見出し画像

1日15分の免疫学(83)防御機構の破綻③

本「高IgM症候群で最も多いのは、X染色体上のCD40リガンド(CD154)遺伝子の変異が原因のX連鎖症候群X-linked hyper syndrome;CD40リガンド欠損症CD40 ligand deficiency」
リガンドligand:特定のタンパク質と特異的に結合する比較的低分子の化合物。生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質のことを指す。
CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

大林「CD40!…どんな機能でしたっけ?」
本「CD40抗原提示細胞(B細胞、樹状細胞、マクロファージ)の表面にあり、活性化T細胞に発現したCD40リガンドが架橋する」
大林「T細胞に情報とシグナルを伝達するんですね、大事なやつや…」

本「CD40リガンドが欠損してもB細胞自体は正常だが…」
大林「T細胞がB細胞に架橋できないからアイソタイプのクラススイッチができない!だからIgMしかできない、高IgMになる……」
※架橋:化学的共有結合により複数分子を連結させるプロセス

https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/protein-biology/protein-biology-learning-center/protein-biology-resource-library/pierce-protein-methods/chemistry-crosslinking.html

◆復習メモ
B細胞は特異抗原を提示し、その特異抗原担当のTfh細胞(濾胞性ヘルパーT細胞)と架橋して相互作用することで免疫グロブリンのアイソタイプをクラススイッチし、抗体産生に特化した形質細胞に分化して、抗体を大量に産生する。

本「CD40シグナルは、マクロファージ樹状細胞を活性化してIL-12をつくらせる」
大林「IL-12って超大事じゃん!」
※IL-12:NK細胞を活性化する。NK細胞が作るIFN-γと共にナイーブT細胞をTh1細胞へと分化誘導する。
◆復習メモ
T細胞:胸腺(hymus)で分化・成熟する免疫細胞。ヒト細胞表面にあるMHC分子を認識し、自己と非自己を区別することができる。

T細胞の主な種類
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞(Th1,Th2,T17,Tfhなどがある)と制御性T細胞Treg:Regulatory T cellに分かれる)
・CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞)

◆復習メモ
サイトカイン(cytokine)
:細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。細胞間の相互作用に関与する。cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する
サイトカインの種類
①ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞の総称)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。
※本によっては、サイトカインとケモカインは別項目となっている
②インターフェロン(Interferon; IFN):感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。ウイルスの細胞内増殖も抑制する(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)
インターロイキン(Interleukin; IL)※見つかった順でナンバリング:リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。
④腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor; TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。


本「IL-12は、Th1細胞NK細胞IFN-γをつくるのに不可欠」
大林「IFN-γってマクロファージを活性化するよね……それが欠けるということは細胞性免疫もダメになる…」
※細胞性免疫:食細胞(好中球、マクロファージ等)やキラー細胞(NK細胞、細胞傷害性T細胞、NKT細胞等)による免疫系。⇔液性免疫’(抗体がメイン)

マクロファージは好中球を呼ぶ、NK細胞と活性化しあう


本「そう。CD40リガンド欠損症ではTh1タイプの免疫応答障害される。特徴的なのは、健康人では活性化マクロファージが排除するニューモシスチス・イロヴェツィイによる日和見感染を起こしやすい」
大林「出た!長い名前のやつ!」
※ニューモシスチス・イロベチイとも表記される


本「別の遺伝子の欠損でも非常に似た症候群になるものがある」
大林「ほう」
本「1つはCD40をコードする遺伝子の変異で、もう1つはNEMO欠損症NEMO deficiency」
大林「NEMO? 」
本「NEMO蛋白質をコードする遺伝子の変異が原因なので。NEMO蛋白質は、CD40シグナルの下流で転写因子NFκB活性化を誘導するシグナル伝達系の必須構成成分
大林「ほぉ……よくわからんな、エヌエフカッパビーとは?」
NFκB(核内因子κB、nuclear factor-kappa B):転写因子として働くタンパク質複合体。動物のほとんど全ての細胞に発現している。ストレスサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される。
免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。


本「NFκBシグナル経路は、免疫系以外でも多くの役割をもつので、皮膚異常などの免疫系以外の症状もみられる」
大林「ほぉ」
本「抗体欠損が主症状の免疫不全症に、分類不能型免疫不全症common variable immnodeficiency:CVIDがある」
大林「分類不能がcommon?訳し方微妙じゃない?」
本「CVIDは原発性免疫不全症の中で最も頻度が高く、臨床的にも遺伝学的にも不均一な免疫不全疾患からなる症候群」
大林「あぁ…だからvariableなのかな」
本「免疫不全の程度が比較的穏やかなので、患者のほとんどは成人期になってから診断される。最も多いのはIgA欠損症で、ほとんどが原因不明の無症候性」
大林「無症候性?」
※無症候性:病気を有しているが症状がない状態のこと。

大林「えぇ……感染症は、病原体が体内に入って細胞に感染したからって感染症とは呼ばず、一定以上のバランスが崩れた時点で感染症って呼ぶけど、これは感染症の定義の話であって、無症候性とは、病気はあるけど症状がないという定義の話か。法学の『定義』訓練が免疫学で役立つとは」

本「高IgE症候群hyper IgE syndrome:HIES、別名ヨブ症候群Job's syndromeの特徴は、皮膚と肺の化膿性細菌による反復感染と慢性皮膚粘膜カンジダ症、著しい血中IgE上昇、慢性湿疹性皮膚炎と皮疹」
ルー大林「ハイパーなIgEのシンドロームね」

本「HIESの常染色体優勢型では、転写因子STAT3の先天的な異常が原因」
大林「STAT3ってなんだっけ?」
◆復習メモ
STAT(signal transduction and activator of transcription):インターフェロンやインターロイキンなどのサイトカインにより活性化される転写因子であり,現在までにSTAT1~6までのメンバーが知られている。
分子内にSHドメインをもっており、それによって受容体のチロシンリン酸に結合し、JAKでリン酸エステル化されるタンパク質。サイトカインの受容体

大林「STATは受容体であり転写因子である……。つまり、STATはサイトカインを受け取って、特定の遺伝子を発現させるということか。」
※転写因子:DNAに特異的に結合するタンパク質の一群。遺伝子の発現を制御するタンパク質。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%A2%E5%86%99%E5%9B%A0%E5%AD%90

本「STAT3は、Th17細胞の分化ILC3の活性化に重要なIL-6,IL-22,IL-23などのサイトカインレセプターの下流で活性化される」
※ILC…Innate Lymphoid Cell 自然リンパ球

大林「待って、下流ってどういう意味?」
WEB「下流シグナルは、生体におけるシグナル伝達の流れの中で、シグナルを受け取る側」

本「IL-6,IL-22によって活性化されるSTAT3シグナルは、皮膚上皮細胞の抗菌耐性や粘膜防御の増強に重要」
大林「つまり、HIESの常染色体優勢型では、上皮細胞や粘膜の防御が弱いってことかな?」

本「常染色体優位型のHIESでは、Th17細胞の分化が障害され、好中球の集積が起きず、上皮細胞に抗微生物ペプチドをつくらせるIL-22の産生も障害されている」
大林「そうか、炎症担当のTh17細胞がいないと好中球も集まらないのか」
本「IgEが上昇するのはTh17細胞の欠損により、Th2反応が異常に亢進されることが原因かもしれない」
大林「なるほど。STAT3が異常だから、Th17細胞が欠損する。それで、失われた機能をカバーするために推し(Th2)ががんばってIgEをたくさんつくらせたのかな……ほろり」

今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?