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改正民法のお勉強(1)さいしょのとこ

去る2020年4月1日、
条文数が千を超える大法典「民法」大改正が施行されてしまいました。

そんな……嘘だろ、
せっかく勉強してきた(けど全然わかってない)のに!

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改正前の民法を理解する前に改正されてしまったんですよ?!
改正前の民法を理解していることを前提に書かれた改正民法解説本がすんなり読めるわけない!!!!うぎゃああああああ

というわけで「基礎免疫学」と並行に、「改正民法」も公開型自主勉を決行することとなりました。
私は本当に民法苦手ですので、コメント欄で助けてくれる人熱烈歓迎です。
(我スペック:旧司法試験択一模試民法最低点3民法クソ雑魚キング
それではさっそく本論へ!

民法大改正、まず最初のとこが変わりました。

§ 3条の2が爆誕

第3条に枝番が生えて「第3条の2」が爆誕!
そして、この「第3条の2」のためだけに「第2節 意思能力」というお部屋が用意されました。

第1編 総則
 第1章 通則
 第2章 人 
  第1節 権利能力
  第2節 意思能力←NEW!!!!

第1節「権利能力」、第2節「行為能力」だった時代はもう終わった!
これからの民法は、 

第1節 権利能力(3条のみ)
第2節 意思能力(3条の2のみ)←NEW!!!!
第3節 行為能力
第4…

ほんと今までさぁ、基本書には「権利能力、意思能力、行為能力」って書いてるのに、条文見たら権利能力と行為能力しかないじゃん?わけわからんってずっと思ってた。
そしたら今回の改正で明文化されたっぽい。

ここに3つの能力があるじゃろ?
ややこしいから嫌いなんじゃ

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さて、真新しい条文を読んでみようかね……

第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

今までこの条文がなくても、判例通説で「意思能力ないときにした法律行為は無効」とされてきた。
だってほら、たとえば「意思能力のない状態でした意思表示」ってなんだ?意思能力って多分、意思表示する能力だろ、意思能力ない状態なら意思表示できるわけないじゃん!それくらい私にもわかるぞ!

そして、ややこしいことに、この無効は「相対的無効」で、意思無能力者側からしか無効を主張できない、取消に近い無効と言われてきた。

法学部1年の春にこの説明を班別勉強会で聞いた時「呪文かな?」って思いましたよ。意味わからん。

理解のポイントは「意思無能力者の保護」。

意思無能力者が「無効にしたい」と言うなら無効にしてやれ、それで十分だろう……という考え方。
「無効」は「絶対的(全人類対象)」ではなく、「相対的(相手による)」にとどめていたわけだ。

これは「目的の範囲内でのみ有効」という考え方で、法律の世界ではちょいちょい使われるから覚えておきたい。

そんで、この新条文(3条の2)を作るとき、この「相対的無効」をどう条文に盛り込むんだって話になったらしく。

今までの解釈をそのまま取り込んで「意思表示した者が取り消したいなら取り消せる」にすると、「取り消せるけどまともに取消権を行使できる者が存在しない期間(成年後見人とか選任されるまでの空白期間)」が生じうる……じゃあ、すっきりと「無効」にしましょう!と。

やったね、相対的無効とか意味不明な奴が消えたぞ!!!!

というわけで、今後の「意思無能力者の法律行為」については、

・意思無能力だから無効!(3条の2)
・制限行為能力者だから取り消しうる!(9条)

という2つの保護が用意されたことになるってさ。どっちがどう実務的に使いやすい・戦いやすいのかは知らん。教えて実務を知る御方。

§ 4条 成人年齢が18歳に

第4条も変わったけど、
これは簡単!「年齢18歳をもって、成年とする」になった。
成人年齢が20歳から18歳に変わっただけ。
この改正が施行されるのは再来年の春。それまでに色んな法制度を「18歳成年」に調整するらしい。がんばれ~(棒読み)

§ 13条(&102条)、20条が改正

「保佐人の同意を要する行為等」 を定めた13条の1項に「10号」が追加された。
 (※条文の紹介は、読みやすさ重視で改行しています。赤文字は私の呟き)

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これは102条が改正されたことで追加したんだってさ!
102条って何だっけ、改正前のも覚えてないわ。

(代理人の行為能力) 
旧102条 代理人は、行為能力者であることを要しない

あ~、あったあった、択一対策で覚えた。
制限行為能力制度の『目的』が「制限行為能力者を保護すること」だから、こんな風に規定していたらしい。 
代理人の行為の効果本人に帰属するから、制限行為能力者が代理人をしても、制限行為能力者自身に特に不利益はふりかからないので……って。
なんか回りくどいというか、はぁ、それで?って感じの条文だから記憶から消えてたわ。

じゃあ、新102条を読んでみましょうかね…

新102条 
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

おっ、ちょっとわかりやすくなった………?
「行為能力者であることを要しない」よりも「制限行為能力者が代理人としてした行為については、制限行為能力制度の取消(9条)は使えないぞ」ってことだよね。
但書が「法定代理人の場合は例外(9条の取消OK)」って書いてるから、これを裏から読めば、本文は「任意代理人」についての話で、自分で任意に「制限行為能力者」を代理人に選んだ以上は「制限行為能力制度の取消」なんて使わせるかボケェって話

よし、確認は終了したから13条に戻ろう。
このたびの改正で13条1項「10号」が追加された。 

内容は、「被保佐人が保佐人の同意を得ないで法定代理人として1~9号の行為をしたら取消権者が取消ができる」ということ。

保佐を受けるような人が法定代理人になる場合……たとえば、被保佐人が未成年者の親とか。

§ 20条もちょっと変わった

20条がマイナーチェンジ。制限行為能力者の定義(下記の太字の部分)が13条1項10号に移動しただけ。

旧20条
 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、…略…

新20条
 制限行為能力者の相手方は、…略…

20条「あれ、俺のカッコ内の定義はどこへ行った?」
13条「俺の1項10号にいるぜ…」

§ 86条は3項が消えた!無記名債権よ、さらば

はい、次、いっきに飛んで86条!3項が消えました!

旧86条
1項 土地及びその定着物は、不動産とする。
2項 不動産以外の物は、すべて動産とする。
3項 無記名債権は、動産とみなす。←削除!!!!!

86条の3項「無記名債権は動産とみなす。」を削除!
関連して473条も削除!

(無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
473条
 前条の規定は、無記名債権について準用する。←削除!!!!

理由は、新しく作られた520条の20!
520条の20
 第2款(記名式所持人払証券)の規定は、無記名証券について準用する。

第3編 債権総論 第1章総則に「第7節 有価証券」を新設して、「第4款 無記名証券」に、この520条の20が爆誕しました。

つまり、「無記名債権は動産とみなす」時代は終わった。
エェン……せっかく覚えたのに。
そして、「無記名債権」は「無記名証券」に変わった。
エェン……微妙な変化で絶対間違えるわ。

§ 公序良俗90条も変わった!


民法が苦手でも知ってる公序良俗!
90条も少し変わりました!「無効」とする範囲が拡大! 

旧「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為」 
新「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為」

……若干、言葉遊びみたいな感じがしなくもないけど、字面的に範囲が広くなった気はする。実務上の取り扱いはあんまり変わらないらしい。

§93条心裡留保も変わりました!

「嘘臭(93)い心裡留保」と覚えてきた93条も少し変わった!

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旧「相手方が表意者の『真意』を知り…」
新「相手方がその意思表示が表意者の『真意ではないこと』を知り…」

「真意の内容」を知ってるかどうかではなく、「真意ではないこと」を知ってるかどうかにしたから、認められやすくなった感じ。
改正民法の方が、現段階ではわかりやすくなって好印象だ!

そして、93条に2項が追加された。
待望の「心裡留保の第三者保護規定」!
「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」
ヤッタァ!これで民法特有の類推適用※が一つ消えたぞ!
苦手だったのヨ~!!!!
(※民法以外にも類推適用あるかもしれんけど。私の専攻は「刑法」であり、刑法に類推適用なんてものはない!)

§ 錯誤の95条、激変!


「錯誤(さ95)」と覚えてきた95条も激変!!! 

旧95条の択一対策は結構万全だった(丸暗記していた)のに…… 

旧95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 (BGM:蛍の光)

では新95条を読んでみましょうかね……

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長ッ……!!!!!
なんという長さ!新95条、おそるべし!改正法作った人間はボブだな! 
「ね、簡単でしょ?」 簡単じゃねぇよ!

落ち着いて、着実に読んでみよう…… 
新しい95条は1項で、「錯誤」には「表示内容の錯誤」と「動機の錯誤」があるとハッキリ定めた(「法律行為の基礎」というワードも重要!)。

そして、2項で「動機の錯誤は表示が必要」であることをきちんと定めた。

あと、「錯誤は無効」ではなく「錯誤は取消」になった。
だって判例で「相対的無効」みたいな扱いしてきたから……実際、取消じゃん!ということで。

「相対的無効」って、さっき書いた気がする。。。

ニューフェイスの「3条の2」も「相対的無効」として扱ってきたけど、今回の改正で「取消」ではなく「無効」にした。
変更の理由は同じじゃないけど、無効って書いてるのに「相対的無効」として扱うとかそんなややこしいことすんなよ!って思ってきたのが2つ解決した。ヤッタネ!

やだ……まだ3項がある。
重過失のある表意者には錯誤の主張を許さない……これは改正前の95条ただし書を維持しただけか。保護に値する正当な信頼が必要ってことくらいは分かる。
3項の1号・2号は「保護に値する正当な信頼がない」ケースを書いてくれてる。
(1)相手方が表意者の錯誤について悪意又は重過失がある場合
(2)共通錯誤の場合

今までは、裁判で表意者の重過失の有無がわりと争点となってたらしいけど、これからは表意者と相手方の重過失の有無が争点になるかもって本に書いてる。

4項は、錯誤の第三者保護規定。96条3項を類推しなくてもいいんだ……嬉しい!(改正法施行前の意思表示は改正前の条文が適用されるけど)

はぁ……錯誤の条文長くなったなぁ……もう条文リボンで95条は作れないな……手持ちの機械では文字数限界。

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§ 詐欺の96条も変わった!


96条も変わった……なんだよ、債権法改正って聞いてたのに総則もガッツリ変わってるじゃねぇか、泣いちゃうぞ。
第三者による詐欺」についての2項と3項が地味に変わってる。 

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まず2項、第三者の詐欺による意思表示を取り消すことができるのは……

旧「相手方がその事実を知っていたとき」
「相手方がその事実を知り、又は知ることができたとき

なんか長くなったな???

旧:相手方が知っていた→取り消すことができる
新:相手方が知ってたor過失により知らなかった→取り消すことができる

【詐欺で意思表示しちゃった人】の保護
      VS.
【その意思表示を信じて取引した相手方】の保護 

改正でこの戦いが変わった!
相手方にハンデが追加された!!!これは大きい~!!!
あとこれ絶対にテストに出るやつ~~~~~~~!!!!!

次、3項。詐欺による意思表示の取消と、第三者について!
(2項の第三者とは別モノ……ややこしい)

2項の登場人物:本人⇔相手方、詐欺をした第三者
3項の登場人物:本人⇔相手方(=詐欺をした奴)、第三者


旧「…取消しは、善意の第三者に対抗することができない。」
新「…取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」
今回の改正で、詐欺の被害者の保護が強化された。
これも絶対にテストに出るやつ~~~~~~!!!!!!

保護される要件が「善意」か「善意無過失」か…これは一応、バランス問題で決まっているらしい。
詐欺の被害者にも「少しは」落ち度があるということで……

<イメージ図>
心裡留保した人■■■■ vs. 第三者(善意ならば保護される)
詐欺に遭った人■□□□ vs. 第三者(善意無過失ならば保護される)
強迫に遭った人□□□□ vs. 第三者(保護されない)

§ 隔地者が消えた!97条改正!

97条も一部を変更した 

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隔地者対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」
新「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」

はい!隔地者消えた!インターネット等が発達したこの現代!隔地者は民法から消えました!サヨナラ隔地者!
旧条文では隔地者について「到達主義」を採用していたが、隔地者に限定する理由ってないんだよね、みんな「到達主義」でいい。

「到達」とは実際どういう状態か……?
メールが届いた時かメール開封した時か?※
という話は、今回の改正で条文に具体的に書くのは回避したらしい。今後どんな連絡手段が登場するのかも予測できないし。解釈の余地を残すのも大事。 (※「現実に了知し得る時」か「現実に了知した時」か……前者とする判例がある。最判S43.12.17民集22巻13号2998ページなど)

新しい2項もできた。これは判例を取り込んで条文になったモノ。 

「97条2項 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」
(最判H10.6.11民集52巻4号1034ページ)

3項は、元2項が繰り下がったもので、一部変更。
まず「隔地者」が消えたのと、次に、意思表示発信後の事情変化があっても効果変わらないぞ~というケースに「死亡」だけでなく「意思能力を喪失」も加えた。
あと、「行為能力を喪失した」を「行為能力の制限を受けたとき」に変更した。この変更は、成年後見だけでなく補佐・補助が開始した場合も含むということをハッキリ示すためにやったとのこと。

§ おまけ「とき」と「時」の使い分け

「とき」はcase、場合。「時」はtiming、時点。

§ 98条の2も変わったよ

ちょっと色々変わり過ぎて、勉強していくそばから知識が定着することなく抜けていく……
民法改正が右から左へ、インド人は右へ。

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旧「…意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは」
新「…意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは」

前は制限行為能力者のうち未成年と成年被後見人に「意思表示の受取能力」はないとして保護していたが、ここに「意思無能力者」も保護対象に加えただけ。
だけ、なんだけどこれも絶対テストに出るやつ~~~~!!!!

§ おまけ「又は」「若しくは」

98条の2に保護対象が追加されたことで「…又は…」が「…又は…若しくは」になったのでこれも確認しておきたい。

「又は」と「若しくは」 → or
「並びに」と「及び」  → and

「又は」は大きな括り、「若しくは」は小さな括りで、
「並びに」は大きな括り、「及び」は小さな括り。

例を出すと……
「ネギ 若しくは キャベツ 又は 牛 若しくは 馬」
「ネギ 及び キャベツ 並びに 牛 及び 馬」

私はどっちがどっちか覚えられないので、 小さい括りの方を「及び腰の若者」と覚えてる。でもこんな変な覚え方はおススメしない!ガハハ

今回はここまで!やっべぇな、最初のとこだけでnoteが6600字超えてる…

次回は100条以降の改正をお勉強します!

★法律擬人化漫画も描いてます!よろしければどうぞ!↓


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