鬼八……お前をもう一度ほうむってやる!あの時のようにな……!」
鬼八
「チッ、やはりあいつの記憶を取り戻したか……だが、刀を持たないお前など敵ではないぞ!」
光男
「刀ならあるさ!今ここに、紅椿べにつばき!!!」
鬼八
「チッ……まさか妖刀を完成させていたとは……!関係ねぇ!積年の恨み、晴らしてくれる!邪剣じゃけん 牙嵐がらん!今度こそ死んで俺様のかてと為《な》れ!」
緋色
「私たちの想いはあなたになんか負けない!」
光男
「想いは力に比例する……憎悪の権化ごんげであるお前を、今一度斬り砕いてやる!」
鬼八
「我が身に宿りし邪気よ、今、我が剣に募りて、目下もっかの敵を討ち砕け!爆砕撃塵斬ばくさいげきじんざん!!!」
緋色
紅炎べにつばき一刀いっとうもとの鬼を斬りほふれ!冷炎寒椿れいえんかんつばき!」
鬼八
小癪こしゃくな……!」
光男
一刀いっとうもと、我が敵をことごとく討ちはらえ!くらえ……火炎落椿かえんおちつばき
鬼八
「ぐあっ……クソ、ふざけるな……俺様はただ、殺された仲間達のかたきを……!」
緋色
「悪いのは仲間を殺した人間だけ……それも分からずあなたは母を傷つけた!」
光男
「復讐は復讐しか生まない。それはあなたが一番知っているはずだ!」
鬼八
「光男、お前……」
光男
「僕は、利用されていたとしてもあなたとの日々が楽しかった!でも、もう戻れない……これでとどめだ!」
鬼八
「くっ……!」
緋色
「私たちの炎は今一つと為りて」
光男
「二刀の刀に希望を宿す!」
緋色
「炎よ……怨炎おんえんに包まれし鬼を祓い」
光男
「その魂を救いたまえ!」
緋色・光男
「「救炎紅椿きゅうえんべにつばき!(どちらか一人でも構いません)」」
鬼八
「ぐあぁああああっ!」
光男
「荒鬼さん……今までありがとうございました!」
鬼八
「……俺様は何度だって蘇る!そのかてとなるのは、人間どもの恨みつらみの声だ!!!」
光男
「……その時は、また僕が祓いましょう。あなたに習った技で、何度でも!」
***
光男
「本当に山に帰るのか?」
緋色
「えぇ、彼が消えても、山の鬼は消えないわ」
光男
「そうか……」
緋色
「でも、貴方は約束をしてくれたから」
光男
「約束?」
緋色
「一人にさせない、ずっと一緒にいるって」
光男
「あっ……」
緋色
「だから、たまには町に降りるわ。山もいいけど、貴方の隣は心地がいいもの」
光男
「緋色……」
緋色
「……それじゃあ、また」
光男
「あぁ……」
緋色
「…………」
光男
「また会おう……炎が消える前に」


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