アクチュアリーは取る価値のある資格か(2021/1/3に書いて投稿せずに温めていたものです)

アクチュアリーを選択肢のひとつとして考えている理系大学生には知りたい内容かもしれません。ただ、最初に元も子もないことを言ってしまうと、ここにその答えはありません。ただ、どの資格でも成り立つことかもしれませんが、生かすも殺すも本人次第ということは言えます。私の経験上も、全然生かせていない人、生かせている人両方知っています。では以下本論です。

自分にとってアクチュアリー正会員資格の価値って何だろう?と改めて考えてみると、①周囲から正会員(一人前)として見てもらえることと、②転職時のバリュー、この2つくらいじゃないかなと思っています。社内評価や昇進とは直接はほぼ無関係です(そうじゃない会社も多く知っているので、これは一般論ではないことご注意ください)。だってアクチュアリー正会員資格って個人の資産だから。会社じゃなくて個人に紐付いてる資格ですよね。だから、資格に裏付けられる専門性を会社のために役立てて、価値を生んではじめて評価される。それが当然だし、そうあるべきとも思ってます。
少し補足すると、①については、正会員になる前となった後では、社内での発言力が若干変わりました。同じことを言ってても、以前は「ペーペーが何生意気言ってんだ」というような反応もあったところ、正会員になった後は専門家の意見として聞いてもらえるようになったり意見を求められる機会も増えました。また、社外では、アクチュアリー会の委員会、監査法人、再保険会社等、社外の人と会う機会も多く、その際は、正会員資格がタイトルにも近い役割を果たす気もしています。②については、私は資格手当のない会社を選びましたが、転職市場で良い人材を確保するために、資格手当のない会社も資格手当のある会社と競合しなければいけませんので、一概にいくらとは言えませんが、転職時には正会員資格見合いの上乗せがベースに乗ってくると思います。

さて話を続けますが、もちろん、資格勉強が実務で活きる瞬間は何度も経験していますし、資格取得は一定レベルの優秀さの保証でもあるので、一般論として正会員の方が非正会員(アクチュアリーを目指している人)よりも会社への貢献の期待値は高いと思います。でもせっかく資格取得しても、それに驕り会社への還元を怠るようだと、たとえ正会員であっても評価はされません。しっかり貢献できている準会員研究会員よりも評価が低いことだって十分あり得ます。資格を取ったのに評価されない、って言っている人の話を聞くことがありますが、そうではなく、「せっかく取ったのだからそれを活かして貢献し、それから会社に評価してもらえばいいじゃない?もしそれでも会社が評価してくれなければ資格を生かして転職しましょ?」と思います。取った資格にはいつまでも執着せずに気持ちを切り替えて全く別の新しいフィールドに自分を広げることに集中し、「アクチュアリーは自分のバックグラウンドのひとつ」とさらっと言えるくらいになりたいものですね。そのくらいの人の方が活かせる場面はより増えると思います。「言うは易し行うは難し」ですけどね。アクチュアリー業務を、いつまでも試験、保険数理の延長上で捉えていてはダメで、試験で培った知識は義務教育のようにひけらかすことなくごく自然と使いこなさないといけないと思います。

少し話を戻すと、資格が裏付けている専門性が重要なので資格そのものは本質的には重要ではないかもしれません。実際アクチュアリーとして働いている方の多くはご納得いただけるのではと思いますが、資格試験など超越して、経験の浅い正会員では到底太刀打ちできない深いアクチュアリーの実務知識を持っている非正会員もいますよね。何か事情があって正会員になれ(ら)なかったのかもしれません。3時間という制限時間のある試験はある程度以上の年齢になると難しくなってきます。もちろん例外はありますが。じゃあ、まだまだ若いアクチュアリー候補者が試験も受けずに実務だけ極めればいいのか?そうは思いません。1次の全科目全範囲が実務に必須とは思いませんが、義務教育のように本当に根っこのところで役立っているものも多いです(たまにハッとすることがあります。もちろん全く使ってない知識もあるのは否定しませんが)。一方、2次は比較的ダイレクトに重要です。監督指針の暗記のように重要とは思えないようなものもありますが、総じて見れば実務とかなり直結しています。まとめると、資格自体は必須ではないですが、体系的にアクチュアリーの実務知識が習得できるのが試験範囲のテキストなので(試験のあり方についてはさまざまな意見があると思うのでここではこれ以上踏み込みません)、まずはテキストの内容に習熟しましょう。そしてテキストを読んで終わりではなく、せっかくだからアウトプットして習得できていることを証明しましょうよ、ということです。

さて、アクチュアリーをあえて同じく難関資格である医師、公認会計士、弁護士、士業と並べて比較すると、資格を持ってないとできないことは保険計理人くらいしかなくて、通常業務は資格がなくても普通にできます。各社正会員を各世代1名ずつ輩出できれば十分とも言えます。
しかし、資格の有無はさておき、保険会社におけるアクチュアリーの重要性は揺るがないと思っています。会社の中で日々さまざまな意思決定が行われますが、その際、財務的な評価は欠かせませんので会社に与える財務的影響を適切に判断できるアクチュアリーが必要だと思っています。会社のいろんな戦略、商品、その他ある中で、その収益リスクを、いろいろな指標を複合的に見て、最適なコスト・人的リソースのアロケーションを提案できるのがアクチュアリーだと思います。また単に財務的影響と言ってもそこそこに複雑で、ソルベンシーと言ったって国内法定基準と経済価値ベース、いわゆるESRがあります。最近だと国際資本規制ICS(+国内フィールドテスト、経済価値ベースの規制導入に向けた動き)もあります。EVという株主からみた企業価値を表す指標があります。会計上の利益があり、これもJGAAPに加えて外資ならIFRSとかUSGAAPとか、さらには、IFRS17もあります。こういった複数の指標への影響を見極めて、最適な判断を下す。もちろん、意思決定の材料は数理だけじゃなく、営業サイドの事情、競合環境なども踏まえての複雑な意思決定となりますが、資格自体は不要だとしても、それなりに正会員クラスの専門性を有するアクチュアリーの需要は高いし実際重要な意思決定に貢献できると思います。

AIの台頭で淘汰される職種リストにアクチュアリーが載ることもありますが、もちろん私はそうは思いません。日本の10倍のアクチュアリーがいるアメリカでは、計算専門のアクチュアリーがいると聞きます。作業に習熟しているだけのアクチュアリーはAIを待たず、RPAの推進によって需要がなくなる、あるいは極端に減少するのではないかと思いますのでそういった種類のアクチュアリーのことを指して淘汰されると言っているのではないでしょうか?経営に提言したり参画するアクチュアリーがAIにとって代わられる心配はしていません。

ア会のHPによると、現在正会員は1800人強(うち現役はどのくらいだろう?ここ数年かなり増えましたね、うろ覚えですが自分が正会員になった頃はそれもそんな大昔前じゃないけどまだ1,300人くらいだった気がします)、準会員と研究会員で3,400人、この中にはもう受験してない人も含まれるが、一方、まだ合格科目のない非会員、これから受験資格を得て目指す人もいるだろうし、合計3〜4千人くらいは正会員目指している人はいるんでしょうか。申し訳ないですが、その全員が受かる訳ではないし、万が一そうなったら資格の価値はガタ落ちだし、世代交代を加味したとしても、今の業界にそこまでの需要はないです。ただし、アクチュアリー正会員になれるポテンシャルのあるくらい数理的素養のある理系人材の需要はどんどん高まっているように思います。かといって、そのポテンシャルの証明のためだけにアクチュアリー試験を受けるのは、あまりにもコスパ悪い気がします。というのは、アクチュアリーはやはり所詮は業界資格なので他業界で働く人の取る資格としては適していないと思うからです。昨今、アクチュアリーの活躍する場が広がっているとよく聞きますが、広がっている分野で活躍する方々を見るにアクチュアリー資格自体を生かしているようには見えません(間違っていたらすみません)。そのような優秀な方々は3-4年で資格を取ってしまうのかもしれないので、その場合アクセサリー程度の目的でも許容範囲かもしれませんが、最終的にアクチュアリーじゃない業界で働きたいのに7-10年もかけて正会員資格を取るのだとすると明らかにコスパ悪いでしょう。
また、アクチュアリーの世界で生きていくキャリアプランの人にとっても10年以上かけるのはあまりコスパがいいとは言えないかもしれません。正会員になる代わりに語学やコミュニケーションスキル等、別の能力を磨いて差別化を図り活躍されている方も大勢います。ここで10年と書きましたが、じゃあ10年でスパッと諦めるべきかと言うとそういう意味ではありません。もう少しで受かりそうならもう2〜3年続けても良いでしょう。10年、しかも毎年結構頑張ったのにまだまだ受かる見通しがないならやめたほうが良いでしょうし、手ごたえによってはもっと手前で、早ければ3、4年で見切りを付けて諦めても良いと思います。繰り返しになりますが、受け続ければ全員がパスできるという試験ではありません。ただ、長くかかっている人で毎年全力で取り組んでるのにと言う人はあまり見たことがありません(もちろん努力を外に見せないようにしている人もいるでしょうが)。自分の経験上も、年によってムラがあり、本気で勉強した期間は高々4〜5年だったなと思います。

とりとめもなくなってきましたが、無理矢理まとめると、

アクチュアリー正会員資格は社内的にマストではない(国内大手中心にマストな会社もあるので要注意)。
ただ、資格相当の専門性は必須なので、まだ受かる気力のある年齢なら取っておくのがベター。
資格を取って安泰ではなくそれ(資格に相当する専門性)をいかに生かして価値を出せるかが勝負。
作業の歯車的アクチュアリーは淘汰される。経営に参画or提案できるアクチュアリーになるか、替えの効かない別のスキルを併せ持つアクチュアリーを目指すべき。
生保・損保・年金およびその隣接業界(再保、
監査法人、アクチュアリーファーム、等)以外で働くキャリアプランの人にとっては、業務内容と試験内容が適合せず、必ずしもコスパは良くないかもしれない。
資格取得にかけた時間対対価(正会員資格による生涯上乗せ年収期待値)という観点もあると思いますが、ここでは触れません。
最後に完全に個人的意見ですが、これから目指す人には、アクチュアリーを職業として選んだのなら、資格がなくても業務できようが、コスパがどうとか関係なく、そんなことは後から考えればいいので、まずは資格くらい取ろうよ!と言いたいです。で、よく言われることですが、取るのがゴールじゃなくてあくまでスタートライン。その上でプラスαの付加価値を身に付けて活躍することでアクチュアリー自体の価値も上げていきましょう!

以上です。乱筆乱文にお付き合いくださりありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?