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1日10分の免疫学(69)がんと免疫①

第17章 がんと免疫系の相互作用

大林「相互作用……?」
本「がんは、浸潤性をもつ異常な細胞増殖により生命に危険を及ぼす多種多様な疾患の総称。先進国の死因の20%を占め、がん患者の多くは高齢者である」
大林「やはり免疫系の老化が大きいのかな」
◆メモ
Immunosenescence 免疫老化
https://www.jcancer.org/v10p3021.htm

本「正常細胞の内部機構が、破綻もしくは再編成されるという点で、がん細胞ウイルス感染細胞似ている
大林「ウイルス感染が原因のがんもあるよね」

がんが発生する過程について

本「細胞は分裂増殖して身体を維持している」
大林「必要に応じて分裂増殖してるんだよね」

本「DNAの変化変異mutationと呼ばれ、ヌクレオチドの置換substitution、挿入insertion、欠失deletionや異なる遺伝子との組換え、染色体の再編成などがある」
大林「他の本で読んだけどいまいち変異のメカニズムがわからんのよな」

本「卵や精子といった生殖細胞の変異は、種の多様性や進化をもたらす。子供の生殖細胞系列の細胞には両親のゲノムに存在しない変異が平均60個ある」
大林「そんなに?だから案外親に似てないとかがあるのかな」
本「他方、体細胞の変異はその個体でのみ影響がある」
大林「生殖細胞の変異と体細胞の変異は影響範囲がずいぶん異なるわけね」
本「ほとんどの体細胞変異はその1個の細胞の中で生じることなので気づかれない」
大林「気づかれるレベルに達したのが、がん……」
本「細胞の分裂や生死を制御する機能を破綻させる変異が起きると、変異細胞は増え続ける細胞集団となり、身体の生理や臓器の機能を破綻させる」

本「腫瘍tumor"腫れ上がり"、新生物neoplasm"新たな成長"は、細胞が異常に増殖している組織のことを指す。腫瘍学oncologyのoncoはギリシャ語のogkos"腫れ上がり"が語源である」
大林「オンコロジーか、それは前の職場でよく耳にした」

本「良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは?」
大林「良性はちょっと膨らんでるだけ、悪性は他の組織へと浸潤する」
本「良性腫瘍benign tumorは皮膜に囲まれ局所的で大きさも限られている。悪性腫瘍malignant tumorは基底膜を破って規模の組織へ浸潤し、際限なく大きくなる。がんcancerは、カニ(ラテン語cancer)の手足のような不吉な広がりから名付けられた」
大林「つまり、悪性腫瘍=がん。良性はがんじゃない。あと、日本語の『がん』の由来は確か、触ると硬くて、そして大きくなるから『嵒(いわrock)』で、病気だからヤマイダレが合体して『癌』」

がんの分類

本「上皮細胞に由来するのがんは、がん腫carcinomaカルチノーマ、その他の細胞に由来するがんは肉腫sarcomaサルコーマと呼ばれる」
大林「そういう呼び分けだったのか。病態的にはどう違うんだろ……」

本「免疫系の循環細胞であれば白血病leukemia、固形リンパ組織の腫瘍はリンパ腫lymphoma、骨髄細胞のがんは骨髄腫myelomaと呼ばれる」
大林「リンフォーマとミエローマはよく耳にするなぁ」

悪性転換を引き起こす遺伝子は二分類される

本「ある細胞ががんを形成する能力を持つことを、悪性転換malignant transformationしたという」
大林「悪性に転換……悪役に転変?」
本「悪性転換引き起こす遺伝子は2種類に分けられる」
大林「二種類?」
本「まず、がん原遺伝子proto-oncogene。正常な細胞分裂機構の一翼を担っている遺伝子群で、100個以上ある。悪性転換で生じるがん原遺伝子の変異型はがん遺伝子oncogeneと呼ばれる」
大林「がんの異常増殖する能力の遺伝子かぁ」

本「もうひとつはがん抑制遺伝子tumor suppressor gene。変異細胞の異常増殖を抑制するタンパク質をコードしている」
大林「異常を止める役割を担う遺伝子か。p53タンパク質の遺伝子とか?」
本「p53はDNAの損傷応答して発現し、遺伝子損傷した細胞をアポトーシスさせる」

本「ヒトのがんで見られる変異のうち、p53遺伝子の欠損やその防御機能を防ぐような変異が最も多い……がん患者の50%以上p53の変異が存在する」
大林「p53がめっちゃ重要ってことかな?」

細胞を形質転換させるウイルス

本「細胞の形質を転換させるウィルスがあり、ヒトのがんの約15%が関係している。腫瘍ウイルスoncogenic virusという」
大林「ヒトパピローマウイルスとか有名だよね」
本「腫瘍ウイルスは宿主細胞に慢性感染して、正常な細胞分裂制御機構を妨害する」
大林「そして宿主細胞(感染細胞)は際限なく増殖するようになる…」

本「エプスタイン・バーウイルスはB細胞に細胞分裂するよう誘導する。感染細胞が排除されないと増殖し続けて形質転換する」
大林「ん?ウイルスの影響で増殖し始めても、まだその段階では形質転換してないってことかな。そもそも形質転換の定義は?」
Wiki「形質転換Transformationとは、分子生物学において、細胞外部からDNA を導入し、その遺伝的性質を変えること」
大林「ん?全然違う?」
Wiki「transformation には、正常細胞が無制限に分裂を行うようになる(=がん化の意味(悪性形質転換)の意味を含む。混同を避けるため、動物細胞への遺伝子導入はトランスフェクション(英:transfection)が通常使用される……」
大林「あー、形質転換と書いているけど、正確には悪性形質転換ってことね。さっき言ってた悪性転換malignant transformationのことか。用語を統一してくれ~初心者が惑う」


本「ウィルスの慢性感染により、組織損傷を修復するための細胞分裂が促進され、結果として変異の蓄積を早めてがんを誘発する」
大林「えぇ……ウイルス感染に対する修復が裏目に出るってこと?」
本「B型肝炎ウイルスの感染による肝がんが一例である」

がん細胞の7つの特徴

本「がん細胞には7つの特徴がある」
大林「7つですか……」
本「①自己増殖を刺激②他の細胞からの増殖抑制シグナルを無視③アポトーシス回避④血液供給を増大させる(血管新生)⑤他の組織へ浸潤⑥増殖⑦免疫回避」
大林「おっ、免疫登場!」

がんと免疫監視

本「免疫不全患者免疫系の重要な分子を欠損する人はがんを発生しやすい。腫瘍に対する適応免疫応答の程度はがん患者の生存率と直接相関する。体内のがんを監視する免疫系の機能免疫監視immunosurveillance、がん免疫監視cancer immunosurveillanceと呼ぶ」
大林「それ聞いた事ある!何年も前に雑誌で、免疫監視を否定する論文も見てびっくりしたけど……」
本「がんの予防に対する免疫監視については何十年も論議されてきたが、マウスやヒトの情報が蓄積されて現在では支持されている」

本「悪性転換をしたがん細胞はタンパク質の発現パターンが変化し、非自己と認識されるようになる」
大林「なるほど、悪性転換したことでタンパク質の発現パターンも変わるわけだ」
本「特にNK細胞細胞傷害性T細胞認識するMHCクラスⅠ分子の発現が変化する」
大林「推しきた!排除するかどうかを細胞表面に出てるタンパク質で判断されるというのは、ウイルス感染細胞がん細胞も同じってわけか」

今回はここまで!

免疫細胞の世界をファンタジー風に漫画にしています↓


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