金商法監査と会社法監査の違い

はじめに

Twitterで金商法監査と会社法監査の違いがわからないという(他人の)質問箱を見ました。上記の違いについては、私もよく整理できていない状況でしたので、自分の理解の確認や整理、深掘り、自分の分からない部分を把握するという目的も込めて、Noteを書いていこうと思います。また、文章に起こしてみて、わからないところについては次の期末で潰しこもうと考えています。正直な話、教えられるほどの理解はないものの、来年は後輩が入ってきますのでその予行演習としてこちらに整理できればと思います。1年目が理解できるのはこの程度かくらいのノリで、温かい目で見ていただければと思います。(そもそも誰にも見られない可能性も大いにある。)

先輩方へ、違った場合には教えてください。お願いします。

整理

まとめると下記のようになります。

  1. 金商法監査にはJ-SOXがあるが、会社法監査にはない。

  2. 金商法監査には四半期レビューがあるが、会社法監査にはない。

  3. 開示

  4. スケジュールの違い(1年目で期末の忙しさに流されわかっていない。(クソゴミ)会社法が先なのはわかる。)

上記のうち1.2.3.について根拠を説明した後、上記の違いが監査に及ぼす影響を書きたいと思います。4.は理解できていないので書きません。

根拠

金商法監査

根拠条文は金融商品取引法 第193条の2の1項2項です。
そのうち、1項が財務諸表監査2項がJ-SOX(試験でいう内部統制報告書制度)に該当します。なおJ-SOXとUS-SOXの関係だったり導入の話は、各自調べていただけるとありがたいです。
また、5項について気になったので調べましたが、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令が該当します。
また、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の3条に財務諸表は監査四半期財務諸表は四半期レビューで監査証明してねとあります。

(公認会計士又は監査法人による監査証明)
第百九十三条の二 金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他の者で政令で定めるもの(次条において「特定発行者」という。)が、この法律の規定により提出する貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類で内閣府令で定めるもの(第四項及び次条において「財務計算に関する書類」という。)には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。(以下略)

2 金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他の者で政令で定めるもの(第四号において「上場会社等」という。)が、第二十四条の四の四の規定に基づき提出する内部統制報告書には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

5 第一項及び第二項の監査証明は、内閣府令で定める基準及び手続によつて、これを行わなければならない。

金融商品取引法

(監査証明の手続)
第三条 財務諸表(財務諸表等規則第一条第一項に規定する財務諸表をいう。以下同じ。)、財務書類又は連結財務諸表(以下「財務諸表等」という。)の監査証明は、財務諸表等の監査を実施した公認会計士又は監査法人が作成する監査報告書(その作成に代えて電磁的記録(法第十三条第五項に規定する電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)により、中間財務諸表(中間財務諸表等規則第一条第一項に規定する中間財務諸表をいう。以下同じ。)又は中間連結財務諸表(以下「中間財務諸表等」という。)の監査証明は、中間財務諸表等の監査(以下「中間監査」という。)を実施した公認会計士又は監査法人が作成する中間監査報告書(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)により、四半期財務諸表(四半期財務諸表等規則第一条第一項に規定する四半期財務諸表をいう。以下同じ。)又は四半期連結財務諸表(以下「四半期財務諸表等」という。)の監査証明は、四半期財務諸表等の監査以下「四半期レビュー」という。を実施した公認会計士又は監査法人が作成する四半期レビュー報告書(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)により行うものとする。
2 前項に規定する監査報告書、中間監査報告書及び四半期レビュー報告書に係る電磁的記録は、作成者の署名に代わる措置として、作成者による電子署名(電子署名及び承認業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項の電子署名をいう。)が行われているものでなければならない。
3 第一項の監査報告書、中間監査報告書又は四半期レビュー報告書は、一般に公正妥当と認められる監査に関する基準及び慣行に従つて実施された監査、中間監査又は四半期レビューの結果に基いて作成されなければならない。
4 金融庁組織令(平成十年政令第三百九十二号)第二十四条第一項に規定する企業会計審議会により公表された次に掲げる監査に関する基準は、前項に規定する一般に公正妥当と認められる監査に関する基準に該当するものとする。ただし、第五号に掲げる基準は、次項の規定により適用される場合に限る。
一 監査基準
二 中間監査基準
三 監査に関する品質管理基準
四 四半期レビュー基準
五 監査における不正リスク対応基準

財務諸表等の監査証明に関する内閣府令

会社法監査

会社法監査の根拠条文は会社法436条2項1号になります。

第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

第四百三十六条 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。
2 会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。
一 前条第二項の計算書類及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)及び会計監査人

会社法

こちらは計算書類とその附属明細書に対する監査のみ(J-SOXなし)になります。
また、四半期レビューは求められていません。

法律上・制度上は上記が違いになります。

監査に及ぼす影響

  1. 金商法監査にはJ-SOXがあるが、会社法監査にはない。

  2. 金商法監査には四半期レビューがあるが、会社法監査にはない。

  3. 監査対象が計算関係書類か財務諸表か

  4. スケジュール感(よくわかっていないので略)

上記が具体的に監査上どのような影響をおよぼすのか下記記載していきます。

1.金商法監査にはJ-SOXがあるが、会社法監査にはない。

まずはJ-SOXの有無についてです。J-SOXは内部統制報告書制度のことを指します。手元のテキストを見るとわかりやすいのですが、財務諸表監査とは別の章で取り上げられているかと思います。会社法監査ではこの話を考えなくて良くなります。全社的な内部統制→業務プロセスに関する内部統制、その中でも決算財務報告プロセスとそれ以外、重要な拠点(売上2/3)の事業目的に大きく関わる勘定科目等々が全部不要になります。

【余談①】金商法の親会社があるときに、会社法のみ適用の子会社が重要な事業拠点に該当した場合には、親会社に適用される金商法のためにSOXを行ったりします。なので子会社に行ったりすると「このプロセスって評価範囲でしたっけ?」という会話や、子会社A・Bを担当しているときに「あ~子会社Aの売上に関するプロセスは評価範囲だけど、子会社Bは評価範囲じゃないのか~」みたいな罠があったりします。私の場合急に「J-SOX目的だから」とか「財務諸表監査目的だから」とか言われて、何が違うん?ってなってました。なお今も完全に理解しているとは言い難いですが、下記でもう少し言及します。

話を戻しますが、SOXがない場合には、内部統制周りの手続きはどうなるのでしょうか。J-SOXがない場合には、内部統制の整備評価は重要な虚偽表示を発見・是正する内部統制に対して行い、運用評価は内部統制の依拠を予定する場合に行います。(財務諸表監査のページベース)
一方、J-SOXがある場合には財務報告の信頼性を確保するための内部統制が整備・運用されているか評価する必要があります。(内部統制報告書制度のページベース)
上記が何が違うのかというと、J-SOXがある場合には、監査上依拠しないにも関わらず基本的には運用評価手続を実施しなければならないということです。具体的なイメージをつけるために下記を読んでみてください。

a. 運用状況の検討の内容及び実施方法
監査人は、評価対象となった業務プロセスに係る内部統制の運用状況を理解
しなければならない。そのため、監査人は、経営者の内部統制の運用状況に関する「Ⅱ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)に記載の内部統制の記録を入手し、関連文書の閲覧、適切な管理者又は担当者に対する質問等により、内部統制の実施状況(自己点検の状況を含む。)を検証する。また、記録の閲覧や質問等では検証が困難な場合には、業務の観察や、必要に応じて適切な管理者又は担当者に再度手続を実施させることによって検証する。以上の手続については、基本的に、監査人自ら選択したサンプルを用いた試査により適切な証拠を入手する方法で行われる(例えば、日常反復継続する取引について、統計上の二項分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも 25 件のサンプルが必要になる。)。

上記は財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(令和元年12月6日時点)(2)業務プロセスに係る内部統制の評価の検討から引用してきました。
上記では日常反復的な取引について例が挙げられています。日常反復的な取引というのは日頃から行っている業務と考えていただければと思います。多分、一日一回は売上や仕入が行われますかね?実際は考え方が色々あるかと思いますが、あくまでも上記に倣えば、日常反復的な取引に関する業務プロセスが4つあったら100件分手続を実施する必要があります。”感謝”の時間が長くなります。感謝の100件バウチとか言っている原因の一つはこれが理由です。また、会計士の方が統計を勉強し始めるのも、上記の25件の算出方法などを理解しようとしているのだと思います。

違いが出るのは運用評価手続のみではありません。運用評価手続で不備が出たときの対応も少し異なります。J-SOXがある場合には、内部統制の不備→開示すべき重要な不備か否かの判断まで行うことになります。ない場合には財務諸表監査として考えて、開示すべき重要な不備の話にはなりません。

【余談②】金商法の親会社が存在し、会社法の子会社のJ-SOXの評価範囲に不備があった場合には親会社にまで影響が及びますので、影響度合いも異なります。「うち会社法なんだよね」と主査に言われて、調書に”当該調書はJ-SOX目的である”と言及されていた場合、不備が出たら親会社までいくなと想像しながら”感謝”することになります。

なお、J-SOX目的の内部統制のテストで不備が出たとしても、内部統制に依拠しない場合には子会社の財務諸表監査上ではあまり影響がない認識です。(違ったらごめんなさい。ここ不安ポイントなのであまり信用しないでください。)

【余談③】”統制上の要点”という概念がありますが、こちら一般的にキーコントロール(キーコン)と呼ばれています。業務プロセスのテストは、すべての統制に対して行われるのではなく、キーコントロールに対して行われます。こちら重要な概念ですので、頭に入れておくとよろしいかと思います。

経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、評価対象となる内部統制の範囲内に ある業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点 (以下「統制上の要点」という。)を選定し、当該統制上の要点について内部統制の基本 的要素が機能しているかを評価する。

(3)業務プロセスに係る内部統制の評価

上記まとめると、当たり前のことなのですが、財務諸表監査のみならず内部統制監査についての影響や手続を加味しなければならないという点が大きなポイントになります。その結果として、運用評価の実施や重要な不備の話が出て来るというイメージです。余談で出してますが、金商法の親会社が存在する会社法の子会社の監査を実施するときに、財務諸表監査目的なのかJ-SOX目的なのかを意識する必要があるかと思います。

2.金商法監査には四半期レビューがあるが、会社法監査にはない。

これ特に言うことが思いつきませんでした…レビューが必要か否かになります。
強いて言うなら、期間帰属を考える際に会社法だと1年ずれていなければ財務諸表上に影響は与えないが、金商法監査だと四半期財務諸表に影響を与えるのでその点を留意する必要があるというところでしょうか。

また、金商法の親会社が存在する場合には、会社法の子会社チームも分析的手続、質問を実施しますのでその点は留意する必要があります。

3.監査対象が計算書類及び附属明細書か財務諸表か

こちらが大きく異なるのは開示かと思います。
下記とても見づらいのですが、左が財務諸表等規則(財務諸表)の注記が求められている記載、右が会社計算等規則(計算書類)の個別注記表の記載になります。受験生のときは注記についてあまり意識していないかと思いますが、監査上の虚偽表示が開示にまで影響する可能性がありますので、どんなものが開示されているのか、自分の勘定科目がないか調べておく必要があります。

注記

同様に左が財務諸表等規則(財務諸表)の附属明細表で求められている記載、右が会社計算等規則(計算書類)の附属明細書で求められている記載になります。

附属明細表・附属明細書

終わりに

書いていて思ったのですが、ここが違います!と言うには経験がなさすぎました。あと、ここが違います!という部分だけ抑えると結局意識していない部分で漏れが出てしまいます。もちろんポイントを抑えるのは大切だとは思っていますが、結局基準や法律、制度についてどこに跳ねるのか毎回調べて網羅的に処理したほうが良いのだろうなと思いました。
引き続き真面目に働いていきたいと思います(小並感)
参考になれば幸いです。

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