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1日15分の免疫学(70)自然免疫と適応免疫11

メモリーリンパ球によるナイーブリンパ球の抑制

本「免疫応答引き起こした抗原が除去され、適応免疫応答の維持に必要な量を下回ると、ほとんどのエフェクターT細胞は死滅する」
大林「推しが死ぬ……!」
本「でもメモリー細胞は残るよ」
大林「同じ抗原が再び現れたときに備えて……」

本「ちなみに残ったメモリーリンパ球抗体は、再び同じ抗原が現れた場合、ナイーブB細胞、ナイーブT細胞の活性化を抑制する」
大林「え?!なんで?素人は黙ってろ的な?」
本「この働きは、未感作のレシピエントに抗体を移入することでB細胞応答を抑えるのに臨床で使われているよ」
※レシピエント…移植を受ける患者のこと
大林「へぇ、つまり、移植を受ける予定の患者さんに予め特定の抗原に対する抗体を入れておくことで、その抗原に出会ったときにその患者さんのナイーブB細胞が免疫応答しようとするのを抑制するってことか」

本「たとえばRh-の母親がRh+の胎児に対して免疫反応を起こす新生児溶血性疾患を予防するのに使われている」
Web「Rhマイナスである母体の免疫系がRhプラスの胎児の赤血球を異物として認識し、胎児の赤血球の表面にあるRh因子に対する抗体を作り出す可能性があります(この過程をRh感作といいます)」

大林「胎児でつくられるRh+赤血球に、Rh-の母親の免疫が出会う前に、Rh+の抗体を移入することで、新規に反応するナイーブB細胞を抑え込める、と。でもどうやって抑え込んでるのさ?」
本「おそらく、抗Rh抗体が過剰にあることによって、母親の体内に胎児の赤血球が入ってもすぐに除去され、母親のB細胞を活性化させるほどの免疫複合体が作られないから…と考えられる」
大林「なるほど。抗体ナイーブB細胞抑制的に働く仕組みはなんとなくわかった。ではメモリー細胞が抑制するっていうのは?」
本「それはメモリー細胞の方が、抗原に対する反応性がナイーブ細胞より遥かに高いから」
大林「あ、そういうことか。パイの取り合いね」
本「だから抗体で除去されなかった少量の抗原があっても、メモリー細胞のより早い活性化で除去される」
大林「つまりナイーブ細胞の出る幕がないわけだ」
本「このような機構は抗原原罪original antigenic sinと呼ばれる現象の説明がつくかもしれない」
大林「出たー!抗原原罪!気になってたんですよ、詳しく教えて!」

抗原原罪について

本「抗原原罪とは、ヒトがインフルエンザウイルスに感染したときに、最初に遭遇したウィルス変異株に発現するエピトープに対してのみ抗体を作りやすく、それ以降に感染した変異株がより高い抗原性のエピトープを発現していても反応できなくなっている状態を表す用語である」
エピトープ(抗原決定基)……抗原にある相補的な抗体が特異的に結合する小さな部位。通常、抗原の表面にある1~6個の単糖または5~8個のアミノ酸残基で構成されている。

大林「なるほど。最初の感染で作られた抗体が、他のエピトープに特異的なナイーブB細胞の応答を妨げてる……単純な例えにすると、エピトープ乙に結合した方が抗原の排除には有利なのに、先に作られた『エピトープ甲に結合する抗体』が優先してしまうから、エピトープ乙に結合する抗体がつくられる機会を喪失する……」
本「そう。だから最初の感染で存在したエピトープをすべて欠損したウイルスに感染しない限り抗原原罪は続く」
大林「抗原原罪はB細胞だけ?」
本「いや、例えばデングウイルス感染では抗原特異的なメモリーT細胞によりナイーブT細胞の応答が抑制される」
大林「オゥ…」
本「ただ、抗原原罪による抑制はすべての免疫応答で起こるわけではないと考えられている」
大林「そうだよね、インフルエンザでは聞くけど他の疾患は聞いたことなかったし」

第11章まとめ

脊椎動物は複数の方法で病原微生物に抵抗する。(現段階では、適応免疫応答は脊椎動物のみ)
・自然免疫防御で感染を排除できなかった場合、一連の初期応答が誘導されると同時に適応免疫が形成される。
自然免疫と適応免疫の中間とも言えるサブセットが自然免疫リンパ球(ILC)を誘導し、ILCがつくるサイトカインによってCD4T細胞が各サブセットに分化する。
自然リンパ球(Innate lymphoid cells, ILC)
・適応免疫が始まると病原体は抑制または排除され、その後は予防的な免疫の状態に移行する。
免疫記憶は、メモリーT細胞やメモリーB細胞、抗体をレシピエントに移入することで受け渡すことが可能。※レシピエント……移入を受ける患者。
ワクチンにより人工的に免疫記憶を誘導することも可能。
・防御免疫機構を十分に誘導しない病原体も多く、これらについては第13章で紹介する。

次回からは「第12章粘膜免疫系」

少し短いけどキリがいいので今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります


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