1日15分の免疫学(90)防御機構の破綻10
DNAウイルスの免疫回避
本「次はDNAウイルスの免疫回避について」
大林「RNAウイルスと比べると変異頻度が低いから、適応免疫にとっては倒しやすい?」
本「変異頻度が低いゆえに大量のゲノムを維持できるため、ウイルスに対する防御を突破するための膨大な量の遺伝子を持つことができる」
大林「変異が少ない故に、対策が入念にできるってことか」
本「ポックスウィルスやアデノウイルス、特にヘルペスウィルスなどの大型DNAウイルスでは50%以上のゲノムが免疫回避に関連すると推定される」
大林「なんと!」
本「特にヘルペスウィルスは、ウイルス複製をほとんどしない潜伏期をのための機序を進化させている」
大林「潜伏期ってただ単に潜伏してるだけじゃないの?」
本「細胞内で潜伏しながらMHCクラスⅠ分子を誘導するウイルスペプチドが作られないので、終生感染を引き起こす」
大林「ヒィ…」
本「ヒトに感染するヘルペスウィルスは8つあり、一般的なのは5つ……単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus)の1型と2型、水痘・帯状疱疹ウィルス、サイトメガロウィルス(CMV:Cytomegalovirus)のうち、少なくとも1つに9割の人が感染していて、おおよそ生涯潜伏する」
大林「えぇえ……そんなに?」
CMV は、病理学的に「フクロウの目」(owl eye)様に感染細胞が染色されることから同定された。
本「DNAウイルスが長期生存するには、NK細胞とCTLを如何に回避するかが重要」
大林「DNAウイルスは自分が潜んでる細胞を殺されないように工夫する…ってことですね」
※NK細胞(Natural Killer cell):自然免疫応答での細胞傷害(キラー)を担うリンパ球。異常細胞をアポトーシス(細胞死)に誘導することで排除する。
※CTL(Cytotoxic T lymphocyte;細胞傷害性T細胞、CD8陽性T細胞、キラーT細胞※呼び名がいっぱい!):適応免疫応答での細胞傷害(キラー)を担うリンパ球。
※リンパ球:リンパにたくさんいるからリンパ球と名付けられた。リンパ球には大きく分類してB細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞(「第4のリンパ球」、自然リンパ球の5種類がある。
大林「DNAウイルスは、我が推しブラザーズをどうやって回避するんです?」
本「MHCクラスⅠ分子によるウイルスペプチドの提示は、CD8T細胞に感染細胞を殺せというシグナルを送る」
大林「すごい表現使ってきたな?!」
原著「The presentation of viral peptides by MHC class I molecules at a cell surface signals CD8 T cells to kill the infected cell. 」
大林「Oh...原著も同じ表現だったわ」
本「大型DNAウイルスの多くは、イムノエバシンimmunoevasinという蛋白質をつくることで免疫の認識を回避する」
大林「イムノエバシン?どんな風に機能するの?」
本「感染細胞のMHCクラスⅠ分子とウイルスペプチドの複合体の出現を阻害する」
大林「おぉ…感染細胞が感染しましたって提示するのを妨害するのか」
◆復習メモ
T細胞:自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子とペプチドの複合体を認識するので、MHC分子が発現していない対象(例:赤血球)には反応しない。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。
MHC分子:主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen)。
MHC分子は2種類あり、クラスⅠ分子はほとんどすべての細胞に発現しているが、Ⅱ分子はプロフェッショナル抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)といった限られた細胞にしか発現していない。つまり、CD4T細胞に抗原提示できるのは限られた細胞だけということ。
※NK細胞は、MHC分子が正常に発現していない細胞も殺傷する。
本「他にもウイルス蛋白質には小胞体内にMHCクラスⅠ分子を保持して細胞表面に出るのを阻止したり、MHCクラスⅠ分子を分解するものもある」
大林「うわぉ…CTLが活躍できなくなってしまう…待てよ?MHCが正常に発現しないのならNK細胞が殺してくれるのでは?」
本「そう。NK細胞の主な役割は、急性の自然免疫応答と、CTLの検知を免れようとする病原体の排除である」
大林「キャー!なんなの、CTLの弱点をNK細胞がカバー?!萌える!」
本「なので、ウイルスはNK細胞の細胞傷害作用を抑制する機序も進化させてきた」
大林「どんなの?」
本「キラー抑制性レセプターkiller inhibitory receptor:KIRや白血球抑制性レセプターleukocyte inhibitory receptor:LIRを架橋するMHCクラスⅠ分子ホモログを発現する」
大林「ホモログとは?」
ホモログ(相同体): 類似した塩基配列を持つ遺伝子など、2つ以上の生物種で似ている成分で、共通祖先に帰すると考えられるもの。
大林「うーん、よくわからないけど、ウイルスがダミー分子を感染細胞に作らせて、それでNK細胞に標的にされないようにするってことかな?」
本「ヒトCMVは、NK細胞のLIR-1に結合して、NK細胞を抑制するシグナルを出すUL18というHLAクラスⅠのホモログをつくる」
大林「ほぉ……ダミーのホモログで抑制シグナルを誘導するってことかな?」
本「NK細胞の活性化レセプターに拮抗してNK細胞エフェクター経路を阻害するウイルス産物もある」
大林「ところで、ホモログの説明はしてくれないのかい?」
本「DNAウイルスは、サイトカインやケモカイン、そしてそれらのレセプターのウイルス性ホモログを発現したり、サイトカインやレセプターに結合して機能を阻害するウイルス蛋白質を発現したりする」
大林「説明なしか……ウイルスが感染細胞の内部で色々やって、感染細胞の表面に色々発現させるってことだよね?」
本「免疫抑制性サイトカインのウイルス性ホモログの産生もある。ケモカインのおとりレセプターをつくるウイルスもある」
大林「感染細胞がまともに救援信号だせないだけでなく、色々やり放題だなウイルス」
本「レセプターシグナル伝達を妨害するケモカインホモログをつくってケモカイン応答を阻害するウイルスもある」
大林「免疫回避に役立つホモログをつくらせるゲノムをDNAウイルスがもってるってわけね」
本「CMVは、抗ウイルスCD8T細胞の疲弊を引き起こす慢性感染を促進する」
大林「その疲弊ってどういう意味?」
本「CD8T細胞はその状況で、CD28スーパーファミリーの抑制性レセプターであるprogram death-1を発現する」
大林「出たああ!PD-1!PD-L1と結合すると推しが抑制される!」
今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります
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