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1日15分の免疫学(109)自己免疫と移植②

本「中枢性免疫寛容機構は、強い自己反応性を持つリンパ球を取り除く。これは自己寛容を維持するための最初で最も重要なチェックポイント」
大林「B細胞は骨髄で、T細胞は胸腺でそのチェックを受けるよね」

◆復習メモ
T細胞B細胞は、分化過程で受容体遺伝子の再編成を行い、細胞ごとに異なる形の受容体を獲得し、適合する「標的(抗原)」のみに反応する。適合する標的に出会うと活性化してクローン増殖をする。
T細胞はT細胞受容体T cell receptor:TCRを、
B細胞はB細胞受容体B cell receptor:BCRをもつ。
自己抗体に強く反応するT細胞とB細胞は、中枢や末梢で排除される。

本「この機構がなければ免疫系は強い自己反応性を示して生後まもなく致死的な自己免疫状態となる」
大林「中枢で排除できなかった分について末梢でも免疫寛容機構はあるけど、末梢だけでは中枢の代わりはできないってこと?」
本「そのようだね」
大林「胸腺では未熟なT細胞に様々な自己抗原を提示するんだよね。流石にすべては提示しきれないけど…」
本「ちなみに、末梢性遺伝子がどのように胸腺に異所性に発現するのかはまだ完全には解明されていない」
大林「言われてみて初めて気づいたわ。どうして胸腺で色んな自己抗原を提示できるのか……すごいね。で、完全には、ということは何かわかってる?」
本「AIRE:自己免疫制御autoimmune regulatorという単一の転写因子が多数の末梢性遺伝子の胸腺内発現を担っていると考えられている」
大林「へぇ~」
WEB「Aireは胸腺髄質上皮細胞に発現し,末梢組織に特異的な自己抗原の発現を誘導することによりT細胞を選択する,免疫学的な寛容において重要な転写因子である.」

大林「AIREはなんて読むの?アイレ?」
WEB「我々は,主にフィンランドの患者DNAを用いてAPECEDの原因遺伝子のクローニングに成功し,AIRE(エア:autoimmune regulator)と名づけた(略)AIRE遺伝子は健常者では主に胸腺の髄質領域の希少な上皮細胞で発現しており,中枢性の免疫寛容に関与している」

大林「エアか」

本「この遺伝子は、カンジダ感染と外肺葉形成異常を伴う自己免疫性多腺性内分泌不全症autoimmune polyendocrinopathy-candidiasis-ectodermal dystrophy [APECED,多腺性自己免疫症候群Ⅰ型(APS-1)としても知られている]という稀な遺伝性自己免疫疾患の患者で欠損している」
大林「疾患名長いな!!!」
WEB「Aireの遺伝子の変異は「自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー (Autoimmune polyendocrinopathy candidiasis ectodermal dystrophy (APECED))という、日本語にしても英語にしても長い名前の疾患を来すことが分かっていました」

大林「他の人も同じ感想や……で、どんな疾患なの?」
本「膵島などの内分泌組織破壊真菌感染症(特にカンジダ症)が起こる。マウスで欠損させると胸腺多くの末梢性遺伝子発現できず類似の病気を発症する」
大林「ほぉおお」
本「しかしこの遺伝子を欠損していても発症まで時間がかかるため、他の機構も重要な役割を果たしていると考えられる」

大林「自己反応性のリンパ球がいると大変だねぇ……しっかり排除しないと」
本「第8章の6でやったよね?自己反応性細胞すべて除去されてしまうとレセプターレパートリーが限られてしまって病原体の多様性に反応できなくなる、だから一部の自己免疫疾患はこのバランスの代償。」
大林「ふむ……自己抗原に似た抗原によって感染症が起きたら、樹状細胞が補助刺激シグナルを出すことで低親和性のリンパ球が活性化して活躍できるわけだ。うまくできてるぅ」

本「無視リンパ球が活性化される状況として、その自己抗原がTLRのリガンドでもある場合がある」
大林「待って、なにその無視リンパ球て呼び名。かわいい」
原著「normally ignorant lymphocytes may be..」
大林「原著でも言うてたわ」

リガンドligand:特定のタンパク質と特異的に結合する比較的低分子の化合物。生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質のことを指す。
CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

大林「それにしてもTLRは長い年月を経て獲得した病原体を検知するレセプターではなかった?」
TLR(トル様レセプターToll like receptor):細胞表面にあり、病原体共通の分子構造(pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を認識する「パターン認識受容体(pattern-recognition receptor: PRR)」の1つ

本「そうだよ。通常、微生物関連分子パターンに特異的なレセプターであるが、このパターンは自己分子にも見られる場合がある」
大林「えっマジで?!」

本「他にも、無視リンパ球が動き始めるケースとして、自己抗原の局在や形態の変化がある」
大林「隔離されてる自己抗原が動くの?」
本「例えば細胞内にある抗原が、広範な組織損傷や炎症で細胞外に放出されると…」
大林「あー、なるほど」
本「心筋梗塞後にこのような状態が起こる場合がある」
大林「そうなんだ。ずっと続く?」
本「いや、通常であれば一過性。自己抗原が除去されると消失する」
大林「よかった」
本「除去機構が不適切だと反応が持続して自己免疫疾患を発症させる」
大林「オゥ……」


本「一部の自己抗原は大量に存在するが通常は免疫原とならない形態をしている」
免疫原(めんえきげん、英: immunogen)は、免疫系の構成要素(抗体やリンパ球)が特異的に結合する可能性のある抗原または物質。

大林「え、どんな?」
本「IgG」
大林「抗体じゃん!」
本「IgGは単量体でBCRを架橋できないのでB細胞を活性化できない」
大林「そもそもB細胞が抗体作るのに、抗体に活性化させられるってどういうことよ」
本「感染などで免疫複合体が形成されると多価状態のIgGが多量につくられてB細胞が応答してしまう」
大林「なんと……B細胞が応答するということはつまりそのIgGに対する抗体をつくるってこと?!」
本「そうだよ、抗IgG自己抗体をつくる。これらの抗体は、しばしば関節リウマチに出現するのでリウマチ因子rheumatoid factorと呼ばれる」
大林「わぁ!出た!リウマチ!長引くやつ!」
本「いやこの抗IgG自己抗体は通常短命で、免疫複合体が除去されれば終息する」
大林「あ、そうなんだ」

免疫特権部位について

本「外来組織片を移植されても免疫応答が惹起されない部位があり、免疫特権部位immunologically privileged siteと呼ばれる」
大林「なんだその中二病わくわくしちゃう部位は!くわしく!」

本「免疫特権部位は、特権部位と身体のコミュニケーションが特殊」
大林「コミュニケーションとは?」
本「特権部位の蛋白質はそこから離れて免疫学的作用を及ぼすことができるが、特権部位の細胞外液リンパ管を通らない。たとえば
大林「あ!血液脳関門!リンパ球は通れないやつ!ちなみに、免疫細胞があんまりうろつかない場所って、脳と眼ってのは習ったけど、他は?」
本「精巣と子宮(胎児)」
大林「あー!なるほど」

本「また、特権部位では免疫応答の方向性に影響を与える液性因子はつくられない」
大林「ほぉ」
本「特権部位の組織に発現するFasリガンドは、Fasを発現したエフェクターリンパ球が近づいてくるとアポトーシス誘導する」
大林「ひっ!FasリガンドといえばキラーのFasに結合して細胞死誘導するやつ~!」

本「逆に言うと、免疫特権部位に隔離されている抗原はしばしば自己免疫疾患の標的となる」
大林「そうなるね」
本「隔離抗原に特異的なT細胞は免疫学的無視の状態にあるといえる。これは交感性眼炎でも示される」
大林「どんな疾患?」
本「片目が外傷などで破裂すると眼の蛋白質に対する自己免疫応答が起こりうる」
大林「片目の怪我で両目がピンチになるのか……どんな治療するの?」
本「免疫抑制療法や、稀だけど抗原の供給源である損傷した眼の摘出で片目を守る」

今回はここまで!
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