烈車戦隊トッキュウジャー 通過駅「虹の守り人」

 荒野に1人、佇む男がいた。オレンジの特徴的なジャケットと作業用のヘルメットを身につけたその男は、荒野に刺さった剣を暫く見つめていた。男は1本のバラをその剣の近くにそっと置くと、ハーモニカを奏で始めた。男が奏でるメロディは哀愁漂う雰囲気で、そんなメロディが荒野に響き渡った。

「…明さん」

 声をかけられた男、虹野明が振り返るとそこには怪物の姿をした女性が立っていた。

「グリッタか」

 明がその名前を呼んだ。グリッタもまた、剣にバラを捧げた。

「もうあれから10年も経つんですね」
「そうか…10年も経つのか…」

 2人は剣の持ち主、シュバルツ将軍に思いを馳せる。ここは10年前、シュバルツが闇の皇帝ゼットとの戦いの中、グリッタを庇って散った地である。2人は戦いの後、毎年ここを訪れている。彼の最期はレインボーラインには勿論、シャドーラインにも属さないものであった。だからこそ、この2人だけは彼を毎年弔うのだ。

「最近はどうなんだ」
「変わりないですよ。ゼット様も闇の中で深い眠りについておられます」

 グリッタはシャドーラインの管理だけではなく、闇の皇帝ゼットの眠りを見守る役割も負っていた。

「明さんの方はどうですか?ライトさん達も」
「俺は変わらんな。ライト達はこの10年ですっかり大きくなった。一緒に戦っていた頃に似てきた。ただ…」

 明の顔が少し曇る。グリッタはそんな明の様子に首を傾げる。

「どうやら見えなくなったらしい。レインボーラインも、俺のことも」
「えっ…」

 レインボーラインはイマジネーションが豊かな人にしか見ることができない。今は完全にレインボーラインの人間となった明も、それの例外ではない。大人になったライト達は、イマジネーションを失ってしまっていたのだ。

「そうでしたか…」
「まあ仕方がない。そうなっても俺はあいつらとレインボーラインを守り続ける約束をしたしな」

 明は小指を立てる。

「約束…ですか」

 グリッタも真似して小指を立てようとしてみる。

「それに…いつかまた会って、話したりできる日がくる…気がする」

 明はグリッタの方を向いた。

「フッ、俺としたことがお喋りしすぎたな」

 そういう明の顔には明るい笑顔が浮かんでいた。

「そうですね、きっとそのはずです!」

 グリッタが答える。2人は再びシュバルツの剣を見つめた。来年も変わらずここに来ることになる。2人はそう思い、別れの言葉をかけようとした。その時だった。
 上空に黒い大穴が開き、中から汽笛のような音が聞こえる。

「危ない!」

 明がグリッタに飛びかかる。2人がさっきまでいた場所に黒い列車…いや、烈車が通る。

「シャドーライン!?なんで!私が管理しているクライナーはこの世界に来ないはずなのに!」
「ついにこの時が来たか…」

 この事態を見通していたかのような明の言葉に、グリッタは驚く。

「それは一体…」

 シャドーラインのクライナーからクローズ達と1人のシャドー怪人が降りてきた。

「これはこれは…よもやこんな所で出会うとはな。グリッタ嬢に…ザラム」

 黒々とした大穴を思わせる見た目をしたそのシャドー怪人は、明とグリッタの前に立つ。

「お前…ブラックホールシャドーか」
「いかにも。私はヘイ大公が腹心、ブラックホールシャドー。我が主、ヘイ大公がシャドーラインを手に入れるため、そしてこの地上を闇で覆うための尖兵として送り出されたのだ!」

 ブラックホールシャドーと名乗るシャドー怪人が高らかに笑う。

「ヘイ大公…彼は過去に倒されたはずでは!?」
「恐らくあの時、奴を倒し切ることができていなかったんだろう。そのまま息を潜めてこの時代まで生き延びた…」

 グリッタの疑問に明が答える。

「この時代にはトッキュウジャーが力を失っているだろうからな。となれば邪魔者となるのは、シャドーラインの管理者であるグリッタ嬢と、レインボーラインに身を置くザラム、貴様らだけだ」

 ブラックホールシャドーが明とグリッタを指差す。

「なるほどな。だが残念ながらそれは叶わない。お前に俺は倒せんし、あいつらには指一本触れさせない」

 明が前に出る。明は懐から携帯端末型の変身アイテム、アプリチェンジャーと、ビルドレッシャーを取り出す。アプリチェンジャーの変身アプリを起動させ、画面部分をスライドさせると、線路のような部分が露出する。

『変身いたしまーす、白線の内側まで下がってお待ちください!』

 明とブラックホールシャドー達の間に白線が敷かれる。

「トッキュウチェンジ!」

 明がビルドレッシャーをアプリチェンジャーの線路にスキャンする。明が光に包まれ、オレンジに輝く姿へと変わる。

『トッキュウ〜6号〜トッキュウ〜6号〜』
「ハッ!」

 姿を現したトッキュウ6号に対して、ブラックホールシャドーはクローズ達に合図をして、突撃させる。トッキュウ6号がグリッタの方を振り返る。

「隠れてろ」

 グリッタは言われた通り、物陰に姿を隠した。トッキュウ6号が専用武器、ユウドウブレイカーを構える。

「ユウドウブレイカー!」

 勇ましい声と共にトッキュウ6号は、ユウドウブレイカーを向かってくるクローズに投げつけた。
 1人のクローズの頭部にそれが直撃し、倒れる。周りのクローズがそれを見て困惑しているところに、トッキュウ6号が飛び込んでいく。襲いかかってくるクローズ達を、トッキュウ6号が野性味あふれるパワフルな技で次々と倒していく。
 次々とクローズが倒されていく様子を見ていたブラックホールシャドーは、遂に自らもトッキュウ6号に向かっていく。クローズを片付けて終えたトッキュウ6号が、ブラックホールシャドーの攻撃を受け止める。

「平和ボケしているかと思っていたが、腕は鈍っていないようだな、ザラム」
「フン、残念だったな」

 トッキュウ6号がブラックホールシャドーを突き飛ばす。トッキュウ6号がパンチのラッシュを仕掛け、それで出来た隙に対して、跳び回し蹴りを放つ。それによってブラックホールシャドーが大きく怯む。トッキュウ6号はさらに、その回し蹴りの勢いで倒れそうになる自分の体を両手をついて支え、馬の後ろ蹴りのように後ろ向きに両足で蹴りを放つ。もろにそれを喰らったブラックホールシャドーは吹き飛ばされる。

「やるな…流石はヘイ大公が"最強のシャドー怪人"と評価するだけはある…だか私も…!」

 ブラックホールシャドーはそういうと、体から凄まじい闇のオーラを放つ。

「キャッ!」

 隠れていたグリッタもあまりの勢いに悲鳴をあげる。グリッタ近くにいてたトッキュウ6号は吹き飛ばされた。

「これほどの凄まじい闇を…」
「私は皇帝陛下が敗れてからの10年間、密かに暮らしながら人知れず闇を集めていた。これだけの闇の力があれば、お前、そしてトッキュウジャーも簡単に捻り潰せる!」

 ブラックホールシャドーが手から黒い光弾を連射する。トッキュウ6号はそれらを避けながら、落ちていたユウドウブレイカーを拾い、ドリルレッシャーを装填する。

『オーライ!オーライ!』

 トッキュウ6号がユウドウブレイカーを銃のように構える。そして、必殺のトルネードビームを放つ。

「ブラックホール!」

 ブラックホールは手のひらを前に突き出して叫ぶ。するとその手のひらにブラックホールが発生し、トッキュウ6号の必殺技が吸収されてしまう。

「何!?」
「驚くのは早いぞ!ホワイトホール!」

 次にブラックホールシャドーが逆の手のひらを突き出すと、ホワイトホールが発生し、先程吸収したトッキュウ6号の必殺技が飛び出してきた。

「ぐわあー!!」

 トッキュウ6号は自分の技を喰らってしまい、大きなダメージを負ってしまう。

「フハハハハ!どうだ!これが10年間もの間磨き上げた闇の力!」

 ブラックホールシャドーは更に追い打ちに全身から黒い光弾を放つ。光弾は其処彼処に着弾し、爆発する。トッキュウ6号は立ち上がり、なんとかその攻撃を防ぐが、あることに気づいて飛び出した。トッキュウ6号は何かを庇うように覆い被さる。

「うわあ!!」

 トッキュウ6号の背中に黒い光弾が直撃し、苦悶の声をあげる。光弾が止み、煙の中から背中を向けたトッキュウ6号が現れる。

「まったく…お前が動いてくれりゃ、こうはならなかったんだがな」

 トッキュウ6号は庇っていたシュバルツの剣に向かって笑う。

「隙ありだ!」

 ブラックホールシャドーが再びブラックホールを発生させる。発生したブラックホールはトッキュウ6号からキラキラしたものを吸い取る。すると突然、トッキュウ6号の変身が解除される。

「何…?」
「ハッハッハ!今お前のイマジネーションの力とやらを吸収した!お前はトッキュウジャーに変身することはできん!これこそが、闇の力を高めたことによって進化した私の力!」

 明は再びトッキュウチェンジを試みるが、失敗する。

「これで邪魔者が1人消えるな」

 ブラックホールシャドーが光弾の発射の準備に入る。

「ここが俺の死場所なのか…」

 ブラックホールシャドーの手から光弾が放たれる。それが明に着弾し、爆発する。

「明さん!」

 グリッタが居ても立っても居られず、飛び出してくる。

「安心しろ、お前も同じところに送ってやる…ん?」

 ブラックホールシャドーが違和感に気づき、立ち上る爆炎に目を向ける。すると、爆炎の中からハンガーのような武器を携えた怪人の姿が見え始める。

「タンクトップシャドー!」

 明が怪人の名を呼ぶ。明を爆発から守ったのは、普段は明のタンクトップとして活動しているタンクトップシャドーだった。

「危機一髪だったな」

 タンクトップシャドーが答える。思わぬ助太刀に皆が安堵するが、ブラックホールシャドーは不敵に笑う。

「フン、1人増えたところでどうしたというのだ!」

 ブラックホールシャドーが再び構える。その時、上空から汽笛の音が聞こえると、見慣れたレインボーラインの烈車達がやって来た。

「明くん達〜!乗って!」
「急いでくださ〜い!!」

 窓からワゴンとチケットが身を乗り出して明達に声をかける。明、グリッタ、タンクトップシャドーは急いでそれに飛び乗る。
 ブラックホールシャドーがそれを追いかけるが、流石に追いつくことはできなかった。

「まあいい。トッキュウジャーに変身できないザラムなど、虫の息も同然。次のターゲットに移ろう」

***

 レインボーラインの車内。救援に来た烈車に飛び乗った明達は暫しの休息をとっていた。

「激しく危ないところだったわね〜」
「ああ、助かった」

 ワゴンと明が言葉を交わす。

「すみません、私まで乗せてもらって…」
「そんなのはいいんですよ〜それよりあのブラックホールシャドーとかいう奴が、ヘイ大公が生きてるって言ってたってホントですか?」

 申し訳なさそうにするグリッタをよそに、チケットが問いただす。

「どうやらそのようだな。それにあのブラックホールシャドーも、10年間も蓄え続けた闇の力で強くなっている。アイツもなかなかな強敵だ。タンクトップシャドーがいなかったら俺もまずかった」
「だが長く実体を保つのはまだ無理らしい。暫くはこのままだな」

 明の話にタンクトップシャドーが入ってくる。タンクトップシャドーは今は明のタンクトップになっていた。

「それに俺のイマジネーションの力も奪われてしまった。レインボーラインを見ることができる最低限は残っているようだが、もうトッキュウジャーには変身できないな」
「そうだったのね…これは激しくピンチね…」

 強大な敵ヘイ大公の魔の手、そして現れた新たな刺客ブラックホールシャドー。こちらが多勢に無勢でピンチなのは明らかだった。

「そんなことはありませんよ〜!!」

 鬱屈とした雰囲気を突き破る大声がどこからか聞こえたと思うと、1人の男が部屋に入ってきた。

「車掌…!」
「お久しぶりです、明くん。それと今の私は車掌ではなく、鉄道警察隊の隊長です」

 車掌…ではなく元車掌が、警察手帳のようなものを見せびらかす。

「さっき言ってたのって、明くんのイマジネーションが無くなることはない…ってこと?」
「教えて教えて」

 ワゴンとチケットが元車掌に質問攻めをする。

「まあまあ、落ち着いてください。そもそもイマジネーションとは、想像の力です。想像力とは一度失われてしまったとしても、幾らでも湧いてくるものです。例えば、一度スランプに陥った芸術家はもう2度と作品を生み出すことはできない…なんてことはないでしょう?その人次第で、アイデアは出てくるものです」

 元車掌は明の胸を指差す。

「人のイマジネーションは無限大です。それは誰かに奪えるものなんかじゃないんですよ」
「イマジネーションは無限大…」

 明が自分の胸に手を置く。ライト達と戦う中で得ることができたイマジネーションの力。しかし、彼らもそれを失ってしまった。それなら、元々シャドーラインの怪人だった自分がそれを失うことは、おかしくないことだと思っていた。
 そんな明をよそに、レインボーラインに総督からの緊急通達が入る。

「たった今ブラックホールシャドー民間人、特に子供を襲っているとの情報が入った。位置情報を送る。至急、対応に当たってほしい」

 そう言われるとレインボーラインの線路上のとあるポイントに反応が表示される。

「この線路は!」

 明がその場所を見るなり、声を上げた。ワゴンがそんな明に質問する。

「この線路がどうかしたの?」
「この線路は昴ヶ浜を離れたライトが、昴ヶ浜を行き来するために使っている線路だ。それに、そういえばライトがもうすぐこの街にやって来るという話を聞いた気がする。となると、アイツが狙っているのは…」

 全員の顔に焦りが見える。

「ライトくん…ですか」

 元車掌がその答えを言う。チケットが騒ぎ始める。

「だとしたらまずいですよ!彼は今、イマジネーションの力を失っています!あまりにも無防備すぎる!」

 グリッタが立ち上がる。

「私は一度シャドーラインの様子を見に戻ります。ひょっとしたらヘイ大公の軍勢を事前に止められるかもしれません」
 
 明はグリッタに向けて頷く。

「ブラックホールシャドーの元には俺が向かう。他はライト達の様子を伺っていてくれ」
「分かりました。私も鉄道警察の情報網を当たってみます。あとで合流しましょう」

 元車掌が部屋から出ていく。グリッタもそれを追って部屋を出る。

「明くん1人で大丈夫?相手は激しく強いのよ?」
「せめて僕らも一緒に行った方が…」

 明がワゴンとチケットの言葉を遮る。

「心配するな。俺が絶対にあいつらを守ってみせる。たとえそれが俺の死場所だったとしてもな」

 明も勢いよく部屋を飛び出していく。

「あ、いや、そういうことじゃなくて、明くん1人では危険なんじゃってことなんですけどー!」
「明くん、ああなっちゃうと激しく突っ走っちゃうから」

***
 
 その頃一方、とある線路。

「もうすぐここに、トッキュウジャーの赤を乗せた列車がこの線路を乗ってやって来る。変身能力を失ったトッキュウジャーなど敵ではない。この先の駅で潰す」

 ブラックホールシャドーがクローズ達を引き連れて、線路の上を歩いていく。目指すは"昴ヶ浜駅"。ライトの故郷にある駅だ。ライトはこの駅で降りる。ブラックホールシャドーはその瞬間を狙うつもりなのだ。
 着々と侵攻するブラックホールシャドー達。しかし、汽笛の音が聞こえたかと思うと、彼らの行手を阻むようにしてビルドレッシャーが現れる。中から明がハーモニカでいつものメロディをを奏でながら降りてくる。明はハーモニカを口から離し、ブラックホールシャドー達と向かい合う。

「ザラム!一体何をしにきたのだ!今のお前はトッキュウジャーにも変身できない役立たずだ。お前ごときでは私を止めることはできんぞ!」
「それがどうした。ここから先は通さん」

 明はその姿を怪人へと変えた。雨が降り始め、その姿を濡らす。

「似合っているぞ、その姿!やはりそれがお前の本質なのだ!」

 クローズが一斉に飛び出す。明も意を決したように走り出す。明は獣のように次々とクローズ達を殴り、蹴り、投げ飛ばす。そして、ブラックホールシャドーの下に辿り着く。
 明はブラックホールシャドーに向かって飛び蹴りを放つ。ブラックホールシャドーがそれを避け、裏拳を放つが、明がそれを受け止める。両者、一進一退の攻防が繰り広げられる。
 そんな時、列車が線路の上を走る音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなり、近づいてきていることがわかる。

「来たか!」

 ブラックホールシャドーは明を突き飛ばして、向かってくる列車の前に立つ。

「駅で倒すつもりだったが、仕方がない。ここで列車諸共消し去ってやる!」

 ブラックホールシャドーが手のひらにエネルギーを溜める。

「させるか!」

 明がブラックホールシャドーに飛びかかり、2人は揉み合いになる。ブラックホールシャドーが立ちあがろうとするが、明がその腕を掴み、腕挫十字固の体勢に入る。

「あ、イタっ!イタタタっ!放せ放せ!」

 ブラックホールシャドーが必死に抵抗するが、明は逃さない。そうこうしていると、列車が2人の横を通る。
 車窓から中にライトがいたのを確認できた。ライトがこちらの様子に一切気づくことなく、列車は通り過ぎて行った。

「ライト…」

 明がその名を呟く。ブラックホールシャドーはようやく明の技から抜け出し、そんな明を嘲笑った。

「フン!哀れだな。せっかく助けてやってるのに、向こうからはそれが分からんのだからな。お前の行動には何の意味もない」

 ブラックホールシャドーが明に向かって光弾を放つ。明はそれを避けるが、その瞬間にブラックホールシャドーが距離を詰める。ブラックホールシャドーは、素早く明の体にラッシュを叩き込む。明は吹き飛ばされてしまう。

「シャドーラインの力を捨て、レインボーラインの力も失った。半端者のお前では、闇を極めた私には勝てない!」
 
 ブラックホールシャドーはトドメの光弾を放つ。光弾が明に直撃し、明はその場で倒れる。ブラックホールシャドーはひらりと向きを変えて歩きだす。

「予定が狂ってしまったな。だが今からならまだ駅に間に合う」

 しかし、ブラックホールシャドーは背後に気配を感じる。

「ま…て…俺はまだ…まだ戦えるぞ…」

 ブラックホールシャドーが振り返ると、明がボロボロの体に鞭を打ち、立ちあがろうとしている姿があった。

「何故だ…!どこにそんな力が…!」
「まず順番に答えていこう…さっきお前は俺を哀れだと言ったな、かつての仲間に気づかれないのに命を張っていることに」

 明は真っ直ぐと線路の向こう側を見る。

「お前の言う通り、正直、あいつらが俺の姿が見えなくなった日からそれは感じてはいた。これを寂しい…というのかもしれない。だが、さっきライトの顔を見て決心がついた。あの日の約束、俺があいつらとレインボーラインを守り続けるという約束を果たす決心がな」

 明の体に力が籠り始める。ボロボロのはずなのに、どんどんと力強さが増していく。

「そしてお前の言う通り、俺は半端者だ。それに引き換え闇を極めたお前は強い。それは認める。だが、その両方を経験し、狭間にいるからこそ得られた強さも俺にはある。あとな…」

 明は懐からビルドレッシャーとアプリチェンジャーを出す。

「虹は雨の後に出るものだ…!」

 明はアプリチェンジャーの変身アプリを起動する。

「トッキュウチェンジ!」

 明の体が光に包まれる。激しく、そして優しい光に。そして光の中からオレンジ色の戦士が現れる。いつの間にか降りしきっていた雨は止んでいた。
 
***

 昴ヶ浜駅に着いたライトは列車を降りた。そういえばさっきここに来るまでの線路の上で、故郷に近づいてきたからなのか、ひどく懐かしい感じがしていた。自分はその懐かしさに呼ばれた気がして窓の外を見てみたが、何もなかった。
 来た線路を振り返ってみる。こちらに着くまでに一ヶ所だけ土砂降りの場所があったので、心配していたが、雨は降っていない。青空が広がっている。

「あ、虹だ」

***

『トッキュウ6号〜トッキュウ6号〜』

「バカな…!そんなはずは!」

 明がトッキュウ6号へと変身したのを見て、ブラックホールシャドーは驚きの声をあげる。奪ったはずの力をいつの間に。ブラックホールシャドーは理解が追いつかなかった。

「どうやら、ここは俺の死場所ではないらしい。さっきから勝利のイマジネーションが俺の頭に浮かんでいる。車掌が言っていたことは本当みたいだな」

 トッキュウ6号はブラックホールシャドーに向かってゆっくりと歩いていく。ブラックホールシャドーはトッキュウ6号に向かって光弾を連射する。トッキュウ6号はそれをユウドウブレイカーで捌きながら、歩みを進める。
 ブラックホールシャドーはたまらず攻撃を仕掛けるが、トッキュウ6号はそれを避けると、背後から斬りつける。怯むブラックホールシャドーに対して、トッキュウ6号が立て続けに斬る。さらにフィニッシュでその場飛びのドロップキックを喰らわせる。一連の流れを受けたブラックホールシャドーは、吹き飛ばされて転がっていく。

「まさかトッキュウジャーに変身できるとは…だがまだ私にも手はある!」

 ブラックホールシャドーはホワイトホールを発生させる。

「私は奪い取ったイマジネーションの力を我が物として実現することができるのだ!お前のイマジネーションの力をここで解放してやる!」
「何!?」

 ホワイトホールからキラキラしたものが放出され始める。

「イマジネーション、解放!!」

 ホワイトホールから発生したキラキラが波紋のように広がっていく。…が、しかし何も起こらない。

「あ、あれ?イマジネーション、解放!」

 ブラックホールシャドーは再び明のイマジネーションを解放しようと試みるが何も起こらない。辺りには虚しく風の吹く音が聞こえる。

「どうやら、使い損なったようだな」

 トッキュウ6号はゆっくりとブラックホールシャドーに近づく。

「ば、バカな…!ザラムはザラム自身の力で倒すのが美学であると思ったが…仕方あるまい…イマジネーション、解放!」

 三度、ブラックホールシャドーがイマジネーションを解放する。すると、突然ブラックホールシャドーの姿が消えた。そして、次の瞬間、驚くトッキュウ6号の背後に衝撃が襲う。

「ぐわあ!?」

 トッキュウ6号は突然の出来事に戸惑いながらダメージを受けてしまう。更に右から、左から、前から、後ろから、色んな方向からの攻撃がトッキュウ6号を襲った。なんとブラックホールシャドーが、とてつもない高速移動で攻撃を仕掛けてきているのだった。

「フハハハハ!さっきガキ達からイマジネーションを奪っておいて正解だった!」
「まさか、この力は!」

 トッキュウ6号の前でブラックホールシャドーが急停止する。

「予め何人かのガキからイマジネーションの力を我が能力とするために、奪わせてもらっていた。さっきのは世界一の足の速さを妄想するガキから奪った能力だ。そして…イマジネーション、解放!」
 
 次の瞬間、ブラックホールシャドーの体が浮かび上がる。

「これは空を飛ぶことを妄想するガキから奪った能力!」

 ブラックホールシャドーは上空から光弾を放つ。空からの攻撃に、トッキュウ6号はなす術なく翻弄される。トッキュウ6号はブラックホールシャドーのトリッキーな技の数々に、ダメージを蓄積していく。ついにトッキュウ6号は膝をつき、その場から動けなくなってしまう。

「ガキとは実に荒唐無稽な妄想をするものだな!まあ、そのお陰で助かったのだが」

 明は拳を握りしめる。子供からイマジネーションを奪い、それを"荒唐無稽な妄想"と嗤う邪悪に怒りを感じていた。だが、明は誰もイマジネーションを奪うことはできないことも知っていた。

「…ッ…お前如きに…イマジネーションは奪えない…!」
「それが遺言か!惨めな負け犬が…最後はせめて一思いに葬ってやる!」

 ブラックホールシャドーはトッキュウ6号の胸を貫こうと、手を突き出す。明は自分の感じた勝利のイマジネーションを信じて、この場を切り抜ける方法を頭の中で模索した。瞳を閉じ、イメージを作り出す。絶対に勝てる。そう信じて。
 刹那、ブラックホールシャドーの手は何者かによって止められた。いや、何者かの"剣"によって…

「何をボーっとしている、ザラム」

 トッキュウ6号が声の方へ、顔を上げる。暫く自分の前にいる姿を見ても、理解が追いつかなかった。何故?何故ここにお前がいる?

「…シュバルツ…!?」

 シュバルツ将軍。そう、今目の前にいるのはあのシュバルツだった。ブラックホールシャドーが声を上げる。

「何故、お前がいる!?」
「さあな、こちらが聞きたいぐらいだ」

 驚くブラックホールシャドーの手を振り払い、シュバルツはブラックホールシャドーに剣技を打ち込む。吹き飛ばされたブラックホールシャドーは地面を転がる。

「シュバルツ…本当になんでお前が…」
「だから知らぬと言っておるだろう。気づけばあの荒野にいて、"動かねばならない"と思った。そうすればここに来ていた」

 ブラックホールシャドーと同じように、明もこの状況を飲み込めていなかった。何故死んだはずのシュバルツが…いや待てよ。

「そうか…分かったぞ…」

 明が気づく。ブラックホールシャドーも起き上がってくる。

「何が分かったんだ!」
「ブラックホールシャドー。お前は俺のイマジネーションを奪い、そして解放した。あの時は、単にお前が扱いきれずに不発に終わったのだと思った。だが、成功していたんだ」

 明の言葉にブラックホールシャドーは困惑する。

「どういうことだ…!?」
「俺からイマジネーションを奪った時、俺はちょうどシュバルツの剣を庇っていた時だった。そしてその時、俺が想像していたことはこうだ。"お前が動いてくれりゃ、こうはならなかったんだがな"」

 そこまで明が言うと、ブラックホールシャドーがようやく気づいた。

「まさか、お前のイマジネーションを解放した時に、その妄想を実現したというのか!?」
「まあ、あくまで俺の推理だがな」
「なるほど、私が生き返ったのはザラム、そしてお前のお陰というわけか」

 ブラックホールシャドーがそれを聞いて、慌てふためく。

「ば、バカな…まるで私がお前の手助けをしたようなものじゃないか…!」

 トッキュウ6号とシュバルツがブラックホールシャドーの前に立つ。

「せっかく生き返ったんだ。久しぶりに運動したらどうだ?」
「ほう…ザラム、お前、そんな冗談をいうようになったか…」

 2人は笑みを交わす。

「ちょっと待った!」

 トッキュウ6号からタンクトップが飛び出し、タンクトップシャドーへと姿が変わる。

「タンクトップシャドー、お前暫くはこの姿にはなれないんじゃなかったのか?」
「今お前から溢れ出ている強いイマジネーションでこの姿に戻れたんだ」

 ブラックホールシャドーが更なる援軍に動揺を隠せなくなる。

「こ、これは聞いていないぞ…!」
「これがイマジネーションの力だ…!」

 トッキュウ6号、シュバルツ将軍、タンクトップシャドーの3人が横に並ぶ。

「小癪な…3人まとめて闇に葬ってやる!」

 ブラックホールシャドーが3人に攻め込む。3人はそれぞれ武器を構える。

「行くぞ!出発…進行!」

 明の掛け声で、全員走り出す。3人はブラックホールシャドーに一斉に仕掛ける。ブラックホールシャドーは、あちこちから仕掛けられる3人の攻撃を捌ききれず、翻弄される。
 3人の猛攻に吹き飛ばされたブラックホールシャドーは、再びホワイトホールを展開する。

「まだだ!イマジネーション、解放!」

 ブラックホールシャドーの腕が刀になる。

「これは侍だか忍者だかを妄想していたガキの力だ!」

 ブラックホールシャドーは巧みな剣技で、トッキュウ6号達の攻撃に応戦していく。更に回転斬りでブラックホールシャドーは、自身を囲んだ3人を退ける。
 トッキュウ6号はユウドウブレイカーを投げ捨て、身軽な素手でブラックホールシャドーの懐に入り込む。

「イマジネーション、解放!」

 ブラックホールシャドーはまたもやホワイトホールを発生させる。すると、みるみるブラックホールシャドーの体の筋肉が膨張していく。トッキュウ6号とブラックホールシャドーは、お互いの手を握り、力比べになる。しかし、ブラックホールシャドーの力は圧倒的で、トッキュウ6号は徐々に腕と手首を捻られる形になる。

「どうだ?これが力持ちを妄想してたガキのイマジネーションだ!」

 そこに、自分の剣とユウドウブレイカーの二刀流になったシュバルツが割り込んでくる。その上にタンクトップシャドーも加わり、2人がかりでブラックホールシャドーを突き飛ばす。ブラックホールシャドーは体勢を立て直し、もう一度ホワイトホールを発生させようとする。

「くっ!まだだ!イマジネーション、かい…ぐわああ!!」

 その瞬間、ブラックホールシャドーの全身に火花が散る。ブラックホールシャドーは深刻なダメージを負い、その場に倒れる。

「な、何が…何が私を…」
「今回こそ本当に扱い損ねたようだな」

 ブラックホールシャドーの疑問に、トッキュウ6号が答える。

「そ、そんなバカ…ぬ!?ぬわあ!!」

 ブラックホールシャドーの周りにホワイトホールが発生し、キラキラが宙を舞う。

「私の力が!」
「お前の力ではない!言ったはずだ、お前如きにイマジネーションは奪えない、と」

 トッキュウ6号が走り出す。それにシュバルツ、タンクトップシャドーが一列になって続く。3人は列を保ったまま、ブラックホールシャドーをすれ違いざまにそれぞれ斬り込んでいく。立ち上がったブラックホールシャドーは、光弾を連射して抵抗する。3人はそれを防ぐ。

「こんなところで、こんなところで負けるわけにはァ!!」

 ブラックホールシャドーは全身から光弾を発射する。激しい弾幕に、流石のトッキュウ6号達も防戦一方になってしまう。

「ここは任せろ」

 タンクトップシャドーは自身の体を再びタンクトップの姿に変える。そのままタンクトップシャドーは飛んでいき、ブラックホールシャドーの顔に纏わりつく。

「お、おいやめろ!」

 タンクトップシャドーの妨害を受けたブラックホールシャドーは、攻撃の手を止めてしまう。

「今だ!」

 タンクトップシャドーの合図で、トッキュウ6号とシュバルツが駆け出す。まずシュバルツが二刀流で攻撃を仕掛ける。その攻撃でブラックホールシャドーが怯んだ隙に、シュバルツはユウドウブレイカーを上に投げる。そこにはジャンプしていたトッキュウ6号がいた。ユウドウブレイカーを空中でキャッチしたトッキュウ6号は、そのままの勢いでユウドウブレイカーを振り下ろす。さらに2人はお互いの技の隙をカバーするように、連続して技を繰り出す。最後は同時攻撃でブラックホールシャドーを吹き飛ばす。

「決めるぞ」

 トッキュウ6号はドリルレッシャーを、ユウドウブレイカーに装填し、必殺の構えに入る。シュバルツも居合の構えをとり、タンクトップシャドーも自身のハンガー状の武器に力を込める。

「「「ハァッ!!」」」

 3人は同時に必殺技を放ち、それらが1つに重なる。ブラックホールシャドーはブラックホールを生成し、それを吸収しようとするが、あまりの威力にブラックホールは壊れてしまう。

「バカな!」

 3人の必殺技がブラックホールシャドーに直撃し、ブラックホールシャドーは大爆散する。

「この借り、高くつくぞ」
「何を言ってる。俺のおかげで生き返れたようなものだろ」

 勝って早々、明とシュバルツが言い合いを始める。仲裁に入ろうとしたタンクトップシャドーが異変に気づく。

「どうやらまだ終わっちゃいないようだ」 

 ブラックホールシャドーの爆発跡に闇が集まり、ブラックホールシャドーが巨大化して復活する。

「まだだァ!必ず貴様らを消してやる!」

 巨大化したブラックホールシャドーをトッキュウ6号達が見上げる。

「よし、ビルドレッシャーで行くぞ」

 トッキュウ6号はアプリチェンジャーを操作して、ビルドレッシャーを呼び出す。

「烈車合体!」

 トッキュウ6号を乗せたビルドレッシャーが変形し、巨像へとその姿を変える。

「完成!ビルドダイオー!!…ってなんでお前らがここにいるんだ」

 コックピット内にはシュバルツとタンクトップシャドーも乗り込んでいた。

「お前の運転を見せてもらおうと思ってな」
「この姿で乗るのは初めてだな」

 コックピット内で、ワイワイしているトッキュウ6号達に痺れを切らしたブラックホールシャドーが、声を荒げる。

「ふざけるのも大概にしろ!」

 ブラックホールシャドーはビルドダイオーに向かって突撃する。

「シュバルツ!そこ!引っ張れ!」
「ん?あ、ああ、これでいいのか?」

 シュバルツはコックピット内の吊り革のひとつを引っ張る。すると、ビルドダイオーの左腕が動き、ブラックホールシャドーの攻撃を受け止める。

「タンクトップ!」
「分かってる!」

 タンクトップシャドーも近くにあった吊り革を引く。次はビルドダイオーの右腕でブラックホールシャドーに反撃する。

「ぐおわ!」

 ビルドダイオーの反撃をいただいたブラックホールシャドーは、大きく後退する。

「勝手に乗ってきたんだ、少しは手伝ってもらうぞ」

 ビルドダイオーが続いて蹴りを放つが、それは避けられる。一旦距離をとったブラックホールシャドーは光弾で攻撃を仕掛ける。しかし、それをビルドダイオーは、右腕のショベルを展開して防ぐ。

「ショルダービーム!」

 ビルドダイオーはお返しとばかりに、必殺のショルダービームを撃つ。

「私の力を忘れたかァ!」

 ブラックホールシャドーはブラックホールでその攻撃を吸収する。

「ホワイトホール!」

 ブラックホールシャドーは、ホワイトホールから先程吸収したショルダービームを、ビルドダイオー目掛けて撃ち込む。

「うわあ!」
「ぬお!」
「ぐはあ!」

 ビルドダイオーのコックピット内にも衝撃が届く。

「イマジネーションの力が使えなくても、お前らに勝つことはできる!それにもうすぐヘイ大公が率いる烈車軍団が到着する!そうすればお前達は数十台のクライナーを相手しなくてはならない。どのみちお前達に勝ち目はない!」

 ブラックホールシャドーは勝利を確信して、高らかに笑う。その時だった。

「それはもう叶いません!」

 女性の声の無線が割り込んでくる。

「その声は…」
「グリッタ嬢…!」

 明とシュバルツがその声の主を呼ぶ。

「ヘイ大公の足取りを調査している最中に、クライナーの無断発進をいくつか確認しました。このクライナー達は私達が引き受けます。明さんはそちらに集中してください!」
「助かる!」

 明が答える。ブラックホールシャドーはグリッタの言葉に地団駄を踏む。

「クソッ!まあだが、あの女1人に止められる量ではない…」 

***
 
 シャドーラインの新たな本拠地。グリッタがかつてシュバルツの乗っていたクライナーロボに乗って、ヘイ大公派のクローズ達が乗り込んだクライナーの軍団と戦っていた。
 グリッタも自分の部下のクローズ達が乗るクライナー軍団を引き連れてはいたが、向こうの数が多く、ブラックホールシャドーの予想通り苦戦を強いられていた。

「このままでは…!」

 そんなグリッタの乗るクライナーの背後に、一体のクライナーロボが迫る。グリッタがその気配に気づくが、もう間に合わない。
 敵のクライナーロボの一撃が、グリッタのクライナーロボに届くその時、凄まじい闇が、グリッタを襲おうとしたクライナーロボを包んだ。クライナーロボはあまりに強大な闇の前に大破する。その闇は、他のヘイ大公側のクライナーロボ達をどんどん破壊する。

「人が寝てるってのに、うるさくするんじゃねえよ」

 そんな声がグリッタには聞こえた気がした。

「まさか、ゼット様…」

 グリッタは辺りを見渡すが、その姿は見当たらなかった。だが、この闇のおかげで形成逆転することができた。
 グリッタの乗るクライナーロボは、装備した大剣に力を込める。そのまま大剣を振るうと、斬撃波が広がり、残った敵のクライナーロボ達を一網打尽にした。

「ありがとう…ゼット様…」

***

「ザラム、ドリルレッシャーを使え!」
「ああ、そのつもりだ!」

 トッキュウ6号がドリルレッシャーを呼び出し、呼び出されたドリルレッシャーがビルドダイオーの左腕に装備される。

「完成!ビルドダイオードリル!」

 ビルドダイオードリルは、右腕のシャベルと左腕のドリルを振り回して、ブラックホールシャドーを追い詰める。

「こうなったら、お前達をブラックホールに吸い込んで、消し炭にしてやる!」

 ブラックホールシャドーがブラックホールを発生させると、ビルドダイオードリルがどんどん吸い寄せられる。

「このままでは、ブラックホールの中ですり潰されるぞ!」
「いや、問題ない」

 慌てるタンクトップシャドーに対して、トッキュウ6号は冷静な態度をとる。
 踏ん張ることを諦めたビルドダイオードリルは、一気にブラックホールシャドーの下に引き寄せられる。

「潔く諦めたか!」

 ビルドダイオードリルは、そのままブラックホールの中に入ってしまう…と、その瞬間、体を捻ってドリルを突き出す。ドリルの突きがブラックホールシャドーに直撃し、大きく怯む。

「今だ!一気に決める!お前らもそこのやつを引け!」

 トッキュウ6号の動きに合わせて、シュバルツとタンクトップシャドーも吊り革を引く。

「「「ビルドダイオーショベルドリルダブルクラッシュ!!」」」

 ビルドダイオーが右腕のショベル、左腕のドリルのそれぞれに力を込めて渾身の一撃を放つ。

「ぬおわあ!!」

 必殺の攻撃を受けたブラックホールシャドーは、全身から火花を散らす。

「ザ、ザラム…お前が私を倒したところで何も変わらない…直にヘイ大公が現れ、この世界を蹂躙する。お前以外のトッキュウジャーは変身できず、お前もなす術なく敗れるのだ…ヘイ大公…万歳!!」

 ブラックホールシャドーは最期の言葉を言い終えると、今度こそ跡形もなく爆散する。
 戦いを終え、変身を解除した明達はビルドダイオーから降りた。タンクトップシャドーもタンクトップの姿に戻り、明もそれを着ている。

「シュバルツ、今回は助かった」
「礼などいらん。私のやりたいようにやった、それだけだ」

 明とシュバルツはお互い笑みをこぼす。しかし、明がふとシュバルツの手を見ると、徐々に消えかかっていた。

「お前…!」
「何を驚くことがある。お前のイマジネーションとやらで復活したとはいえ、それを具現化したのはブラックホールシャドーだ。奴が倒されれば私は消える。単純な話だ」

 シュバルツは淡々とそう言い放った。

「だが、しかし…」
「情けは無用だ。…まあお前と最後に手合わせできないというのは少し残念だがな」

 こうやって話しているうちにも、シュバルツの体はみるみる光に変わっていく。

「グリッタ嬢は…お元気か?」
「ああ、さっきも手伝ってくれてただろ」

 シュバルツの問いに明は答える。

「そうか…礼を伝えておいてくれ」
「分かった…」

 消えかかったシュバルツの体は、もうあと少しで完全に消滅してしまう。

「私とお前の間に、感動の別れなどは必要ないだろう?」
「それもそうだな…」

 2人はまた笑い合う。

「先に行ってるぞ」
「ああ」

 シュバルツの体が完全に光となって、空へ昇っていく。シュバルツの剣だけがそこに遺された。

「仕方がない、戻しにいくか」

 明が剣を取ろうとしたその時、グリッタから通信が入る。

「明さん、どうやら私たちがクライナーの軍団に気を取られている間に、一台のクライナーがそちらに向かったみたいなんです!恐らく…」
「ヘイ大公か…分かった」

 ついにヘイ大公が動き始めた。だとすれば狙われるのはライト達だ。

「明く〜ん!」

 空からトッキュウジャーの烈車が走ってくる。ワゴンが身を乗り出しているのが見える。

「急いで乗ってくださ〜い!」

 チケットの言葉に頷き、明は烈車に乗り込む。

「ライト君達の居場所が分かったわ。今日は皆んなで久しぶりに集まるみたい」

 ワゴンは自分が知ったライト達の情報を明に話す。

「分かった、今すぐ向かおう」
「もしヘイ大公が先にライト君達に接触すれば、まずいですよ〜彼らは今トッキュウジャーに変身できませんからね!」

 チケットが不安を煽る。しかし、明は動じていなかった。

「それはない」
「「え?」」

 チケットとワゴンの2人は明の言葉にきょとんとする。

「俺でも取り戻せたんだ。あいつらならすぐに取り戻すだろう。イマジネーションが失われることは絶対にない。イマジネーションは無限大だからな」

 明は強い意志が籠った声で答える。

「さあ急ごう、ライト達の下へ!」

 明達を乗せた烈車はスピードを上げて進む。彼らの"仲間達"を目指して…!
 ここから先の話は…まあ話す必要はないだろう。もう君にも見えてるはずだ。彼らの、トッキュウジャーの勝利のイマジネーションが。

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