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1日15分の免疫学(84)防御機構の破綻④

本「次は、抗体産生それほど障害されないタイプのT細胞免疫不全症について」
大林「抗体にあまり影響がないとあうことはキラー(細胞傷害)関係かな?」

本「Ⅰ型免疫によって通常抑えられる細胞内寄生病原体…サルモネラやリステリアなどにより死に至る持続感染症が少数ながらある」
大林「Ⅰ型ということは……ILC1とNK細胞とTh1細胞か!」
※ILC…Innate Lymphoid Cell 自然リンパ球
※NK細胞…Natural killer cell ナチュラルキラー細胞
※Th1細胞…Helper T cell type 1 

◆復習メモ
T細胞:胸腺(hymus)で分化・成熟する免疫細胞。ヒト細胞表面にあるMHC分子を認識し、自己と非自己を区別することができる。
T細胞の主な種類
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞(Th1,Th2,T17,Tfhなどがある)と制御性T細胞Treg:Regulatory T cellに分かれる)
・CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞)


本「そう、通常であれば、それらがつくるIFN-γによって、感染したマクロファージが強い殺菌力を獲て制圧する」
大林「なるほどIFN-γが機能しない異常ってことね。サイトカイン遺伝子の異常も大変だ…」
◆復習メモ
サイトカイン(cytokine)
:細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。細胞間の相互作用に関与する。cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する
サイトカインの種類
①ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞の総称)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。
※本によっては、サイトカインとケモカインは別項目となっている
インターフェロン(Interferon; IFN):感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。ウイルスの細胞内増殖も抑制する(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)
③インターロイキン(Interleukin; IL)※見つかった順でナンバリング:リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。
④腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor; TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。

本「サイトカインに対する中和自己抗体を作ってしまう免疫不全症もある」大林「えぇ……?!サイトカインを無効化してしまう?」

血球貪食性リンパ組織球症について

本「細胞傷害性顆粒が作られた後はどうなる?」
大林「細胞傷害性(=キラー)細胞が、顆粒をエクソサイトーシスで標的細胞にぶちこむ!そしたら標的細胞内でアポトーシスが誘導される!」
※エクソサイトーシス…小胞膜と細胞膜を融合させ、小胞の内容物を細胞内から細胞外に放出する機構。

本「その顆粒が作られてから標的細胞に送り込まれるまで複数のステップが存在し、それを損なう遺伝性疾患がある」
大林「へぇ、武器の用意はできるのに、その後に問題があるパターンか」
本「これらの原発性免疫不全症は、血球貪食性リンパ組織球症hemophagocytic lymphohistiocytic syndrome:HLHとして知られる」
大林「顆粒を送り込むのに異常が起きるとどうなるのさ」
本「HLHは重篤で、しばしば死の転機を迎える」
大林「死ぬってコト……?」
本「CD8T細胞制御不能の活性化異常な細胞増殖をして、マクロファージと共に様々な臓器に浸潤して組織壊死多臓器不全を引き起こす」
大林「ぎゃああ!待って!?細胞傷害性顆粒をうまくぶちこめないのがどうしてそんなえらいことになっちゃうの?感染細胞を殺せないだけじゃなくて??」
本「エプスタイン・バール(EB)ウイルスなどのヘルペスウイルスによる初感染がきっかけで異常に活性化した免疫応答が起こり、細胞傷害性細胞が、感染細胞も自身も破壊できず、増殖し、IFN-γの放出も止められない」

大林「わかった!特定の病原体に特異的に反応した細胞傷害性T細胞が活性化して増える、でも変異が起きてて細胞傷害性顆粒を放出できない、細胞傷害の仕組みは同じだからNK細胞も同じ変異の影響で顆粒放出できない、活性化してるから細胞傷害性T細胞もNK細胞もどんどんIFN-γつくってマクロファージが活性化しまくる……うわぁ」
本「そしてその活性化マクロファージ赤血球白血球貪食する」
大林「地獄絵図じゃん」
本「だから最初に血球貪食性リンパ組織球症って言ったでしょ? 」
大林「こわ…」

本「HLHには複数の常染色体劣性型遺伝をとる病型があり、家族性貪食性リンパ組織球症familial hemophagocytic lymphohistiocytic:FHLと呼ばれる」
大林「家族性?」
本「FHLは細胞傷害経路に関わる分子の欠損が原因」
大林「顆粒がつくられてから、その発動の途中でトラブルか」
本「パーフォリンの欠損や、プライミング蛋白質Muncl3-4の欠損、膜融合に必須のシンタキシン11の欠損など欠損する分子によって分類される」
大林「パーフォリンだけはわかる、標的細胞の膜に穴開けるんでしょ」
本「まぁね。細胞傷害性T細胞は抗原認識すると細胞傷害性顆粒を標的細胞に向けて集積し、顆粒は微小管に沿って細胞膜へ移動し、細胞膜とドッキングして、ドッキングした小胞はMuncl13-4によりプライミングされ、膜融合が始まり、顆粒の内容物シナプス形成部位の細胞間隙に放出され、パーフォリン依存的に標的細胞の膜に小孔が形成される」
大林「あ、やっぱりわかりませんでした。分子の世界…」

本「原発性免疫不全症にはたった1つの病原体に対してのみ易感受性をもつものがある」
大林「最大の弱点がひとつあるみたいな?」
本「ヘルペスウイルスの1つであるEBウイルスに対する防御反応の欠陥が原因で起きる」
大林「出たよEBウイルス。さっきからずっとEBウイルスのターンじゃない?」
本「EBウイルスB細胞に特異的に感染して、自然に治癒する。NK細胞とNKT細胞や、特異的な細胞傷害性T細胞によって感染制御が行われる」
大林「?!待って!B細胞だけに感染するの?知らなかった~!」
WEB「リンパ球ではB細胞にのみ感染すると考えられていたEBウイルス がT細胞やNK細胞にも見出され……」
大林「おいい?!」
WEB「ヒトB細胞に in vitro で EB ウイルスを感染させる と,B細胞持続増殖(不死化)を来しリンパ芽球様 細胞株(lymphoblastoid cell line;LCL)の樹立に 至る。」
大林「ゾンビ化??!??!」

EBウイルスの基礎と感染病理 - 信州医学会

http://s-igaku.umin.jp/DATA/64_04/64_04_02.pdf


大林「推しトリオ……NK細胞、NKT細胞、細胞傷害性T細胞でも完全には排除できないんだよね」
本「B細胞内に潜伏感染して維持される」

本「ある種の免疫不全では、重篤なEBウイルス感染症(重症型伝染性単核球症)となる」
大林「どんなことになるの?」
本「EBウイルスに感染したB細胞細胞傷害性T細胞無制限に増殖して低γグロブリン血症(血中免疫グロブリンの低下)が起き、致死的非ホジキンB細胞リンパ腫を発症することもある」
大林「非ホジキンリンパ腫?」
WEB「日本人の悪性リンパ腫の90%以上を占めるのが、非ホジキンリンパ腫
WEB「ホジキンリンパ腫は、リンパ球のがんである悪性リンパ腫の種類の1つで、白血球の中のリンパ球ががん化する病気です。 日本で発生する悪性リンパ腫全体のおよそ5%を占めます。」

大林「白血球のがん化がホジキンリンパ腫で、そうじゃないのが非ホジキンリンパ腫ってことか。では、ホジキンとは?なんか鼻ほじり王みたいな」
WEB「ホジキンリンパ腫腫瘍本体は病理組織学的に特徴的な形態を有するHodgkin and Reed-Sternberg (HRS)細胞であり、これはB細胞起源のクローナルナな増殖である」
大林「おぉ~そうなのか!というかB細胞だったんかい!」

本「こういった症状はX連鎖リンパ増殖症候群X-linked lymphoproliferative syndrome:XLPで見られる」
大林「その名の由来は?」
本「XLPの原因として知られる遺伝子は2つともX連鎖遺伝子だから」
大林「2つあるのか」
本「1つはSAP(SLAM関連蛋白質signaling lymphocyte activation molecule-associated protein)をコードするSH2D1A遺伝子(SH2 domain-containing gene 1A)」
大林「長すぎてつらい、とりあえずSAPをコードする遺伝子と丸暗記する」
本「もう1つはXIAP(X-linked inhibitor of apoptosis)遺伝子」
大林「XIAPってどう読むんだろ、アルファベット読みかな?」
本「XLPの約8割SAP欠損で、XLPタイプ1と呼ばれる」
大林「SAPが欠損するとどうなる?」
本「T細胞、NKT細胞、NK細胞がFynに会合できなくなる」
大林「ふぅん?なんだそれ」
WEB「Fyn は、 細胞内アダプタータンパク質でありアミロイド前駆タンパク質(APP) やapoE 受容体2(apoEr2) と相互作用するDab1 をリン酸化することが示されている」
大林「わからんな」
本「SLAMファミリー分子は、T細胞と抗原提示細胞や、NK細胞と標的細胞相互作用を調節する」
大林「うわ!それは大変だ!欠損したら免疫応答できないじゃん!」
本「SAP欠損は、NKT細胞も欠損する。SAPはNKT細胞の分化に必須」
大林「いやあああ!!!最推しが欠損とか辛すぎる!!!」
本「症状は、EBウイルスに反応した細胞傷害性T細胞とNK細胞が制御不能の増殖を起こし…」
大林「マクロファージが活性化して炎症が進むわけですね!血球貪食もしちゃう?!」
本「全身性のね」
大林「おぉわわ」
本「Tfh細胞とB細胞相互作用もSLAMシグナルの欠損で、」
大林「T細胞依存的な抗体産生ができなくなるのか!」
本「そう。だから低γグロブリン血症となる」

今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります

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