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1日10分の免疫学(51)生体防御機構の破綻③

§ 先天性免疫不全症について(つづき)

CD18遺伝子の変異による免疫系への影響

本「CD18遺伝子変異白血球接着不全症が起こる」
大林「何との接着?」
本「CD18分子は、白血球や単球が血管を離れて感染部位に侵入するために必要」
大林「つまりCD18分子の機能に問題が起きると、血管を巡回中の貪食細胞たちが感染現場に行けない……そりゃ大変だ」
本「白血球接着不全症の患児は感染を繰り返し、通常生後2年足らずで死亡する。ほかの遺伝子の欠損では、スーパーオキシドラジカルO2-をつくれずに貪食細胞の殺菌能障害され、慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease:OGD)となる」
大林「貪食細胞(マクロファージや好中球)が病原体を貪食しても、細胞内で殺菌できなければ病原体は貪食細胞内でぬくぬくと(?)生き続ける。病原体を殺菌できないまま死んだ好中球を大量に貪食したマクロファージで肉芽腫が形成されるんだっけ?」

T細胞の異常による免疫系への影響

本「B細胞は体液性免疫だけだが、T細胞適応免疫のすべてに関与するので、T細胞が機能不全を起こすと感染に対してかなりの悪影響が起きる」
大林「B細胞の異常なら、輸血や免疫グロブリン製剤の定期的投与でなんとか対応できるんだよね」

本「体液性免疫と細胞性免疫の両方が働かない免疫不全症のことを重症複合免疫不全症severe combined immnodeficiency:SCIDと呼ぶ」
大林「あっ、それ診察エッセンシャルズで見た気がする!」

本「T細胞の分化や機能には、多くのタンパク質が関与しているのでそのうちの1つの遺伝子に異常が起きるだけでSCIDを発症する」
大林「他の遺伝子でフォローとかできないの?大変だな……」
本「SCIDの症状は極めて重篤であるため造血細胞移植によって免疫系が置き換えられない限り生存できない」

IFN-γ受容体、IL-12受容体の欠損による免疫系への影響

本「IFN-γ受容体欠損している場合は、ありふれた細胞内寄生細菌持続感染し、時に致死的となる。IL-12受容体欠損した場合も同様に細胞内寄生細菌感染症に罹患しやすくなる」
大林「IL-12ってマクロファージが分泌してNKが活性化して活性化したNK細胞がIFN-γを分泌してマクロファージが活性化するやつじゃん!」

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※注意※↑に誤記があります。「ラングハンス型巨細胞」です。うっかりやらかした……


本「そう。だからIL-12受容体を欠損するとマクロファージとNK細胞の相互活性化サイクルが途中で止まることになる」
大林「自然免疫に影響が出る!」

本「獲得免疫にも影響がある。マクロファージのつくるIL-12がT細胞上のIL-12受容体に結合してナイーブCD4TがTh1への分化を誘導する…」
大林「つまり、IL-12受容体を欠損していると、Th1分化するのが促進されないのか!細胞性免疫が促進されない!」

◆復習メモ
ヘルパーT細胞とは、サイトカインの分泌で免疫応答を誘導する免疫細胞。いわば「免疫の司令塔」。
ヘルパーT細胞には種類がある。Th1,Th2,Th17,Tfhなど。
Th1は、好中球、マクロファージ、細胞傷害性T細胞などを活性化させ、細胞性免疫を誘導する。


本「Th1マクロファージの抗原提示に結合するとIFN-γを分泌してそれでマクロファージが活性化するが……」
大林「IL-12受容体を欠損しているとできないわけか」

本「IL-12は、細胞傷害性T細胞にも作用してIFN-γを作らせマクロファージの活性化維持に役立っている」
大林「うわ、IL-12受容体めちゃめちゃ大事だな!欠損したら自然免疫と適応免疫の両方が起きなくなるじゃん」

◆復習メモ
受容体(receptorレセプター):外界や体内からの刺激を受けとる分子やその複合体のこと。特異的な物質(ligandリガンド)と結合する。
つまり、受容体によって結合する物質(形状)が決まっているので、上記のように「IL-12」専用の受容体があり、それを作る遺伝子に異常が起きるとIL-12専用の受容体が失われ、Il-12を受け取ることができなくなる。

本「IFN-γは、Th1への分化に有利な環境をもたらす」
大林「IFN-γとIL-12は、ともかく細胞性免疫!って感じだな」

◆復習メモ~細胞性免疫と液性免疫~
細胞性免疫貪食細胞(マクロファージ、好中球など)の病原体の貪食(細胞内に取り込んで顆粒で殺菌)、キラー細胞(ナチュラルキラー細胞、細胞傷害性T細胞など)の感染細胞の殺傷といった細胞の直接的な活動による免疫応答。
細胞性免疫を誘導するヘルパーT細胞は、Th1。

液性免疫:抗体産生細胞(B細胞)の抗体による免疫応答。最初、血液から抗体が見つけられたことでこの名が付いた。
液性免疫を誘導するヘルパーT細胞は、Th2とされてきたが、最近の研究によるとTfhの機能であることが判明しつつあるらしい。


本「このようにIL-12受容体欠損すると、T細胞とマクロファージとの相互活性が起こらなくなる。例えば、IL-12受容体欠損症やIFN-γ受容体欠損症の患者に結核の予防接種BCGを接種すると、通常は病原性のない弱いマイコバクテリアであるのに、マイコバクテリア持続感染に陥る」
大林「知らずに接種したら大変なことになるな……」

まとめ

典型的な遺伝子異常による免疫不全症は、主に幼児期に発症し、感染症にかかりやすくなる
T細胞の機能を損なう遺伝子異常は、直接・間接的にB細胞の機能も障害するので、重篤な免疫不全症を引き起こす(SCID)。
B細胞関連の遺伝子異常は、化膿性細菌に感染しやすくなる
補体の欠損は、病原体のオプソニン化が障害され食細胞に異常がある場合と同様に細菌に感染しやすくなる

今回はここまで!

本「次回は後天性免疫不全症候群について」
大林「AIDS!acquired immnodeficiency syndrome!」

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