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1日10分の免疫学(70)がんと免疫②

ウイルス感染とがんの相違点

本「ウイルス感染とがんには重要な相違点があります。感染と比較するとがんに対する免疫応答の速さが異なる
大林「えっ、速いの?遅いの?」
本「粘膜では、局所にいる微生物集団に対する持続的な免疫応答があるため、病原体の侵入に対し自然免疫適応免疫直ちに活性化される」
大林「あぁ、粘膜では普段から微生物集団で刺激されてるから準備運動はできてるわけね」

本「他の組織でも、感染の最初の炎症で応答は開始されている。自然免疫応答数時間で臨戦態勢、適応免疫応答2週間以内に完全に武装を終える」
大林「武装を終える……かっこいい表現使うから惚れるんだよ。で、こういう話をしたってことは、がんに対する応答は感染に対するものより遅いってことですね?」
本「がんの始まりは1個の細胞なので免疫系に気づかれない。増殖が組織を傷害し始め、炎症による警報が発令されると、免疫応答ががんを制御や排除にかかる……が、大きくなりすぎると免疫系は圧倒されてしまう」
大林「免疫系が気付いた頃には手遅れかも……ってことか」

大林「ん?待てよ、異常細胞は日常的にNK細胞たちに排除されてるんじゃないの?」
本「そうです。がんになりそうな細胞の多くは、免疫監視によって発見され排除される」
大林「お、伏線回収ですね。免疫監視は前回やった。ウイルス感染とがんに対する免疫応答の速さの違いというテーマは、がんになってからの話かな。がんになる前に機能する免疫監視とは時期が違うわけか」

がんとMHC分子について

本「マウスの腫瘍を、MHC型が同じマウスに移植すると増殖するが、異なるマウスに移植すると生着しない」
大林「ん?どういうこと?」
本「アロ(同種異系)MHCクラスⅠ分子を認識するアロ反応性CD8T細胞によって殺傷されるから」
大林「あぁ……腫瘍を形成するがん細胞が非自己としてCD8T細胞に即排除されるってことか」

大林「でも前回、悪性転換したがん細胞はタンパク質の発現パターンが変化して非自己と認識されるようになるって言ってたのに……非自己と認識されないこともあるってことを前提に今のマウスの話したの?」

本は答えないが、多分そういうことだと思う。MHCの型が異なるのと、タンパク質の発現パターンが変化するのとでは「程度」の幅があるので。


本「移植患者で起こることだが、HLAの違い免疫系に許容される場合は、腫瘍細胞も生き延びてしまう
大林「あ!それ!移植の項目を学習してたときに疑問だったとこ!そういうことだったの?!」

本「黒色腫を発症して完治した(腫瘍細胞が根絶されてはいなかった)ドナーの2つの腎臓を、HLAの一致する無関係の二人のレシピエントに移植したところ、二人とも同じ転移性黒色腫を発症した」
大林「えぇと、ドナーの体内では、わずかに残った腫瘍細胞免疫系に抑えられていたから大丈夫だったけど、レシピエントの体内にはその対応ができる免疫体制が整ってなくて増殖再開!みたいな感じかな……臓器移植でがん細胞まで移植されてしまうとか衝撃」

本「一般的には腫瘍は個体と共に死ぬ。が、希に別の個体へ移行することはある」
大林「あるの?!」
本「ペットの犬の外性器の肉腫は交尾で移行する。野生動物では、タスマニアデビルの致死性顔面腫瘍が顔面の噛み合いで伝染する」
大林「おぉう……」
本「デビル顔面腫瘍性疾患devil facial tumor disease:DFTDでは、タスマニアデビルMHCの型が乏しく、且つこの腫瘍細胞表面にはほとんどMHCクラスⅠ分子を発現しないため、感染が広まりやすい」
大林「ほほぉ!つまり、さっきのマウスの、MHCの型が同一の個体には腫瘍細胞が生着しやすいって話ですね。CD8T細胞はMHCクラスⅠ分子で自己非自己を判断するから、MHCクラスⅠ分子をあまり表面に出さないのもポイントになると!」
本「人間もタスマニアデビルと同じくらい激しい行動をとるかもしれないが……」
大林「言いたいことはわかるが言い方!つまりヒトはMHCは多型だから、ヒトからヒトへの腫瘍細胞の移行があっても生着しにくいってわけね」
本「性行為や戦争による他人との濃密な接触、輸血、注射器や針の使い回しなどで、ヒトも腫瘍細胞の移行が起こり得る」
大林「性行為と戦争がまさか並ぶとはな……」

がん化細胞と正常細胞は遺伝子レベルで異なる

本「悪性転換した細胞は、他の細胞と比べると遺伝子レベルで違いがある」
大林「遺伝子のエラーが蓄積して悪性転換したんだものねぇ」
本「腫瘍ウイルスによって形質転換した細胞でも違いは見られるよ」
大林「あ、ウイルス性のを忘れてた」

本「6種類程度のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に点変異が生じたことで形質転換した1個の細胞に由来する腫瘍は、大きくなるにつれ変異も蓄積し、遺伝的多様性が生じる」
大林「おぅおぅ、待ってくれ。頭を整理させてくれ」

点変異とは?
点突然変異(1塩基置換)は、DNAやRNAのG、A、T、Cのうち一塩基が別の塩基に置き換わってしまう突然変異。

形質転換とは?
分子生物学においては形質転換(Transformation)は、細胞外部からDNA を導入し、その遺伝的性質を変えること
英単語Transformationには、正常な動物細胞が無制限に分裂を行うようになる(がん化=悪質形質転換)の意味も含まれる。

◆整理メモ
形質転換 ⊃ (悪質形質転換=悪質転換)

大林「つまり、わずか6種類程度のがん遺伝子やがん抑制遺伝子で、1塩基だけ突然変異(点変異)して形質転換して悪質転換に至った1個の細胞が、増殖しまくって腫瘍を形成する。増殖が進むほど…腫瘍が成長するほど…、腫瘍を形成する細胞集団に遺伝的多様性が生じる、と。
わずかな変異で1個の細胞から始まったがんでも遺伝的多様性が生じる、というのが本旨かな」

大林「そういえば、がん免疫療法で、CD8T細胞にターゲットとしてがん細胞の1つの特徴を覚えさせても、通用しないがん細胞がいるって読んだことある」

腫瘍特異抗原と腫瘍関連抗原

本「適応免疫応答を起こす腫瘍抗原tumor antigenは1000種類以上同定されている」
大林「千……!」
本「正常細胞に発現せず腫瘍細胞だけに発現する抗原腫瘍特異抗原tumor-specific antigen、
ある種の正常細胞にも少量発現する抗原は腫瘍関連抗原tumor-associated antigenと呼ぶ」
大林「へぇ……腫瘍特異抗原に反応する適応免疫を用意できれば、防衛軍による民間人誤射がなくなるのかな」

本「腫瘍関連抗原の多くは精巣中の未成熟な精子や胎盤の栄養膜細胞に発現するタンパク質」
大林「生殖関係かぁ」
本「これらの細胞はHLA-A,B,CのクラスⅡ分子を発現しないので、免疫系は免疫寛容を取得していない」
大林「ふんふん、待って、また整理が必要だ……」

◆復習メモ
主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex; MHC):
免疫学では「MHC分子」と表記されることが多い。クラスⅠとクラスⅡに分類される。
ほとんどの脊椎動物が細胞にもつ分子で、1個体で共通して「自己」であることを示す機能を担う。
ヒトの場合は、ヒト白血球抗原(HLA:Human Leucocyte Antigen)と呼ばれている。
造血幹細胞移植では、HLAのA座、B座、C座、DR座という4座の一致する割合が重要とされている。

(遺伝子座)とは、染色体やゲノムにおける遺伝子の位置(領域)

Wiki「免疫寛容とは、本来は自己だがT細胞から見て非自己に見える細胞を攻撃しないようにする仕組み。ある特定の条件の元にT細胞がその特殊な自己抗原に結合した場合に免疫寛容が成立する。
この「特定の状況」は中枢性免疫寛容における負の選択(例:胸腺でのネガティブセレクション)、末梢性免疫寛容における制御性T細胞(Treg)と自己抗原反応性T細胞の会合で生じる」

WEB「HLA-A, HLA-B, HLA-CはClass Iに属し、細胞内で作られたタンパク質の一部(ペプチド)を抗原提示します。つまり自己に対する免疫寛容に非常に重要な役割を示します。例えば染色体に変異が起こり、誤ったタンパク質が生成された場合には本来生体内に存在しないペプチドが表現され、その細胞は免疫の攻撃対象となります。」

大林「えぇと……そもそもHLA-A, HLA-B, HLA-CはMHCクラスⅠで提示されるものってことか。そして、提示されるから、提示細胞は免疫に自己と認識されるので攻撃されない……つまり寛容される」
Web「クラスⅡは、細胞外から来たタンパク質をペプチドとして抗原提示するという重要な役割を担っています」

◆整理メモ
MHCクラスⅠ分子:細胞内で作られたタンパク質を細胞表面に提示する。細胞が変異や感染により、提示されるタンパク質が正常細胞と異なる場合は、免疫系の排除対象となる。NK細胞と細胞傷害性T細胞が認識する。

MHCクラスⅡ分子:細胞外からとりこんだタンパク質を細胞表面に提示する。ヘルパーT細胞が認識する。

大林「待ってくれ、結局、『これらの細胞は…(略)…クラスⅡ分子を発現しないので、免疫系は免疫寛容を取得していない』がわからんぞ。まさか、クラス『Ⅰ』分子の誤植じゃないよね………?」」

問題は解決しなかった……!勉強進んだら解決することを期待しよう!

本「これらはがん精巣抗原cancer/testic antigen:CT抗原と呼ばれ、約90種類の遺伝子がCT抗原をコードする。その約半数はX染色体上にあり、おそらく生殖や胚発生にのみ働く遺伝子ががん化の際に体細胞にハイジャックされる」
大林「よくわからん!」
WEB「腫瘍関連抗原の多くは、免疫系からは隔絶された精巣にのみ発現する。これら抗原をがん・精巣抗原と呼ぶ」

大林「わかった!」

大林「『遺伝子が体細胞にハイジャックされる』って、つまり、普段は生殖細胞で機能する遺伝子が、体細胞で機能するってことかな?いまいちわからん……」

WEB「最も基本的な細胞の分類は、体細胞(somatic cell)と生殖細胞(reproductive cell)。体細胞は脳や筋肉、内臓、骨、皮膚と云う体を構成する細胞。生殖細胞とは卵子や精子のことで、親の遺伝情報を子どもに伝える役割を担う」
大林「細胞の種類は分かったけど、ハイジャックがわからん」


本「妊娠の過程で母親のエネルギーや栄養は胎児の成長促進に費やされる」
大林「がんも同じ………」
本「新たな生命が生まれるか、死が待つだけかの違いがある」

気付いたら長くなってた!今回はここまで!

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