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グラス・ルイスの2024年版 日本向け議決権行使助言基準改訂動向

皆さん、こんにちは。
アクロポリス・アドバイザーズです。

今回は投資家の議決権行使判断に影響を与える、議決権行使助言会社であるグラス・ルイスの”2024年版 日本向け議決権行使助言基準改訂動向”についてお伝えしたいと思います。


■グラス・ルイスの概要


グラス・ルイス(正式名称:Glass, Lewis & Co.)は、アメリカの大手プロキシー・アドバイザリー・サービス企業です。
2019年春の時点で、グラス・ルイスは投資信託のプロキシー・アドバイザリー市場の28%を占めており、これはInstitutional Shareholder Services(ISS)に次ぐ市場第2位の企業です。
サンフランシスコにて設立され、現在も同市に本社を置くグラスルイスは、米国(カンザスシティ)、欧州(英国、アイルランド、ドイツ、フランス)、アジア太平洋(オーストラリア、日本)の各オフィスでもサービスを展開しています。

グラス・ルイスが提供する主なサービスは、株主総会の議案の調査と議案に対する賛否推奨レポートの提供です。世界の約100市場において、毎年30,000件以上の議案をカバーしています。

ISSと同様グラス・ルイスの議決権行使助言基準を参照し、議決権行使判断をする機関投資家や、議決権行使基準を策定する際のベンチマークとして活用している機関投資家も一定数存在しており、グラス・ルイスの議決権行使助言基準の改定動向を把握しておくことは非常に重要です。

■2024年版 日本向け議決権行使助言基準改訂動向


今回の主な改訂は以下5点となります。

①取締役会の構成とリフレッシュメント

2025 年以降、社外取締役全員または社外監査役全員の在任期間が連続 12 年以上の場合、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社では取締役会議長、指名委員会等設置会社では指名委員会委員長に対して、反対助言を行うとの内容に変更されました。

(出典)https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf?hsCtaTracking=9a21ebe8-a4fa-4caf-bdb5-de4db05dc91e%7C5e7bce91-0659-405d-ad47-f8683d206af7


②ジェンダー・ダイバーシティ

プライム市場上場会社の取締役会に占める多様な性別の取締役の比率を10%以上求める方針に付随していた例外条項(※)の適用が停止されます。
これにより多様な性別の取締役比率が10%に満たない場合は、例外なく監査役会設置会社または監査等委員会設置会社では取締役会議長、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長の選任に対して、反対助言が行われることとなりました。

※例外条項とは、ダイバーシティ促進に関する企業の開示情報を精査し、現状の不十分なダイバーシティに関する十分な説明、今後の改善計画や取組みなどが開示情報において確認できる場合には、不十分なジェンダー・ダイバーシティを理由とした反対助言を控えることもあるということ

また、2026 年以降に開催される株主総会からは、プライム市場上場企業の取締役会には、最低でも 20%以上の多様な性別の取締役を求めるとのことでした。

(出典)https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf?hsCtaTracking=9a21ebe8-a4fa-4caf-bdb5-de4db05dc91e%7C5e7bce91-0659-405d-ad47-f8683d206af7


③ 過剰な政策保有株式

政策保有株式に関しては、2025年以降以下の内容に変更されます。

・政策保有株式の保有比率を今後 5 年以内に対連結純資産の20%以下にするための明確な縮減目標値と期日を含む縮減計画が開示されている場合には、本基準における取締役への反対助言を控えるとのこと

・政策保有株式の保有比率が対連結純資産の 10%以上 20%未満の場合には、当該企業の過去 5 事業年度の自己資本利益率(ROE)の平均値が 8%以上、あるいは直近事業年度の ROE が 8%以上である場合、反対助言を控えるとのこと。

(出典)https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf?hsCtaTracking=9a21ebe8-a4fa-4caf-bdb5-de4db05dc91e%7C5e7bce91-0659-405d-ad47-f8683d206af7


④ サイバーリスクの監督

サイバーリスクの監督に関して、”全ての企業にとって重大な懸念事項である”とのことから新たな論点が追加されました。
そのため、全ての企業に対して、サイバーセキュリティに関わる事項を監督する取締役会の役割について、明確な開示を行うことを推奨するとしました。
原則として、サイバー関連の問題における企業の監督や開示に基づいた助言判断は行わないものの、サイバー攻撃によって株主に重大な損害が生じた場合、この点に関する企業の情報開示を精査し、その開示内容や監督が不十分であると考えられる場合には、しかるべき取締役に対して反対助言を行う場合もあるとのことです。

(出典)https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf?hsCtaTracking=9a21ebe8-a4fa-4caf-bdb5-de4db05dc91e%7C5e7bce91-0659-405d-ad47-f8683d206af7


⑤ 気候関連問題に対する取締役会の説明責任

これまでは、Climate Action 100+などの団体によって特定された企業(大企業の中でも特に規模が大きい企業)でかつ、温室効果ガス排出が膨大である企業を対象に、気候関連問題に対する取締役会レベルの監督責任を明確に定義した開示がない場合や、または、開示が著しく不十分であると判断した場合には、その責任があると思われる取締役の選任議案に反対助言を行うととの基準がありました。

今回の改定ではその対象が、”企業の温室効果ガス排出が、財務上重大なリスクであるとサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が 判断した業種に属する日経平均株価指数構成企業、及び排出量や気候変動への影響、あるいはステークホルダーの関心が高く、財務上重大なリスクであると考えられる企業”に拡大されることとなりました。

(出典)https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf?hsCtaTracking=9a21ebe8-a4fa-4caf-bdb5-de4db05dc91e%7C5e7bce91-0659-405d-ad47-f8683d206af7

グラス・ルイスの日本向け議決権行使助言基準については以下に全文記載されておりますので、興味ある方はご覧ください。
2024年 日本向け議決権行使助言基準

■おわりに

本日は機関投資家の議決権行使の判断に影響のある、グラス・ルイスの2024年版 日本向け議決権行使助言基準改訂動向についてまとめました。

議決権行使助言会社については、その在り方について様々な議論はあるものの、現状は一定の影響力のある存在であり、その動向を把握しておくことは重要です。

本Noteが皆さまの企業価値向上の一助に繋がれば幸いです。


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