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俺のC97レポを別に読まないでいい

 おい、読まないでいいって言ったろ! なんで開いたんだ! そんなお前には最後まで付き合ってもらうぞ、覚悟しろ!




 ――C97も最終日が終わって、いよいよ2020年を迎えようという時に、新橋の日高屋でこれを書き始めたわけですが、まさに駆け抜けたと言っていい怒涛の年末でした。

 私事ではありますが、今回C97が初めてのサークル参加となりました。
 自分は関東とは全く縁のない地方大学生でして、そのくせ軽率に散財して全く金銭的余裕がなく、夏のC96は端から行く気がありませんでした。
 でも、それが全ての元凶でした。8月になり、Twitterを開けばコミケ一色。なのに自分はそこには入れない。さらにリアルの友人がコミケに出展している姿を見ていて、名状しがたい感情というか対抗心というかリビドーというか、そういうものがとめどなく突沸してきたわけです。『自分だってやりてぇことが沢山あるんだよ』と、羨望と悔しさで心が一杯になって、気が付いたらC97の申込書を取り寄せて、必死でサクカを描いていました。

 ジャンルはTYPE-MOON、Fate/Grand Order。新宿特異点を舞台にした、まさかの二次創作"小説"。

 頒布するなら絵を書いた方が絶対に見てもらえる。そんな事は百も承知でした。でも僕はお世辞にも絵が得意なんて言えなかった。少年ジャンプに憧れて描き始めたあの頃から、まるで成長しちゃいない。
 だから僕は文字で勝負をかけようとしました。小説をナメていたわけでは決してありません。僕はこれまで幾度となく小説を生み出そうとして、幾度となく筆を折ってきたんですから。僕のPCのストレージには、そうして生まれ落ちることのなかった無数の物語たちが積み上がっているんですから。
 僕はその中から、今回の物語を拾い上げました。このまま晴れの日を見ることなく死んでいくはずだった、嬰児のような物語を。でも、当初のプロットから話がどんどん逸れていって、あの時想定した筋書きとは似ても似つかなくなりました。だからタイトルは、『"新約" 悪性叛乱魔境 新宿』。
 夏の終わり頃、僕は原稿を書き始めました。受かるかも分からない、あの冬の祭典のために。大きいジャンルなら9割が受かると言われたって、自分自身が受かることなんて想像がつきませんでした。だから、当然の如く筆は進まない。虚弱なインスピレーションばかりが湧いて、それを文字に起こす気力もない。そうしていたずらに時間は過ぎていきました。
 そして11月1日、当落発表日。――そこには、2日目に配置が決まった自サークルの名前があったのです。
 逃げ場は無くなりました。喜びはもちろんありました。サークル初参加。一度きりの、かけがえのない体験に違いはありません。
 でも不安とプレッシャーがあまりに大きすぎました。僕が申し込みをしたきっかけの友人は落選。贔屓にしている作家さんのサークルが落選したという報告もいくつか見ました。こんな実績も成果もない人間が、果たしてスペースひとつ戴いていいのかと、卑屈にも考える時間が多かったように思います。
 とはいえ受かってしまった以上、完成させなければいけません。迫る2ヶ月後に日の目を見るべき、僕の処女作を。
 それからは我武者羅に書き続けました。大学でも、電車でも、はては飛行機でも……。当初150ページほどの予定だった物語は、到るべき結末へと向けて際限なく長くなっていきました。
 正直なところ、こんなにモリモリ書き進められる自分が不思議でした。実は当落発表が出た直後、大学のオタ仲間と飯を食う機会があり、そこで投げられた一言が、僕の闘志に火を点けたのです。

「奈須きのこに文字で喧嘩売るってヤバくない?」

 予想外の言葉。でも、それは全くもって真っ当な指摘でした。自分は奈須きのこという比べることすら烏滸がましい化物に、事もあろうか同じフィールドで勝負を挑もうとしているのだ、と。
 だからこそ燃えました。――喧嘩上等、ファッキン最高なFateの一物語を作ってやろうじゃないか。
 本当に、どうかしていたと思います。時には気持ち悪いほどニヤニヤしながら、時には壮絶に頭を悩ませながら。
 初出のサーヴァントの文献を漁り、FGO本編との辻褄を緻密に合わせる作業は苦心だらけ。本編との矛盾や解釈違いはそこら中に残っていると思います。もし、このnoteを読んでいる方の中に、会場で新刊を手に取ってくださった方がいらっしゃれば、ぜひ大目に見ていただきたく……。
 それでも、これまでのオタク人生全てを懸けて絞り出したひとつの物語。少なくとも2019年の自分にとっては、掛け値なしに渾身の一作。たとえ、時を経て読み返せば一笑に伏すのみの駄作だとしても。
 僕は、自ら紡いだ物語を、初めて世に送り出すことができたのです。

 ――その昔、僕はニコニコ動画にどっぷり浸かっていました。今でも時々覗きには行きますが、それとは全く比べ物にならないほど。休日ともなれば、文字通り一日中。
 しばらくしてTwitterも始めていました。今のアカウントではないですが、ニコニコの投稿者を見るためのROM垢として。それとほぼ同時期に艦これが流行り始め、沢山のクリエイターが素晴らしい作品を送り出していました。
 僕にとって、それはあまりに華々しい世界でした。ただ与えられるだけではない、自ら何かを生み出せる世界。同時に、そこでコミケという存在を知り、憧れました。
 でも結局のところ、憧れとは遠い世界に抱く感情。自分には手の届かない領域。小手先に真似をしてみては、自分に絶望して辞めることの繰り返し。そんなもの、一朝一夕でどうにかなるものじゃないと、痛いほど分かっているはずなのに。
 そうやって勝手に臆病になって、そのくせ「何も生み出せない人間にはなりたくない」なんて愚痴る。そんな自分が、心底嫌だったのです。
 だからC97というイベントは、僕という人間にとって、大きな大きな救いだったのかもしれません。――まだ、そんな実感はあまり無いですが。


 さて、C97レポと言いながら自分語りばかりで、ここまで全く当日の話をしていないですが、そろそろ本題を戻そうと思います。

 僕が東京入りしたのは28日の夕方でした。サークル申し込みをしたときに「万が一受かったらサクチケ送りつけるわガハハwww」と脅していたマロ兄貴が本当に来てくれることになったので、合流して翌日に迫ったサークル参加日の打ち合わせをしました。
 マロ兄貴は当初、純粋に手伝いで来てもらうつもりだったのですが、気付いたらコピ本を作り始めていました。ところが彼、この時点でまだ原稿が完成しておらず、

『品川のキンコーズで当日29日の0時51分に脱稿する』

 というエクストリーム極道入稿をかましていました。「もうやらねぇ」と本人は発言していましたが、また出展の機会があったら絶対やらかすと思います(偏見)。

 そんなわけで、無事(?)頒布物も出揃い、29日のサークル参加当日を迎えたわけです。
 新橋のセブンイレブンで朝っぱらからポスター擬きを印刷し、ビッグサイトに向かいました。自分がサークル入場することにフワフワした不思議な感情を覚えながら、自分のスペースに到着。
 西1ホール"ほ"-20a。そそくさと設営準備を完了させ、残った時間はその日のサークルチェックなどしていました。
 見本誌提出のとき、コミケスタッフさんがあまりに真剣にチェックをするので、二人とも中身に文字情報しか書いてないのに妙に緊張。まあ何事もなかったんですが。

 そして、10時。ついに開場の時を迎えました。
 当然のごとく我々のスペース前は、ただの壁サーへの通り道となり、こちらには目も暮れず。
 開場から30分ほど経ったところで、「売れる気しねぇわwww」などとほざきながら僕は買い出しへ。するとその直後、スペースのマロ兄貴からLINE。

「新宿本1冊売れた」

 マジで??????
 売れたこと自体への驚きよりも、記念すべき最初の一冊が、まさか本人不在のところで旅立つという悲劇。
 大急ぎでスペースへと戻り、状況確認。積んでいた本が、確かに1冊無くなっていました。女性の方が買っていった、という報告を受け、顔も知らぬその方にひたすら「ありがとう………ッッッ!」と心の中で叫び続けました。
 その後は、双方の知り合いが駆けつけたりしながら少しずつ売れていきました。僕に関しては今回のコミケに来られない知り合いが多かったのですが、足を止めて中身を見てくれた人、その上で買ってくれた人、さらには訪れていきなり「1冊ください」と言ってくださる人……。無名で初参加のサークル、しかも小説を、その場で買ってくださる人が本当に居るのだと思うと、ただひたすらに嬉しさで一杯でした。
 もっとも、頒布できたのはごく少数。たったの12冊。比〇〇業さんなら10秒で捌けていく冊数。それでも、僕の書いた小説を求めてくれる人が、1500円も出して読みたいと思ってくれる人が、確かにそこには居たのです。
 それだけで報われた気がしました。もとより1冊売れるか売れないかで臨んだサークル参加日。16時、そこにはあまりに大きな成果が残っていたのです。

 その夜は、ひたすら戦利品を読みふけり、どちらかというと余韻に浸る余裕は無かったように思います。
 でも、こうしてC97が終わり帰路につく中で振り返ってみると、本当に濃い4日間、そして濃い2ヶ月間だったという認識がやっと湧いてきました。そう思う余裕が、やっとできました。

 こんな小さな一歩を大仰に記す僕を、どうか笑ってやってください。ただの自己満足だとは分かっていますから。
 これは、自己満足すらろくにできなかった一人のオタクが、やっとの思いで自己満足を得られたというだけの、ただそれだけの話なのですから。

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