見出し画像

1日10分の免疫学(49)生体防御機構の破綻①

第13章 生体防御機構の破綻

大林「タイトルが怖いなぁ」
本「病原体は、免疫システムを回避したり、破壊したりする」
大林「あ~、インフルエンザウイルスみたいに変異することで記憶された免疫を回避するのと、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)みたいに免疫細胞(主にマクロファージとヘルパーT細胞)に感染することで免疫システムを破壊するやつか」

本「回避には、遺伝子型の多様性によるものもある。たとえば肺炎レンサ球菌は遺伝子型の異なる各株が少なくとも90株はある」
大林「あぁ…型がたくさんあるから1つの型に感染して免疫記憶用意できても次に別の型がきたら意味ない……」

本「インフルエンザウイルス抗原ドリフト抗原シフトによっても進化する」
大林「なんじゃそりゃ」
本「Aさんに感染したウイルス株VがBさんに感染してる間に変異して、またAさんに感染するのが抗原ドリフト
大林「げげ、治ったのに変異したのにまたかかるとか災難!」
本「抗原シフトは、たとえば一体のブタに、トリのインフルエンザウイルスとヒトのインフルエンザウイルスが感染したとき、それぞれのウイルスでRNAが組み換えられること」
大林「ブタの中でトリインフルとヒトインフルがミックス……?!そんなの誰も免疫記憶もってない新しい敵だから感染しちゃう」

本「ウイルス感染の終息には感染細胞が細胞傷害性T細胞に殺される必要があり、そのためには感染細胞のMHCクラスⅠ分子にウイルス由来のペプチドが提示されなければならない」
大林「細胞傷害性T細胞はMHCクラスⅠ分子とペプチドの複合体を認識するからねぇ」

◆復習メモ
T細胞:胸腺(hymus)で成熟することからその名が付いた。

<T細胞の種類>
ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)
:サイトカイン分泌等により免疫応答を誘導する。
 ヒト細胞上のMHCクラス分子に結合した抗原ペプチドを認識する。
 (それが自分の受容体にぴったりハマれば応答する:特異的に応答する)

細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)
:細胞を殺傷する。
 ヒト細胞上のMHCクラス分子に結合した抗原ペプチドを認識する。
 (それが自分の受容体にぴったりハマれば応答する:特異的に応答する)

※今回は省略しますが、他に制御性T細胞やNKT細胞、MAIT細胞などもいます。ヘルパーT細胞にも種類があります。

本「ヒト細胞内休止状態に入るウイルスもいる」
大林「侵入してからおとなしく潜伏?どうなるの?」
本「ウイルスが増殖しないと十分の量ウイルス由来ペプチドも合成されないので細胞傷害性T細胞によって認識されない
大林「あぁ……」
本「そして、そのウイルスは初期免疫応答が低下したときに再活性化して病気を引き起こす」
大林「なるほど、潜入して機を待つってやつね。なんてウイルス?」
本「例えば、ヘルペスウイルス」
大林「うおおお!まさに!免疫弱ったときにあいつは活動再開しやがりましたよ!(経験談」

本「単純ヘルペスウィルスはまず上皮細胞に感染し、その領域の感覚神経細胞に伝播。上皮にいるウイルスは排除されるが、感覚神経細胞内のウイルスが潜伏状態となる」
大林「神経細胞内に潜伏とかやめてくれ~」
本「しかも神経細胞にはMHCクラスⅠ分子がほんの少ししか発現していないので…」
大林「ということは、細胞傷害性T細胞認識するチャンス少ないってことかぁ……MHCクラスⅠ分子をあまりもたない細胞に感染されると厄介だな。監視カメラの少ない死角を突かれる気分」

本「免疫細胞を利用する病原体もいる。結核菌はマクロファージのもつ食作用を利用する」
大林「利用?」
本「貪食されるとファゴソームとリソソームとの融合を阻害し、リソソームによる殺菌作用から身を守り、細胞内小胞の中で生き延びる」
大林「あぁ、食われることで侵入して、中で生きるのか」

本「トキソプラズマ原虫は感染細胞の中で特別な環境をつくる。細胞膜や細胞内小胞と融合しない頑丈な膜で覆われた小胞をつくってそこで潜伏する」
大林「細胞の中で勝手にマイルーム作るのか……」


本「梅毒トレポネーマはヒト由来のタンパク質で自分を覆って抗体をかわしている」
大林「ヒト由来のタンパク質をかぶられたら『非自己』認識できないもんな……侵入者が制服を借用するようなものか」

本「病原体の中でもウイルスは免疫防御を破壊・回避する方法をいくつも進化させている。宿主細胞のサイトカインやサイトカイン受容体の遺伝子をとりこみ発現することで免疫応答をかわしたり、補体の結合抗原処理、提示阻害するタンパク質を作ったり…」
大林「ウイルスすごいな」

本「ウイルス感染への免疫応答で主に活躍する細胞は、NK細胞と細胞傷害性T細胞だけど、これらはMHCクラスⅠ分子に依存している。そして、ウイルスの多くMHCクラスⅠ分子の発現等を妨害する手段を発達させてきた」
大林「えええ……まぁそうか、偶然にもその能力を獲れば生き延びて増えるから、自然と、MHCクラスⅠ分子関係を妨害できる能力を手に入れたウイルスが存続しやすくなるよね」

大林「待てよ?ウイルスが、MHCクラスⅠ分子が発現しないようなタンパク質を出すとして、そうなると細胞傷害性T細胞は認識&攻撃できないけど、NK細胞は逆にMHCの欠損を認識して攻撃するじゃん?!」
本「ところがどっこい。たとえばヒトサイトメガロウイルスは、MHCクラスⅠの機能を低下させるタンパク質を10個もっていて、その中にはMHCクラスⅠ分子の欠損を認識するCD94:NKG2A受容体などを妨害したり、NK細胞の活性化受容体を妨害したりする」
大林「ええええ、思ったより少年漫画みたいな戦いだな?!弱点が次々突かれる……!病原体と免疫系の攻防がすごい!!!」

今回はここまで!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?