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かぶき

過去に一度だけ、歌舞伎を観たことがある
といっても
プライベートではなく、日帰りの出張で

その出張は立候補制だった
行きたいと手を挙げたのは私一人
他の同僚は「興味ない」と知らんぷりしていた
私も歌舞伎のことは何も知らなかった けれど

観劇券も交通費も全て会社持ち
なんなら給料も発生する
行かない方がもったいない!!

自ら足を運ぶには敷居が高い歌舞伎という芸能
研修という名目で、その高い敷居を跨げるのだ
こんな絶好の機会、逃す手はない
好奇心とがめつさに突き動かされて
生まれて初めての歌舞伎鑑賞と相成った

早いもので、あれからもう、7年経つ
観た演目の物語はすっかり忘れてしまった
親子の人情話
女と男の愛憎劇
幽霊の話
たしか、こんな3本立てだったと思う
内容は思い出せないけれど
場面場面、断片的に覚えている瞬間は多い

花道をかける子役の少年の初々しさ
幽霊が障子に墨で字を書く演出
獅子の見事な舞
茶屋で美味しそうに団子を頬張る様子
「ヨッ!中村屋!」という掛け声
舞台袖から聞こえてくる和楽器の演奏
スルスルと変化する背景や舞台セット
黒子の音のない動き
舞台も花道も全部使った大立ち回り
笑い声がひとつになった「ドッ」という音
ピシャリ、しゃなり、と聞こえるような所作
耳の奥まで響く声
演技から感じるプレッシャー

新鮮な体験ばかりだった
内容がわからなくても
台詞が聞き取れなくても
夢中になれた
おもしろかった
これが歌舞伎なんだ と肌で感じた

何百年とつづく大衆の娯楽
磨き上げられた総合芸術
その厚みを体感できた気がした

たのしかったなあ
行ってみてよかった
あれ以降、ほんのすこしだけ
歌舞伎を身近に感じるようになった

歌舞伎を見るんだから!と意気込み
歌舞伎揚げを買って行って
休憩時間でボリボリかじった
歌舞伎座で歌舞伎揚げを食べる
実績を解除しました

私は2階の席だったのですが
休憩中は1階の様子を眺めるのも楽しかった
枡席を仕切っている木組みの上を
スイスイ歩き回る売り子から
皆そろって「モナカアイス」を買っていた
どうやら名物らしかった
なんだかシュールで印象に残っている

歌舞伎座の入り口がとても低くて狭くて
やっと中に入れば急な階段があって
でも、劇場は広々としていた
不思議の国のアリスみたいだな
なんて全然違うことを考えたりした


私の歌舞伎の思い出

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