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1日15分の免疫学(補習)制御性T細胞について③

制御性T細胞の機能について

本p215「ヒトの腸管は人体最大の免疫器官。500〜1000種頼、100兆個以上腸内細菌が棲みついている」
大林「腸は免疫の要ってことだね!」

本p217「マウスにほぼ無害な寄生虫を感染させると、免疫に問題なくとも何匹かは宿主に害を与えないレベルで留まる」
大林「へぇ、Tregが攻撃を必要最小限に抑えるってこと?害がないレベルまで敵の勢力をそいだら殲滅戦まではしないってこと?」
本「再度、同じ寄生虫に感染させると効率的な反応迅速に誘発されて速やかに駆除できた。Tレグの数が少ない場合、寄生虫は完全に駆除されるが再感染駆除効率が悪くなった。Tレグは、抗原を適度に生体内にとどめておくことによって、免疫記憶の維持にも貢献しているようである」
大林「ほぉ~!敵を敢えて一部飼い殺しにして次に備えて敵情報を収集するみたいな仕組みになってるのか、すごいな」

制御性T細胞の特徴について

本p232「Tレグの他のT細胞と大きく異なる特徴の一つとして、胸腺で機能的に成熟した状態にまで分化・誘導されるというのがある。Tレグは産生された時には免疫を抑制する機能既に備えていて、末梢組織に送り出される」
大林「他のT細胞と違って完成してからの胸腺卒業なんですね~」

本「胸腺の中Tregがどう分化するかは2020年時点の免疫学の中で最もホットなトピックスの一つ」
大林「この本が出てから数年経ちましたけど最新情報ではどうなってるんだろう……やはり論文検索するしかないのか」

本p234「他のT細胞に比べるとTレグへの分化・誘導はいくつかステップが必要なので胸腺内で成熟するの時間がかかる。マウスの胸腺では胎生期からナイーブT細胞が産生されるが、Tレグは生後三日以降(生後三日頃に胸腺を摘出すればTレグのないマウスになる)」
大林「推しの成熟には時間がかかる…」

人体の物語「Being」第10話より

胸腺由来Tregと抹消由来Treg

本「Tレグは全身のCD4陽性T細胞の10%。でも腸管の粘膜固有層では非常に多く、その割合は30%以上腸管非自己のタンパク質常にさらされているので、強い免疫調整が必要」
大林「ごはん食べるたびに免疫応答で非自己のごはんを攻撃排除されたら大変だもんな……たしかにTregがたくさん必要だね!」

本p218「そんな腸管ではT細胞がFoxp3を発現してTレグになって免疫を抑制するようになる」
大林「胸腺でお育ちになったエリートTregではなく、現場の叩き上げでTregになるわけですか……それ詳しく教えてください!」
本「まずTregを2つに分類するね。胸腺内で自然発生した胸腺由来Tレグ(Thymus-derived Treg:tTレグ)。末梢組織において分化誘導された末梢由来Tレグ(Peripherally-derived Treg:pTレグ)」
大林「tTregとpTregですね!なにか違いはあるんです?」
本「tTregには転写因子であるHeliosCD304(Neuropilin-1)が発現している」
大林「胸腺卒かどうかを見分けるマーカーがあるんですね、うふふ、そういうの好きですよ。しかもヘリオスとか名前かっこいいな!」

本p220「大腸のTレグの50%以上pTレグと考えられている」
大林「ほぉ、正真正銘のTregよりも現場の叩き上げの方がやや多いのか」
本「無菌マウスでは大腸のTレグ顕著に減少している。pTレグの分化増殖には腸内細菌の存在が大きく寄与していると考えられている(大腸クロストリジウム属菌がTレグを誘導する)」
大林「腸内細菌がたくさんいたら免疫調整が必須ですもんね。胸腺卒のtTregだけでは手が回らなくてナイーブCD4TがTregになるってことかな」

本「胸腺でTレグが作られないと重症で致死的な自己免疫疾患になるが、末梢組織である腸管でTレグが作られない場合は、恐らくは腸管免疫に異常をきたし、炎症性腸疾患が若干増える程度だと思われる」
大林「胸腺出身のTregが最強なんですね!」

抹消由来Treg(PTreg)について

本p235「マウスでは腸管のように常時『非自己』にさらされるといった『特殊な条件下』において、通常のT細胞がTreg様に分化することがある(pTレグ)」
大林「なるほど、ヒトの腸管にいるpTregもそういう条件でつくられてるのかな」
本「マウスの末梢組織では①抗原ペプチドを未熟な樹状細胞に提示させる、②低容量の抗原を持続投与、③抗原を経口投与この3つのいずれでもpTレグへの誘導には分化促進因子として組織由来のTGF-β必要と考えられている。試験管内でマウスのナイーブCD4TTGF-Bの存在下抗原ペプチドで刺激するとFoxp3を発現できる。レチノイン酸(ビタミンA)はそれを促進する。」
大林「ほほぉ、TGF-β抗原刺激があるとCD4TがTregに……」
TGF-β:トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor-β):細胞増殖・分化を制御し、細胞死を促すことが知られているサイトカイン

本「この誘導性Treg(invitro induced Treg:iTレグ)は、内在性Treg(naturally occurring regulatory T cell:nTreg)に類似しているが機能的には完全に同一ではない。iTレグの一部はnTレグに比べると免疫抑制能Foxp3の発現が不安定。しかし、Tレグとしての機能での具体的な違いは不明
大林「突然iTregとnTregが登場してきたけど呼び方を変えただけだよね。胸腺で成熟したTregがnaturallyなのか。なんで内在性って訳した?NK細胞みたいに生まれながらのTregでえぇやん」
※NK細胞:Natural Killer cell「生まれながらの殺し屋」と呼ばれる自然免疫系のリンパ球様細胞(本によっては「リンパ球」と記載)。

・誘導性Treg(iTreg)=末梢由来Treg(pTreg)
・内在性Treg(nTreg)=胸腺由来Treg(tTreg)

本p238「iTregには一過的にFoxp3を発現して不安定で活性を失うものも。腸管で常にそういうTレグ様のT細胞が作られては死んでいく。作られる量も役割も不明」
大林「へぇ~どうして不安定なの?やっぱり胸腺で成熟しないとだめなのかな」
本p239「主としてnTレグで特異的に形成されるエピゲノムの制御による違いに由来すると考えられる」
大林「エピゲノムってなんでしたっけ…」
・エピ (Epi):「~のうえ」という意味の接頭語。
・エピゲノム:ゲノムのうえにつけ足される情報という意味。

本「ェピゲノムとは、DNA塩基配列の変化を伴わず、細胞分裂後も継承される遺伝子発現or表現型の変化の総称。エピゲノム変化にはDNAのメチル化修飾がある。メチル化すると遺伝子は不活性化して発現できない」
大林「塩基配列の変化なしの変化……ほほぉ、それは繊細だな」

本「ヒトのnTレグではFoxp3のエンハンサー領域(遺伝子の転写量の増加作用を持つDNA領域)が脱メチル化する」
大林「脱メチル化ということは、メチル化の逆だから活性化ってことかな」
本「脱メチル化とは、メチル基が除去されて不活性化されていた遺伝子が活性化され発現するようになること。これによりnTレグはFoxp3恒常的に発現する」
大林「それでnTregは安定的にFoxp3を発現できるってわけか」
本「ヒトCD4TはTCRに強い刺激を受けると比較的容易にFoxp3を発現するが脱メチル化領域が脱メチル化されておらず不安定で、免疫抑制機能も持たない」
大林「Foxp3が安定して発現していることがTregの最重要条件ってわけかな」
本「T細胞がFoxp3を発現すると免疫抑制機能を付与できる。でもFoxp3発現以外のやり方でTreg様の細胞をつくることもできるよ」
大林「ほぉ!どうやるの?」
本「①IL-2を出させないようにする。次に②CTLA-4分子を発現させ、③抗原刺激をすると、普通のT細胞がTレグと同じようにふるまうTレグ様の細胞になる」
大林「出た!CTLA-4!」
◆復習メモ
CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4, cytotoxic T-lymphocyte-(associated)antigen protein 4 別名:CD152)
:活性化T細胞に発現する抑制性レセプター。T細胞の活性化には「シグナル2」が必須で、T細胞表面のCD28と抗原提示細胞表面のCD80,86が結合することでシグナル2が伝達される。CTLA-4はCD28の約20倍以上もB7に対する結合能が高い(つまりCTLA-4が発現するとCD28よりもCTLA-4が抗原提示細胞上のB7により結合するので活性化ではなく抑制の方向になる)。

本p248「CTLA-4Tレグにも活性化T細胞にも発現する。マウスでTレグCTLA-4を発現しないようにすれば自己免疫疾患が起こる。非常に微妙なTレグの機能の変化が遺伝要因によって起きている可能性はある」
大林「CTLA-4を標的にするがん治療薬の話を前回にしたよね」
本「抗CTLA-4抗体はがんに効くが、副作用も結構多い。副作用の最たるものは自己免疫装患。これはTreg除去により起きる」
大林「そうだったのか……攻撃役を止めるだけだと思ってた」

制御性T細胞の安定性について

本p241「胸腺でTレグ産生に異常があると致死的な自己免疫疾患が起きるが末梢pTレグでは恐らくそこまで深刻な病気に至ることはあまりないと考えられる」
大林「さっきも言ってたね」
本「胸腺由来のtTレグが末梢組織で別物になれば病気が起こると考えられる。Tレグ様々な炎症察知するアンテナと、駆け付けて様々なサイトカインにさらされるため機能の安定性が重要
大林「言われてみればそうですね、Tregが現場急行してサイトカイン浴びてTregの機能果たせなくなったら意味がない!」
本「環境条件が変わった場合、細胞は特性やふるまいを変化させる能力(可塑性)を持つ。Tレグも最終段階まで分化しているのではなくある程度柔軟に対応できるような可塑性を備えている。とはいえ、Tレグの持つ免疫抑制能の本質は変わらないという考えている」
大林「いいねぇ…ロマンだわ」
本「Tレグが体内で安定して免疫系の抑制活性を示すことが重要。一部のTレグはFoxp3を発現していても炎症性サイトカインにより発現しなくなることがある」
大林「なんと、多少は影響受けるんだ……それが可塑性か。あれ、待って、じゃあ私がオリジナル漫画で描いたあの場面、あながち妄想ではないってことか???ロマン~!」

人体の物語「Being」第22話より

制御性T細胞の数について

本p244「TレグはCD4Tの10%前後に保たれている。このTレグはいつでも免疫抑制能を発揮できる」
大林「CD4Tの10%か」
本「炎症部位では全く異なる。がんの組織ではCD4Tの30〜40%、時として70〜80%がTレグであることも」
大林「すごいな」
本「臍帯血では主にナイーブ型Tレグが存在しているが、加齢に伴ってエフェクター型の割合が増える。がん組織ではエフェクター型が圧倒的に多い」
大林「待って、Tregは成熟して完成した状態で胸腺から出てくるのにナイーブ型Tregとは???それはpTregのことかな?それとも成熟してるけどまだ抗原刺激を受けてないという意味合いでのナイーブなのかな?」
本「ヒトのTレグは免疫抑制活性によりナイーブ型とエフェククー型に分類できる」
大林「そういうことか」

本「加齢に伴い、免疫を担うリンパ球の反応性が落ちる半面、Tレグは増加してくるので、高齢者の免疫反応は抑え気味になる」
大林「そうなんだ!思春期過ぎるころには胸腺はどんどん萎縮していくから推しがひたすら減っていくと思ってたけどTregは増えるのか~でもTregが必要な関節リウマチ(自己免疫疾患)とかは高齢になってから出てくるよね」
本「増えるといっても10%が12〜13%になる程度。高齢でTregの数が増えるのは、長く生きているうちにさまざまな抗原にさらされたためとも考えられる。普通はTregも役割を終えれば死んでいくが少しずつ溜まるという意味では増えているといえなくもない」
大林「ほぉ」

本p245「Tregの大部分は免疫抑制能を発揮した後、大体がんでいく。
Tregのメモリー細胞があるかは未だに議論されている」
大林「やはり免疫細胞は一仕事したら死んでしまうんだね……推しが毎日私の体内で死ぬ…メモリーTregの存在はまだはっきりしてないのか~」

あとがき

本p253「病原微生物に対する強力な免疫応答「自己」に向かえば個体を傷つけるリスクを持つ。免疫応答は個体を傷害するほど強くてもいけないし、弱すぎて感染症を防げないのでもいけない。Tレグは微妙な調節が求められる免疫応答を巧みに制御してきた」
大林「推しが重要な存在ってことですね!」


人体の物語「Being」第1話より※2008年作成

備忘録

p142:Science(2003年2月14日)
p144:自己免疫疾患は「免疫系のほうに異常があって、どこが障害を受けるかはその人の免疫応答性、特に遺伝的な背景による」

オリジナルサイトはこちら!
ファンタジー創作がメインのはずですが、細胞擬人化と法律擬人化の4コマ漫画もあります


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